魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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17 王子とカレーとあったかおやつ

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 どうやら運動で汗をかいたから風呂に入ってきたらしい。いや、そこまでしてカレーを食べたいのか。お兄ちゃんの言う通りだな。カレーの魅力は凄まじい。

 まずは正装を着替えてもらう。髪から滴る雫で肩口びしょびしょになっているのでハンガーにかけて干しておく。

 ほんっと着替えあってよかったわ。


「まったく。髪の毛はちゃんと乾かすって約束したのに……」

「!!! あっいや、コレは急いでたから、すぐ乾かすから! だから、約束違反ではない。……『ドライ』」


 慌てた王子が何やら唱えると髪の毛が一瞬で乾く。えっ何それすごい。魔法!? ああ、もう。しっかり見ていなかった!!


「ねっ、ねえ! 魔法ちゃんと見たい! もう一度できる?」

「いいぞ。『ドライ』」


 今度は私が持つハンガーにかけた王子のジャラジャラ正装の肩口が一瞬で乾く。なにコレ便利!! 服にも対応しているのか。雨の日とか梅雨時期の洗濯ものとか一瞬じゃん!! さようなら生乾きの悪臭。


「そ…その、今回はたまたま時間がなくて。次からちゃんとする。だから、もう呼ばないのは……召喚拒否はやめてくれ」

「あ、うん。とりあえず来年の梅雨まではぜひ居て欲しい」

「!! そうか!!!」


 目に見えてホッとする王子。どうやら王子にとって『もう召喚しない』は相当効き目が強いようだ。表情からも精神的に追い詰められているのが分かる。あの言葉はなるべく使わないようにした方がいいかもしれない。



 用意したおやつを食べさせている間に、御所望のカレーを準備する。食べられるのかは分からないがしっかりと福神漬けも用意しておいた。

 今日はご飯が炊けているのでちゃんとカレーライスだ。
 
 ちなみに。

 福神漬けも含め一人前をペロリと平らげた王子のおやつはチャイとアイスだった。おやつと食事、順番逆になっちゃったけど、ご満足いただけたみたいです。

 そして運動で疲れたのか、満腹になったからか、食後にジャージでお昼寝をする王子。この日の召喚はそれで終わった。

 いや、もう何しにきてんだか。




 そして、その翌日。


「コレは……?」


 ホカホカと、バターを溶かす皿の上にのる丸い物体二段重ねを見て、召喚直後の王子は目を見開いた。上からはたっぷりのはちみつがかけられている。

 そう! 今日のおやつはホットケーキ。

 もちろん私の手作りだ。焼きたてを提供するのが目的ですからね。


「王子、温かいご飯久しぶりって言ってたから。今日は温かいおやつを用意してみたの。ほら、冷めちゃうから座って」

「あ、ああ。その、いただきます」


 ナイフとフォークをキレイに使って、ホットケーキを口元へ運んでいく王子。


「……温かい」

「でしょー。召喚時間に合わせて焼いたから正真正銘、出来立てだよ。さーて、自分の分も焼こうかな」


 魔法陣ラグの上で、少し呆然としながらホットケーキを食べる王子をほっといて、キッチンへと移動する。

 まあ、別に深い考えがあったわけではない。温かいカレーにやたら感動していたから、次は温かいおやつを用意してあげようかなと、何となく思っただけ。

 そうして自分の分を焼き上げて部屋へと戻ってみれば。


「……全然食べてないじゃない。コレ、嫌いだった?」

「あっ、いや、そうじゃない。その、一緒に食べたくて」

「ふーん? まあいいや。あっ、チョコレートソースもあるけどかける?」

「あっ、ああ! ぜひ」


 何故か、一口食べただけで持っていた王子。

 変なの。せっかくの焼き立てなのに、冷めちゃうじゃない……と思ったけど、食事も長い間ずっと冷めたものを食べていたと言っていたから、もしかしたら熱すぎるのは食べにくいのかも知れないな、と思い至る。

 幽閉中の塔での扱いだけではなくて。こちらへと召喚されるようになってからも、以前の召喚主である鈴木さんはペット用の全自動給餌機を使って王子の召喚をしていたみたいだし、それでは温かいおやつを食べる機会はなかったはずだ。

 ただ、嫌がる様子はないので、食べ慣れていないだけなのだと思う。

 その証拠に。


「うまいな。本当にうまい」


 そんな風に言いながら、とっくに冷めているだろうホットケーキを、王子は嬉しそうに食べている。

 後から焼いた自分の分と換えてあげようかと提案したが、自分のために焼いてくれたコレがいいと、頑として譲らなかった。

 ニコニコと笑うその様子を見て。

 作って良かったな――とそう思った。




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