魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

文字の大きさ
226 / 364

226 猫暖房☆ 最大の欠点

しおりを挟む

「にゃう…スー……スー……」

 ローブを着込んだ私の両腕の中で。穏やかな寝息を立てて、幸せそうに眠るローブ猫。時折体勢を変えながら、またすぐに深い眠りへと落ちていく。

 それにしても流石はモフモフ。二人(?)でローブを使うにしても、王子よりかなり体温が高いです。人肌ならぬ猫肌が心地よいですね。これは幸せが過ぎる……!!

 はぁ~…♡ ローブ暖房最強だとばかり思っていたけれど、上には上があるんだな。世界は広い……って、異世界まであるのだから、そりゃそうか。狭い筈がない。

 是非ともこの感動を王子(本物)にも教えてあげたいところだけれど――残念ながらそれは不可能だ。
 相変わらず私は偽王子さん達の話題を口に出すことが出来ない。何故だか不思議な力で止められてしまう。

 ならば、と言える範囲で遠回しに伝えようとしても……平常運転で斜め上の理解力を発揮する王子には、絶対に上手く伝わらない自信がある。


 ……うーん…。――ま、いいか!


 そもそも。こっそり王子の身代わりを務めている偽王子が王子(本物)と直接顔を合わす機会などある訳ないし。

 どうにかして王子に教えてあげたところで、この幸せを味わえないのであればただの飯テロならぬ暖房テロになってしまうし。

 ――それに王子が犬派の可能性だってある。


 なので、この偽王子(猫)暖房は私専用ってことで☆
 はあぁぁ、癒されるうぅ~。


 ……なんて。
 のんきに猫暖房を楽しんでいた私はすっかり油断をしてしまった。

 いつも本物の王子の召喚スケジュールに合わせて日付が替わる前には偽王子を異世界に帰していたのだけれど、ウッカリ私まで寝落ちをしてしまい、目が覚めたら朝の3時29分。驚異の癒し効果でひと晩ガッツリとこの体勢のまま過ごしてしまった。

 腕の中ですっかり溶けて、ぐっすりと眠りこけていた気まぐれ猫ちゃんは、私が起こすと慌てた様子であちらへと帰っていった。


 猫ちゃんてばこんな時間までウチに居て大丈夫なのかしら?
 あっちで王子と鉢合わせしていたりして……。


 どうやら完璧に思えた猫暖房にも、リラックスしすぎるという欠点があったようだ。



 それにしても。
 今日は早朝バイトがお休みだったこともあり、私も完全に気を抜いてしまっていた。それでもいつも私が起きる時間……目覚まし時計が鳴る一分前には目が覚めたから、早起き習慣には助けられた感じだ。


 昨日の夜は起こしてあげられなくてごめんね、猫ちゃん……。腹黒さんに怒られたりしてなきゃいいけど。

 これに懲りずにまた来てくれるかな…。ああ、もちろん猫の方の姿で。
 はぁ……暖かかったなぁ…。


 ――なんて。人(?)のことを心配していられる余裕なんて私には無かったのに、何を悠長にモフモフの余韻を楽しんでいたのか。


 偽王子(猫)は私に何かを伝えようとしてくれていたのに。
 前に与えられた情報のなかにもヒントはあったのに。

 情報を活かせなかったばかりか、分かった気になっていただけで、私は猫ちゃんの言いたいことを何一つ理解なんてしていなかった。


 何でもっと深く掘り下げて考えなかったのか。
 何でもっと王子の動向を気にかけなかったのか。



 ……本物の王子を召喚したときに、私はソレを思い知ることになる。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されないと知った時、私は

yanako
恋愛
私は聞いてしまった。 彼の本心を。 私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。 父が私の結婚相手を見つけてきた。 隣の領地の次男の彼。 幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。 そう、思っていたのだ。

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

明日のために、昨日にサヨナラ(goodbye,hello)

松丹子
恋愛
スパダリな父、優しい長兄、愛想のいい次兄、チャラい従兄に囲まれて、男に抱く理想が高くなってしまった女子高生、橘礼奈。 平凡な自分に見合うフツーな高校生活をエンジョイしようと…思っているはずなのに、幼い頃から抱いていた淡い想いを自覚せざるを得なくなり…… 恋愛、家族愛、友情、部活に進路…… 緩やかでほんのり甘い青春模様。 *関連作品は下記の通りです。単体でお読みいただけるようにしているつもりです(が、ひたすらキャラクターが多いのであまりオススメできません…) ★展開の都合上、礼奈の誕生日は親世代の作品と齟齬があります。一種のパラレルワールドとしてご了承いただければ幸いです。 *関連作品 『神崎くんは残念なイケメン』(香子視点) 『モテ男とデキ女の奥手な恋』(政人視点)  上記二作を読めばキャラクターは押さえられると思います。 (以降、時系列順『物狂ほしや色と情』、『期待ハズレな吉田さん、自由人な前田くん』、『さくやこの』、『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい』、『色ハくれなゐ 情ハ愛』、『初恋旅行に出かけます』)

番(つがい)と言われても愛せない

黒姫
恋愛
竜人族のつがい召喚で異世界に転移させられた2人の少女達の運命は?

【完結】召喚された2人〜大聖女様はどっち?

咲雪
恋愛
日本の大学生、神代清良(かみしろきよら)は異世界に召喚された。同時に後輩と思われる黒髪黒目の美少女の高校生津島花恋(つしまかれん)も召喚された。花恋が大聖女として扱われた。放置された清良を見放せなかった聖騎士クリスフォード・ランディックは、清良を保護することにした。 ※番外編(後日談)含め、全23話完結、予約投稿済みです。 ※ヒロインとヒーローは純然たる善人ではないです。 ※騎士の上位が聖騎士という設定です。 ※下品かも知れません。 ※甘々(当社比) ※ご都合展開あり。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

幸せを望まなかった彼女が、最後に手に入れたのは?

みん
恋愛
1人暮らしをしている秘密の多い訳ありヒロインを、イケメンな騎士が、そのヒロインの心を解かしながらジワジワと攻めて囲っていく─みたいな話です。 ❋誤字脱字には気を付けてはいますが、あると思います。すみません。 ❋独自設定あります。 ❋他視点の話もあります。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

処理中です...