魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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298 本日の偽王子

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「…これは……?」

「(偽)王子(腹黒)用のご飯……って、あれ!? (今日は腹黒さんじゃなかったのか)……ええと、良かったら食べて?」


 偽王子(腹黒)に眼鏡拭きを渡した翌日。

 気合を入れて彼の好物をたくさん用意したのだが、この日に召喚されて来たのは腹黒さんじゃなくて偽王子(大)だった。

 偽王子(大)は私が用意したテーブルの上の料理を見て固まっている。


 ああ……うん。解る。

 年齢不詳なヒョロガリ策士系の偽王子(腹黒)と、筋骨隆々で見るからに体力自慢の偽王子(大)。同じ偽王子でも、真逆と言っていいほどタイプの違う二人は食事の好みも違うのだろう。
 そんな真逆の二人が何で王子の偽者やっているのかは、まあ今更だから置いておくとして。

 ――実際。偽王子(大)は私が用意したサッパリ系の和食を食べてはいるが、その反応はイマイチ。

 日頃から極端に口数が少ない偽王子(大)だけに、彼がしょんぼりしている姿を見ていると申し訳なくなってくる。きっと、いつも通り甘い系のおやつが出てくるのを期待していたんだろうな。

 よし、ここは甘いもの好きな偽王子(大)のために、何か彼好みのおやつを――とは思うものの、大雪の日に急な来客があった影響で自宅のおやつは品切れ中。ほとんどがお兄ちゃんのお腹の中へと消えました。その分お小遣い(×2)もらったからいいけどね。

 貰ったお小遣いでおやつを買い足すつもりだったのだが、昨日今日と少し疲れていてつい後回しにしてしまったのだ。どうせ休王子召喚日だし、来るのはおやつをほとんど食べない腹黒さんだから、買い出しは次でいいや――と油断して。

 やれやれ、思い込みは良くないですね。

 そういえば前にもこんなことがあった気がするな。
 あの時は猫ちゃんと思いきや偽王子(大)が来て――だったか。偽王子(大)さん、いつもいつもガッカリさせてすみません。

 いえね、そもそも偽王子さん達の召喚がランダム過ぎるんですよ。いっそ彼らの方できちんとシフトを組んでくれればいいのに。

 偽王子の正体がこっちにバレてるのがバレたらサクッと消される身の上とはいえ、腹黒さんあたりは確信犯なんだからさぁ。いつものアレでさりげなく私の思考を読んでもらうとかすれば、その辺の希望を上手く伝えられそうな気がするんだけど……。

 ――ま。わざわざそんな危険な賭けをする気はないですけどね。




 とにかく、今は偽王子(大)の本日のおやつをどうするのか考えないと。

 まだ地面には雪が残っているし、道路の凍結が怖いから夜の買い出しは論外。少し疲れているのでこの時間からの手作りも出来れば遠慮したい。
 明日は早朝からバイトもありますからね。

 とはいえ、偽王子(大)をガッカリさせたまま――というのも気が引ける。


 何かないか、何か――と考えて。
 そういえば『アレ』が残っていたな、とちょうど良さそうなモノが家にあったのを思い出す。

 そして私が用意したのは――。



 朝食に。おやつに。忙しい現代人の栄養補給に。
 運動をする人のつよ~い味方…。


 ――そう!
『プロテインバー』!!


 このプロテインバーはいざという時の私の非常食。
 これなら忙しい朝や講義の合間とかにサッと食べられるし……って、まあ、ぶっちゃけ半額シールに惹かれて何となく買っただけなんですけどね……。

 それでも半額コーナーに残っていたやつを買い占めちゃうくらいには美味しかったし、何と言ってもプロテイン入りということで、甘い物を食べる際の罪悪感がやや薄れるのがイイ! ……あと、賞味期限が迫ってきているので協力してくれると助かる。

 偽王子(大)は前にコーンフレークを好んで食べていたし、このシリアルタイプのプロテインバーは絶対に気に入ると思うのだけど……どうだろう?




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