270 / 364
270 腹黒さんいらっしゃい
しおりを挟む「とんでもないことをしてくれましたね」
…………とんでもないことをしてしまいましたね。
冬休み。
早朝バイトはお休みのゆったりとした爽やかな朝。
召喚されてきた魔法陣の上に立ったまま、地の底から響いてくるような不機嫌な声を発する偽王子(腹黒)の姿に。
私は自分がやらかしたとんでもない失態に気が付いた。
王子と共に、ちょっぴりお得な一日遅れのクリスマスを楽しんだ翌日。
そう言えば昨日、王子が昼食を抜かれたって言っていたけど、今日のお昼ごはんはちゃんとあるのかな?
……と、少し心配になって軽~い気持ちで王子の分の昼食も準備しつつ、いつも通り魔法陣ラグにおやつを供えて王子を召喚したら。
……来てしまいましたね。
偽王子界のラスボスこと――怖い顔してガチギレ状態の偽王子(腹黒)さんが。
…………いえね、いつもだったら一限から講義あるから召喚お休みの曜日だったんですよ。ただ、冬休みに入っているので、そのことすっかり忘れていました。
ちなみに現在は朝の9:00。
早朝バイトも休みだったから、ついつい朝イチで王子を召喚しちゃったよ。く……っ、やらかした!
夏休み終了後は召喚時に王子が留守でも偽王子(猫耳・猫)、偽王子(大)しか来なかったから、猫ちゃんのモフモフに癒されたり、黙々と負けてくれる大さんと一緒にレースゲームを楽しんだり、これはこれで楽しいから別にいいやと油断して……よく考えもせず適当に召喚していたのが完全に裏目に出てしまった。
害の少ない偽王子二人と楽しく遊ぶあまり、偽王子(腹黒)さんの存在がすっかり頭から抜けていたのだ。
休王子召喚日に呼び出せば、彼が来る可能性だって十分あったというのに……!
「――おやおや、顔色が優れませんね。どうかなさいましたか?」
言葉こそ丁寧だが、目の下真っ黒であからさまに不機嫌な様子の腹黒さん。口元は笑みを浮かべているが目がちっとも笑っていない。
そして彼が何に対してそんなに怒っているのか、その原因についても見当がついている。
(――うん。まあ、間違いなく王子がやらかした『幽閉中の塔キラッキラ問題』について、でしょうね……)
クリスマスイルミネーションに魅了され、自分が幽閉されている塔を精霊イルミネーションでキラッキラに飾り立ててしまった魅了堕ちした王子様。普通に考えて幽閉されている人間がやることじゃないよね……そもそも、普通の人間は幽閉なんてされないと思うけど。
まあ、あの王子様は普通じゃないからその辺はしゃーない。通常営業。
ただ、塔のキラキラはお城からも見えて大騒ぎになったとか言っていたし、腹黒さんの目の下のクマを見る限り、王家の影として不眠不休でその対応に追われていたってところだろうか。
「――ああ、解っていらっしゃるのなら話が早いですね」
そう言うなり、クスクスクス……と笑い声をあげる腹黒さん。それで大切なことを思い出す。
しまった、相変わらず思考が読まれている!! これは私が何らかの責任を取らされて、腹黒さんにサクッとされちゃうやつですね。
自分で自分の残り時間を減らしてどうすんだ!
……あ、でも行動可能範囲が広がったからわざわざ王子を散歩に連れ出して駅前のクリスマスイルミネーション見せちゃったとか、そのせいで王子がやらかしたとか、その辺は言わなきゃバレないかも……。
「ほうほう。わざわざ王子に駅前のクリスマスイルミネーションを……ね。そうですか、やはりこの件は貴女が元凶でしたか。ははは……ククッ…フフフ…フ…」
ぉおっと、口に出して言わずとも思っただけでアウトでした! ああ、もう。『思考翻訳』だっけか。腹黒さんのコレ本当に厄介だな。隠し事もできないじゃん!
怒りを抑えるように、下を向いて乾いた笑い声をあげながら眼鏡のブリッジ部分を人差し指と中指でクイクイ押し上げている姿とか、マンガや乙女ゲームにおける私の大好物、闇堕ちしかけた敵役眼鏡キャラみたいで目が離せないけどそれどころじゃない。
……にしても、こういう緊迫した場面では腹黒さんの眼鏡遣いが映えること映えること……。
などと、私が余計なことを考えれば考えるほど腹黒さんの怒りのボルテージが上がっていく。
「……これはこれは。まったく、貴女には感心しますねぇ……この機に及んでずい分と余裕がおありのようで?」
クスクスクス……。
楽しそうな言葉とは裏腹に部屋に響く冷たい笑い声。
――ああ、本当にそれどころじゃなかった!!
だけど、今さら自分の性癖(?)は変えられない。身に危険が迫れば、ついつい自分の好きな物に逃避しちゃうのが人情というもの。
腹黒さんの醸し出す圧に耐えかねて、視線は眼鏡に固定したまま私が思わず後ずされば。
一歩……二歩……。
自分が下がれば下がっただけ眼鏡のレンズ越しに冷たい目をした腹黒さんに距離を詰められて、気付いた時には壁際まで追い詰められてしまっていた。
居心地が良いながらも狭い学生向けのアパートだ。
逃げ場なんてどこにもない。
――詰んだ。
24
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
ツンデレ王子とヤンデレ執事 (旧 安息を求めた婚約破棄(連載版))
あみにあ
恋愛
公爵家の長女として生まれたシャーロット。
学ぶことが好きで、気が付けば皆の手本となる令嬢へ成長した。
だけど突然妹であるシンシアに嫌われ、そしてなぜか自分を嫌っている第一王子マーティンとの婚約が決まってしまった。
窮屈で居心地の悪い世界で、これが自分のあるべき姿だと言い聞かせるレールにそった人生を歩んでいく。
そんなときある夜会で騎士と出会った。
その騎士との出会いに、新たな想いが芽生え始めるが、彼女に選択できる自由はない。
そして思い悩んだ末、シャーロットが導きだした答えとは……。
表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_)
※以前、短編にて投稿しておりました「安息を求めた婚約破棄」の連載版となります。短編を読んでいない方にもわかるようになっておりますので、ご安心下さい。
結末は短編と違いがございますので、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。
※毎日更新、全3部構成 全81話。(2020年3月7日21時完結)
★おまけ投稿中★
※小説家になろう様でも掲載しております。
裏庭係の私、いつの間にか偉い人に気に入られていたようです
ルーシャオ
恋愛
宮廷メイドのエイダは、先輩メイドに頼まれ王城裏庭を掃除した——のだが、それが悪かった。「一体全体何をしているのだ! お前はクビだ!」「すみません、すみません!」なんと貴重な薬草や香木があることを知らず、草むしりや剪定をしてしまったのだ。そこへ、薬師のデ・ヴァレスの取りなしのおかげで何とか「裏庭の管理人」として首が繋がった。そこからエイダは学び始め、薬草の知識を増やしていく。その真面目さを買われて、薬師のデ・ヴァレスを通じてリュドミラ王太后に面会することに。そして、お見合いを勧められるのである。一方で、エイダを嵌めた先輩メイドたちは——?
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった
凛蓮月
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】
竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。
竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。
だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。
──ある日、スオウに番が現れるまでは。
全8話。
※他サイトで同時公開しています。
※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。
初恋にケリをつけたい
志熊みゅう
恋愛
「初恋にケリをつけたかっただけなんだ」
そう言って、夫・クライブは、初恋だという未亡人と不倫した。そして彼女はクライブの子を身ごもったという。私グレースとクライブの結婚は確かに政略結婚だった。そこに燃えるような恋や愛はなくとも、20年の信頼と情はあると信じていた。だがそれは一瞬で崩れ去った。
「分かりました。私たち離婚しましょう、クライブ」
初恋とケリをつけたい男女の話。
☆小説家になろうの日間異世界(恋愛)ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18)
☆小説家になろうの日間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18)
☆小説家になろうの週間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/22)
盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない
当麻月菜
恋愛
生まれた時から雪花の紋章を持つノアは、王族と結婚しなければいけない運命だった。
だがしかし、攫われるようにお城の一室で向き合った王太子は、ノアに向けてこう言った。
「はっ、誰がこんな醜女を妻にするか」
こっちだって、初対面でいきなり自分を醜女呼ばわりする男なんて願い下げだ!!
───ということで、この茶番は終わりにな……らなかった。
「ならば、私がこのお嬢さんと結婚したいです」
そう言ってノアを求めたのは、盲目の為に王位継承権を剥奪されたもう一人の王子様だった。
ただ、この王子の見た目の美しさと薄幸さと善人キャラに騙されてはいけない。
彼は相当な策士で、ノアに無自覚ながらぞっこん惚れていた。
一目惚れした少女を絶対に逃さないと決めた盲目王子と、キノコをこよなく愛する魔力ゼロ少女の恋の攻防戦。
※但し、他人から見たら無自覚にイチャイチャしているだけ。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる