351 / 364
351 王子ⅤS偽王子(猫)
しおりを挟む「えー、でも、こうしてウチに来てるってことは、王子はセルフ召喚機にセットしてあるクッキーを食べたんでしょ? なら、もういらないじゃない。だけど、猫ちゃんはおやつまだだもんねー♡」
「にゃ~ん♡」
「なっ!? 召喚主、僕に比べてそいつの扱いが良すぎないか!? 見た目が多少猫っぽいとはいえ、そいつ高レベルの地下ダンジョンをフラフラうろついてる魔物なのに!」
「……だとしても、突然知らない場所に連れてこられて、たった一人で……じゃなかった、たった一匹で置き去りにされたんだから、心細かったに決まってるじゃない。私も昼間は学校あるから、一緒にいてあげられなかったしね。だから、これは頑張ってお留守番をしてくれた猫ちゃんへのご褒美よ。それに、ゲーム機の前で固まっていた王子と違って、猫ちゃんはわざわざ玄関まで私をお出迎えしてくれたもの。ねー♡」
「にゃーん♡」
私の言葉に、可愛くお返事をしてくれる猫ちゃん。
確かに、ゲームを邪魔されたくない王子の気持ちは分かるけど、それはそれ、これはこれだ。やっぱり、その辺の心証は違います。
「召喚主! そいつ、いかにも玄関でずっと待ってましたーって顔をしてるけど、召喚主が帰ってくる10秒くらい前まで、ベッドの上にヘソ天で転がってお昼寝をしていたからな!? 大体、僕が召喚機でこっち来たときも、勝手におやつ詰め合わせの大袋を開けて魚のおやつを食べてたし! 魔物が食い散らかした残骸は、僕が責任もって片づけておいたけど!!」
「シャーッ!」
おっと、バラすなよとばかりに猫ちゃんが王子を威嚇してますね。まあ、思ったよりのびのびと過ごしていたようで良かった。
「そっか。猫ちゃんてば、よく自分で袋を開けられたわね。頑張ったねー♡」
「にゃーん♡」
「ずるいぞっ! 僕がポテトチップス盗み食いしたときは、『またなの』って呆れた顔をするくせに!」
「いや、だって。王子のはどう考えてもツッコミ待ちのわざとじゃない。だけど、猫ちゃんは王子に置いてけぼりを食らった被害者だしさ……」
「にゃーん! にゃーん!」
そうだそうだとばかりに、援護射撃をする猫ちゃん。言葉は分からずとも、その辺は何となく分かります。
「召喚主! そいつそうやって被害者ぶってるけど、昨日は召喚主の布団に入り込んで出てこなかったんだからな! 僕だって、どうにか連れて帰ろうとしたんだ! だ、だけど、その、君のパジャマの中にまで入り込んで抵抗をされてしまって、まさか、僕がて……っ、てててて手を触れるわけにもいかないし、それで仕方なくだな――」
「……猫ちゃん?」
「…………」
おっと、ここに来て猫ちゃんが自らやらかした疑惑が出てきましたよ? スッと目を逸らしたところを見ると、確信犯っぽい。
猫ちゃんてば、私が寝ている間にそんなことをしてたのか。熟睡しててまったく気が付かなかった。
「まったく、悪い猫ちゃんですねー。そんなにふかふかのお布団で一緒に寝たかったの?」
「にゃーん♡」
「ずるい! そいつにばっか甘すぎる!! 召喚主、さてはその魔物に魅了魔法をかけられているだろう!」
……失礼な。自分が魅了堕ちしたからって、王子と一緒にしないでください。私の猫ちゃんに対するこれは、あくまでも自発的なものですよ。
何と言っても、偽王子(猫)はモフモフしていて可愛いし。
確かにちょっと、気まぐれに私の命を狙ってくる魔物的要素と、それを許せちゃうくらいの小悪魔的要素も持ち合わせているけども。
その後も『ずるい、ずるい』とあまりにもうるさいので、仕方なく王子にも好物のホットケーキを焼いてあげることにした。
まあ、王子がやらかしたわけじゃないって分かったし、わざわざ猫ちゃんが食い散らかしたおやつの残骸を掃除してくれたみたいだしね。
それ自体、王子のやらかしが原因ではあるんだけど、うるさく言うと二度と猫ちゃんを連れてきてくれなくなるかもしれないし。
「はい、ホットケーキできたわよ。だけど、今はお夕飯前だからおやつは少しだけね。王子だって、夕飯残して監視の人に怪しまれたら嫌でしょ?」
「ああ、分かった。ははは、召喚主は僕の教育係とか乳母みたいだな♪」
いや、教育係はともかく、乳母って……
ニッコニコで笑う王子の嬉しそうな表情を見る限り、悪意は無さそうなんだけど、いったいどういう反応をすればよいのやら。
私が困惑している間にミニホットケーキを食べきった王子様は、「じゃー、また後で!」と言って、来た時と同じように猫ちゃんを抱いて帰って行きました。
あ。夜は夜で来るんですね。
うーん……まあ、なんだ。
色々と納得いかないところはあるけれど、とりあえず、久しぶりに猫ちゃんいっぱいモフれてよかったな! うん!
※※※※※※※
お知らせ☆
近況ボードにも書きましたが、この度『もうやめましょう。あなたが愛しているのはその人です』が書籍化されることになりました!
こちらとは違いシリアスよりのお話ですが、是非お読みいただけたら嬉しいです♪
36
あなたにおすすめの小説
ツンデレ王子とヤンデレ執事 (旧 安息を求めた婚約破棄(連載版))
あみにあ
恋愛
公爵家の長女として生まれたシャーロット。
学ぶことが好きで、気が付けば皆の手本となる令嬢へ成長した。
だけど突然妹であるシンシアに嫌われ、そしてなぜか自分を嫌っている第一王子マーティンとの婚約が決まってしまった。
窮屈で居心地の悪い世界で、これが自分のあるべき姿だと言い聞かせるレールにそった人生を歩んでいく。
そんなときある夜会で騎士と出会った。
その騎士との出会いに、新たな想いが芽生え始めるが、彼女に選択できる自由はない。
そして思い悩んだ末、シャーロットが導きだした答えとは……。
表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_)
※以前、短編にて投稿しておりました「安息を求めた婚約破棄」の連載版となります。短編を読んでいない方にもわかるようになっておりますので、ご安心下さい。
結末は短編と違いがございますので、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。
※毎日更新、全3部構成 全81話。(2020年3月7日21時完結)
★おまけ投稿中★
※小説家になろう様でも掲載しております。
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
【完結】お前を愛することはないとも言い切れない――そう言われ続けたキープの番は本物を見限り国を出る
堀 和三盆
恋愛
「お前を愛することはない」
「お前を愛することはない」
「お前を愛することはない」
デビュタントを迎えた令嬢達との対面の後。一人一人にそう告げていく若き竜王――ヴァール。
彼は新興国である新獣人国の国王だ。
新獣人国で毎年行われるデビュタントを兼ねた成人の儀。貴族、平民を問わず年頃になると新獣人国の未婚の娘は集められ、国王に番の判定をしてもらう。国王の番ではないというお墨付きを貰えて、ようやく新獣人国の娘たちは成人と認められ、結婚をすることができるのだ。
過去、国の為に人間との政略結婚を強いられてきた王族は番感知能力が弱いため、この制度が取り入れられた。
しかし、他種族国家である新獣人国。500年を生きると言われる竜人の国王を始めとして、種族によって寿命も違うし体の成長には個人差がある。成長が遅く、判別がつかない者は特例として翌年の判別に再び回される。それが、キープの者達だ。大抵は翌年のデビュタントで判別がつくのだが――一人だけ、十年近く保留の者がいた。
先祖返りの竜人であるリベルタ・アシュランス伯爵令嬢。
新獣人国の成人年齢は16歳。既に25歳を過ぎているのに、リベルタはいわゆるキープのままだった。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
初恋にケリをつけたい
志熊みゅう
恋愛
「初恋にケリをつけたかっただけなんだ」
そう言って、夫・クライブは、初恋だという未亡人と不倫した。そして彼女はクライブの子を身ごもったという。私グレースとクライブの結婚は確かに政略結婚だった。そこに燃えるような恋や愛はなくとも、20年の信頼と情はあると信じていた。だがそれは一瞬で崩れ去った。
「分かりました。私たち離婚しましょう、クライブ」
初恋とケリをつけたい男女の話。
☆小説家になろうの日間異世界(恋愛)ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18)
☆小説家になろうの日間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18)
☆小説家になろうの週間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/22)
悪夢から逃れたら前世の夫がおかしい
はなまる
恋愛
ミモザは結婚している。だが夫のライオスには愛人がいてミモザは見向きもされない。それなのに義理母は跡取りを待ち望んでいる。だが息子のライオスはミモザと初夜の一度っきり相手をして後は一切接触して来ない。
義理母はどうにかして跡取りをと考えとんでもないことを思いつく。
それは自分の夫クリスト。ミモザに取ったら義理父を受け入れさせることだった。
こんなの悪夢としか思えない。そんな状況で階段から落ちそうになって前世を思い出す。その時助けてくれた男が前世の夫セルカークだったなんて…
セルカークもとんでもない夫だった。ミモザはとうとうこんな悪夢に立ち向かうことにする。
短編スタートでしたが、思ったより文字数が増えそうです。もうしばらくお付き合い痛手蹴るとすごくうれしいです。最後目でよろしくお願いします。
【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった
凛蓮月
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】
竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。
竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。
だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。
──ある日、スオウに番が現れるまでは。
全8話。
※他サイトで同時公開しています。
※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる