魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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18 夏休み終了

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 そこからの夏休みは穏やかに過ぎていった。

 早朝起きて、バイトに行って。
 帰宅後のんびりして昼食食べて。
 おやつの時間に王子召喚。

 温かいおやつを出したり、やっぱ夏だからと冷えたおやつを出したり。飽きないように色々なバリエーションをつけて工夫した。

 ゲームに、漫画に、小説に。王子も召喚時間を心行くまで楽しんだようだ。

 そして、あっという間にお休みが終了し、明日からは本格的に大学の授業が始まる。
 でも、その前に。


「えーと、王子。実は大事な話があります」

「何だ?」


 いつも通り。召喚早々ゲーム機の準備を始めた王子を止めると、正面に座って切り出した。

 けど言いづらい。話しかけたはいいが、なんと言ったらいいか悩んでしまい、とりあえず入れたばかりの紅茶を一口飲んで気持ちを落ち着けていたら、王子も同じ行動をとった。

 彼も落ち着かないようだ。うん。そうだよね。それに、貴重な召喚時間を無駄にさせるのも申し訳ない。なので、率直に言うことにした。


「実は、そろそろ学校始まるから今までのように召喚できなくなります」

「そうか」

 カタカタカタカタ……。

「ちょ……っ! 紅茶! 紅茶こぼれてるっ!!」


 顔は普通だが、手に動揺が伝わり紅茶がめっちゃラグにこぼれてる。


「あ……ああ。す、す、す、すまないな『クリーン』」


 しゅわっ☆ 一瞬でキレイになるが後から後からこぼれてキリがない。いったんカップをラグの上のトレイに置かせてから、詳細を話す。


「じつは必修科目が召喚時間にかぶっちゃっててね、週に何回かはどうしても召喚できそうにないの」


 そう。前期は召喚が不定期だったからどうにかなったけど、夏休みを挟んでいつの間にやら毎日召喚になってしまった今、困った問題が持ち上がった。

 休み中はともかく、大学が始まってしまえばずっと家にいるわけにはいかないのだ。社会人の鈴木さんほどではないが、大学生も昼間はそこそこ忙しい。
 早朝バイトもあるし、少し頻度を減らさないと駄目だろう。


「――と、いう訳で、忙しい日は召喚をお休みしたいと思います。その代わり、都合がつく日は夜に……ってどうしたの?」


 状況と現状と対策を話していたら、王子の顔がぽかんとなった。あれ? もしかして自動翻訳切れてる??

 一日に何回召喚できるかって話になった時、試してみたら三回目で魔力不足で言葉が通じなくなって二人して焦ったけど、今日は一回目だし。

 あ、その時はボディーランゲージで乗り切りました。すごいよね。異世界人相手でも何とか伝わった。万国共通言語。


「え……っと、それだけ?? 回数、減るだけ?」

「うん? うん。翌日朝からバイトがある日は夜にずらすのも無理っぽいからさ。どうしても何日かは……ごめんね」

「ああ、いやいやいや! それならいいんだ! その、てっきり、前の召喚主……みたいに、見捨てられるのかと」

 ふーっ、と安堵のため息をつく王子。意外だった。結構召喚主変わるのには慣れてるっぽかったのに。

 そう言ったら、呼び出してすぐ拒絶されるのとか、2~3日でサヨナラは慣れていても、鈴木さんや私みたいに長期召喚した人に見捨てられるのはツライそうだ。

 なるほどなるほど。初期に召喚途絶えてふてくされていたときがあったけど、あの頃には結構心を開いてくれていたようだ。


「まー、大学生は休み長いし、また休みに入ったら召喚増やしてあげられるから、それまではコレで我慢して」


 と、紙袋に入れておいた物を渡す。

 王子は首を傾げながら受け取ると、紙袋を開けて驚いていた。


「えっ! これ、鈴木さんちでやっていたゲーム!?」


 取り出したソフトのパッケージを見て、声を上げる王子。そう。先日、実家から持ってきた古い携帯ゲーム機だ。王子が持っているのはお兄ちゃんから貰ったギャルゲー。そうか。それも既に鈴木さんちでやってたのか。
 お兄ちゃんと鈴木さん趣味合いそう……とか思いつつ、ゲーム機の使い方を説明する。懐かしいなー。


「まあ、携帯ゲーム版だから一緒かは分からないけど、追加エピソードとか追加キャラとかあるかもだし、暇つぶしにはいいでしょ? 一応、私の好きなソフトも入ってるけど、乙女ゲーは精神的に無理そうなら避けてね。いちおうスローライフ系もあるからこの辺がお勧めで……」

「すごい! こんなに!?」

「あっ、でも、貸してあげるだけだからね? あげるんじゃなくて、貸すだけだから。このゲームとかお気に入りだからやりたくなるかもしれないし。ちゃんと、返しに来てね」

 ちょっとケチ臭いかなーと思いつつも、しっかりとそれは主張する。今持ってるゲーム機に移植でもされていればいいけど、古いヤツでしか楽しめないソフトも結構あるし。

 すると。

「ああ! もちろん。絶対に返しに来る!!」


 と、何故か満面の笑みで頷いた。

 よっぽど塔が暇なんだな。きっと。
 これだけソフトがあればかなり遊べるとは思うけど、そのうちお兄ちゃんの他のギャルゲーも借りてきてあげよう。


 充電はできないかもしれないけれど、召喚される度にウチで充電していけばそれで問題ないよね。

 ――と、言う訳で。

 大学の授業再開と共に。
 王子召喚、後期スタートです。





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