魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

文字の大きさ
269 / 364

269 おもてなし召喚主VS悪戯っ子精霊

しおりを挟む

「ん? 召喚主どうかしたのか?」

「あ、いや……何か、キラキラしたのが王子の周りに見えるんだけど」


 まるで。漫画に出てくるイケメンのキラキラ表現のように。王子の周りが物理的に光って点滅している。

 ちょっと眩しめの白いホタルみたいな感じというか……。

 真っ昼間でそれが似合う王子の周りだからいいけど、暗い夜道だったら悲鳴を上げる自信がある。どことなく心霊写真のオーブっぽくもある。


「――ん? ああ、昨日集めた精霊が何体か付いてきちゃったのか」

「は? 精霊??」

「ああ。昨日の塔でのイルミネーション祭りでテンションが上がってはっちゃけているんだろう。もしかしたら僕の話を聞いてこっちに興味を持ったのかもしれない。どちらにしても神聖な存在である彼らは魔法陣なんて使わなくても自由に行き来できるから、ほどほどで満足して帰るか気に入って住みつくか、自分達で適当に判断するだろう。放っておいて大丈夫だ」


 扱い雑だな!! たった今、神聖な存在って言ったばっかじゃん! いいのかソレで。

 ……ってか軽~く言っているけど、そもそも精霊って王子が勝手に招集しちゃっていいものなの? 街に存在して当然のモノが根こそぎ塔に集まっちゃったりしたら国民の日常生活に支障が出そうなんだけど。


「……ねえ、王子。さっき王都中の精霊集めて塔を光らせたって言っていたけど、そんなことして大丈夫なの? 王都? から精霊が消えたらソコに住んでいる住民が困ったりしない? それに突然塔が光るとか、そんな異常現象が起こったりしたら見た人が怯えそう。天変地異の前触れだとか思われたりしないかな?」

「いいや? 精霊は気に入った人間に手を貸してくれることもあるが、暗い夜道で転ばないよう足元を照らしてくれるとかその程度だ」

 トナカイ的なやつかな?


「でも気まぐれだから飽きたらすぐに手伝いをやめてどっか行っちゃうし、国民の方もそこまで精霊を頼りにはしていない。基本的に見えないから王都民は周囲から精霊がいなくなったことに気が付いてすらいないと思うぞ。まー、イルミネーションの目撃者は多少驚いたかもしれないが、そもそも精霊は祝福を与えてくれると言われているからな。塔の光を見た者は『縁起がいい』と喜んでいるはずだ。精霊はイタズラ好きだからそういう事をやりかねないし……まあ実質的な影響としては癒し効果で見た者がちょっとほっこりするくらいだな」


 茶柱的なやつだった。


 そしてどうやら精霊の存在は生活に必須という訳でもないらしい。う~ん……まあ、困る人がいないのなら別にいいか。


 王子についてきちゃった精霊は物珍し気に私の部屋の中を飛び回っている。テレビに集まったり照明器具に集まったり。電気に興味津々らしい。電化製品に自己アピールして光ったりしているからもしかしてお見合い気分だったりするのだろうか。それか異世界観光とか?

 放っておいていいと言われたが、何となく気になったのと王子にこき使われてさぞお疲れだろうと思ったので、自分の分のケーキを少し切り分けて彼ら用に置いてみた。

 疲れた時には甘い物って言うし。
 精霊にそれが通用するかは謎だけど。


「うん! やっぱりこっちで食べるケーキは美味しいな~。クリスマス楽しいな~。あ、お茶がない」

「あ。ハイハイ」


 王子の紅茶が空になったのでお代わりを注いでやる


 そうして一瞬ケーキから目を離すと。


 ごそっ。

 え。精霊用ケーキが減っている!?


「あ、ミルクがもう無い」

「すぐ持ってくるわね」


 ごそごそ。


 ……また減ってる。

 食べているところは見えないけれど、一瞬ケーキから目を離すと量が減る。何、この不思議現象。3度目で精霊用のケーキは完全になくなった。

 王子は既に自分のケーキを食べ終えて、クラフト系ゲームを立ち上げ久々の建築に夢中になっている。ゲーム内に作った幽閉中の塔にイルミネーションを仕込んでいるようだ。よほどキラキラが気に入ったらしい。

 それはともかくとして、ケーキの行方が気になる私は更に自分の分を切り分けて精霊用のお皿に置くが、ついつい王子の建築に気をとられて目を離すとケーキが減る。

 何だろうこの『だるまさんが転んだ』的なヤツ。
 何か悔しい。

 どうしてもその瞬間を見たくなった私は今度はかなり大きめにケーキを取り分けた。

 王子の建築を見るふりをして……



 だるまさんが転んだっっ!!(超高速)



 ご……そ…?


 光がわらわらと集まって、ガツガツと豪快にケーキをかっ食らっている。私に見られているのに気が付いて精霊たちのその動きがピタリと止まった。

 その後、決定的瞬間を見られて諦めがついたのか、精霊たちは開き直ってゆっくりとケーキを食べだした。私としても満足したので、紅茶も淹れてあげると精霊たちは嬉しそうにわらわら~っとそちらに移動する。ちょっとかわいい。

 せっかくホールケーキを買ったものの、ほとんどを精霊にあげてしまったので私が食べられたクリスマスケーキはごく僅か。だけどとっても満足です。


 なんかいいものが見られたし!(ほっこり♡)


 ……って。
 ああ、王子の言っていた癒し効果ってコレのことか。納得。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます

22時完結
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。 エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。 悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。

初恋の人と再会したら、妹の取り巻きになっていました

山科ひさき
恋愛
物心ついた頃から美しい双子の妹の陰に隠れ、実の両親にすら愛されることのなかったエミリー。彼女は妹のみの誕生日会を開いている最中の家から抜け出し、その先で出会った少年に恋をする。 だが再会した彼は美しい妹の言葉を信じ、エミリーを「妹を執拗にいじめる最低な姉」だと思い込んでいた。 なろうにも投稿しています。

この闇に落ちていく

豆狸
恋愛
ああ、嫌! こんな風に心の中でオースティン殿下に噛みつき続ける自分が嫌です。 どんなに考えまいとしてもブリガンテ様のことを思って嫉妬に狂う自分が嫌です。 足元にはいつも地獄へ続く闇があります。いいえ、私はもう闇に落ちているのです。どうしたって這い上がることができないのです。 なろう様でも公開中です。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

私の妹…ではなく弟がいいんですか?!

しがついつか
恋愛
スアマシティで一番の大富豪であるマックス・ローズクラウンには娘が2人と息子が1人いる。 長女のラランナ・ローズクラウンは、ある日婚約者のロミオ・シーサイドから婚約解消についての相談を受けた。

【完結】16わたしも愛人を作ります。

華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、 惨めで生きているのが疲れたマリカ。 第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、

らっきー♪

市尾彩佳
恋愛
公爵家の下働きをしているアネットと、その公爵の息子であるケヴィン。同じ邸で育ちながら、出会ったのはケヴィン16歳の年。しかもふかふかなベッドの中。 意思の疎通の食い違いから“知り合い”になった二人。互いに結ばれることがないとわかっているからこそ、頑なに距離を保ち続けていたはずが──。「これがわたしの旦那さま」の過去編です。本編をお読みでなくても大丈夫な書き方を目指しました。「小説家になろう」さんでも公開しています。

【完結】能力が無くても聖女ですか?

天冨 七緒
恋愛
孤児院で育ったケイトリーン。 十二歳になった時特殊な能力が開花し、体調を崩していた王妃を治療する事に… 無事に王妃を完治させ、聖女と呼ばれるようになっていたが王妃の治癒と引き換えに能力を使い果たしてしまった。能力を失ったにも関わらず国王はケイトリーンを王子の婚約者に決定した。 周囲は国王の命令だと我慢する日々。 だが国王が崩御したことで、王子は周囲の「能力の無くなった聖女との婚約を今すぐにでも解消すべき」と押され婚約を解消に… 行く宛もないが婚約解消されたのでケイトリーンは王宮を去る事に…門を抜け歩いて城を後にすると突然足元に魔方陣が現れ光に包まれる… 「おぉー聖女様ぁ」 眩い光が落ち着くと歓声と共に周囲に沢山の人に迎えられていた。ケイトリーンは見知らぬ国の聖女として召喚されてしまっていた… タイトル変更しました 召喚されましたが聖女様ではありません…私は聖女様の世話係です

処理中です...