魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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292 あざとい系王子☆襲来

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「…ええと……それでルカちゃん。おでこの方は大丈夫なのか……?」


 私のおでこを凝視しながら、恐る恐る……といった感じで心配そうに言ってくる鈴木さん。先ほどお兄ちゃんにやられたデコピンのあとを気にしてくれているらしい。


「あ、はい。これでもちゃんと手加減はされているんで」

「そ、そうか。赤くなってはいるが……いいなあ……リアル兄妹ならではのその信頼感……ズルい……」

「え?」

「ああ、いやこっちの話だ」


 何やら鈴木さんは自分と入れ違いにバスルームに行ったお兄ちゃんに恨みがましい視線を向けていたが、ウチに来た早々荒ぶっていたお兄ちゃんを宥めてくれたのは、心のお兄ちゃんこと前召喚主の鈴木さんだ。

 彼女は俺の命の恩人だ何だと、公園のフリマで鈴木さんからラグを譲ってもらった時のことを(もちろん王子を端折ったうえで)大袈裟に説明されたので何となく面はゆいが、そのおかげで一応の理解は得られたらしい。

 ……やたらと熱い鈴木さんの『心の妹』発言にドン引きして、対応が面倒になっただけかもしれないが。……お兄ちゃんの性格を考えるとむしろそっちかな…………。


 とりあえずお兄ちゃんの怒りも収まったということで、二人には先にお風呂に入ってもらった。あまり遅くなると、シャワーの音が響いて近所迷惑になってしまいますからね。これも生活の知恵というか壁ドン(怖い方)対策です。

 お客様優先ということで先に鈴木さんに入ってもらったので、現在はお兄ちゃんが入浴中。

 お風呂上がり。
 ドライヤー後に外しておいた眼鏡を装着する鈴木さんの自然な仕草が堪らない……! まさに出来る系眼鏡社会人の夜のルーティン。

 日頃から眼鏡をかけている人の素顔を見られるのも特別感があるし、いいもの見たなあ……(しみじみ)。


 それはそれとして、鈴木さんとの出会いを考えると水分補給は大事。


 そんな義務感に駆られてお風呂上がりの鈴木さんに冷たい飲み物を勧めていると、麦茶を一口飲んだ鈴木さんがある物に目を留め、ふ……っと嬉しそうに口元を緩めた。


「……これ、早速使ってくれているのか」

「あ、はい。かなり使いこなしているみたいですよ」


 生活の邪魔にならない絶妙な位置に置いてあるのは鈴木さんから譲ってもらった『全自動王子召喚機』だ。

 作動してもちゃんとラグの上におやつがこないと召喚出来ないので、設置場所には中々苦労しました。私……じゃなくて、王子が。

 召喚に失敗するとこっち来てゲームができないですからね。塔での幽閉生活で退屈と戦っている王子にとってはまさに死活問題です。


「使いこなしている、『みたい』……? 何でそんな他人事なんだ……? まあいいか。それでルカちゃん。今日はアイツこっちに来ていないのか?」

「いえ、さっきまで来ていたんですが、空気を読んで帰ってくれたんですよ。私のお兄ちゃんが来るって聞いて、『分かった、すぐ帰るから!!』って来た早々異世界にとんぼ返りしてくれて」


 ……と言っても、昼間は昼間でいつも通り遊びに来ていましたが。

 雪だるま(※王子談)作るのに魔法で雪をかき集めてくれたお陰で、うちのアパートまわりだけやたらスッキリしているから文句はないけどね。駐輪場横に鎮座する十分の一スケール闇堕ち竜については……見なかったことにしよう。

 ちなみに王子が映えにこだわった赤い目の光はそのうち消えるらしい。良かった。もし腹黒さんに見られでもしたら私の命の灯が消されかねない。

 カッコいいし仕上がりについては文句ないけど、あの王子様はどっか努力の方向性がおかしいんだよなあ……いや、よく考えたら何だよ、映えって。


 先ほどの王子とのやり取りを聞いた鈴木さんは感心したように笑う。


「へえ……。あの悪魔が空気を読めるようになったのか」

「そうなんですよ。まあ、お兄ちゃんにバレたら王子の召喚なんて続けられませんからね。王子も流石にその辺は解っているのかと」


 何かにつけ大雑把だが、妹の私に対しては意外と過保護なところがあるお兄ちゃん。

 異世界からの王子(+偽王子)召喚なんてしているのがバレた日には、召喚生活どころか、このゲームやりたい放題の自由気ままな一人暮らし(※しかも仕送り付き)自体が強制終了になってしまう。

 そんでもって、効率重視なお兄ちゃんは元凶の魔法陣ラグを燃やすぐらいはするだろう。

 王子のことはもちろん気にはなるが、私としても中二心を絶妙に刺激するこの魔法陣模様ラグは気に入っているので焼失は絶対に回避したい。王子がかけた質の悪い魔法で手元に戻ってくるにしても、ラグに焦げ目とかついたらガッカリだし。

 その為にも王子の存在は秘密にしなくては。

 と、私が何気なくラグの上に置かれた全自動王子召喚機に目をやった瞬間。


 カラカラカラ……。


 味にこだわった私お勧めの猫ちゃんのカリカリサイズクッキーが、受け皿へと供給されて――。


「……は?」
「え?」



「来ちゃった♡」


 ……何か、あざとい系女子みたいなこと言いながら、異世界へ帰ったばかりの王子様がこちらに帰ってきたんですけど……。




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