魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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156 おまじないの効果(王子視点)

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 突然泣き出した僕を、オロオロと見守る召喚主。

 ……多分、彼女には分からない。どれだけ僕が嬉しいか。


 勝手に彼女におまじないをしたことがバレたら怒られるかもとか。変な風に誤解されて召喚が止まったらどうしようとか。

 暇な時間はいつだって頭が余計なことを考えるから、よくないことを考えがちだ。だから、すぐに後ろ向きになったり卑屈になったりする。


 でも。こっちの世界に来るようになって。色んな娯楽と向き合って。色んな人と出会って。
 僕は少しずつ前向きな気持ちを取り戻している気がする。


 おでこに悪夢を祓うおまじないをしてもらうなんて、いったいどれくらいぶりだろう。魔力の制御が下手だった子供の頃は両親によくしてもらった。


 そして――最後にしてもらったのは……元婚約者だ。


 男爵令嬢に魅了にかけられて。
 魅了堕ちして。
 婚約破棄して。

 僕が傷つけてしまった――幼馴染だった元婚約者。

 恨まれていても仕方がなかったのに。ある日、彼女は僕を心配して幽閉中の塔を訪ねてくれた。

 病気で――彼女自身の最期を悟ってのことだった。


 僕のせいで。表舞台から追いやられ、しなくてもいい苦労を重ねてきた元婚約者。
 元々ほっそりしていたのに、記憶していたより更に細くなった腕にその苦労が窺えた。

 それでも彼女が最後まで気にかけていたのは僕のことだった。

 僕が婚約破棄騒動を起こした後。彼女は生家を出ていたが、伝手を頼り塔を訪ね、罪の意識に苦しむ僕に許しを与えてくれた。僕の心を解放してくれた。

 そして。

 塔に閉ざされ、僕が自分のしでかした過去の悪夢に苦しんでいるのを知って、『おまじない』をしてくれたのだ。


 まだ記憶魔法が使えなかったから、遠い昔に記憶がかすれてしまったけれど。魅了から解放されて改めて見た彼女は例え痩せ衰えていても他の誰よりも美しかった――と思う。

 思い出せないけれど。思い出そうとするたびに心が抉れるように辛くなるけれど。

 それでも新しい楽しみや喜びが僕の中に増えていく。元婚約者が――最期に望んでくれたとおりに。


 今日のコレもそうだ。


「ぐすっ。……すまない。おまじないが久しぶりだったから嬉しくて」
「あ、そっ、そうなのね。うん、まあ、泣くほどおまじないが効いたのなら良かったわ」
「あ、いや。君には魔力がないから別に効果は――」

「え!? コレ魔力がいるの? そういうのこそ先に言ってよ、それじゃあ私がおまじないする意味ないじゃない! うわー、恥ずかしい! もう二度と…」


 ……まずい、せっかく手に入れた『悪夢を祓うおまじないをしてもらえるチャンス』が消え失せる!!


「いや! こういうのは気の持ちようだから!!!」」
「え? でも、魔力が無いと……」
「気の持ちようだから!!!!」


「ええと。……まあ、無いよりはいい……のかな? 魔法でジャージをキレイにしたって洗濯はしたくなるものね。それと似たようなものかしら……? まあ、気休めにでもなるなら」


 僕の必死さが伝わったのか召喚主が納得してくれた。
 良かった。ゴリ押しできた。孤独な塔での生活で人との接触に飢えている僕。

 悪夢を見る度におまじないをしてもらえるかも――とか欲が出た。何にしてもこんな貴重な機会は無くしたくない。

 ……それに誰でもいいわけでもない。


「――ま、夢見も悪いみたいだし、念の為ホラー映画はしばらく封印しましょ。私も久しぶりに怖いのをたくさん見られて満足したし。それに、そろそろ『幽閉されたい塔』の建設も進めたいしね」

「そうだな!!」


 ちょっと残念……とは思ったが、僕も召喚主とゲームはやりたいので文句はない。

 まあ、あれだ。召喚主のホラー好きが分かったので、しばらく時間を置いて、またリクエストしてみるのもいいかもしれない。


 そうしたら……悪夢を見たら、また、おまじないをしてもらえるかもしれないし。


 ――ちなみに。

 魔力のない召喚主のおまじないだが、効果は絶大だった。

 僕の睡眠不足が限界に来たのか、リラックス効果のあるお茶のおかげか。久しぶりにグッスリと眠ったが、殺人鬼も暗殺者も夢には出てこなかった。

 ホラー映画の影響は多少あったが夢に見たのは召喚主。

 召喚主がいうところの『ちょっぴりセクシーなサービスシーン』というやつだろうか。おまじないの効果もあって、いつもより割とリアルな素晴らしい夢を見た。

 おまじないの効果は実証されたが、絶対に人には言えない種類のアレなので、特に召喚主には絶対に黙っていようと思う。

 ……おまじないをしてくれなくなっても困るしな!




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