魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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322 疑惑の日記 前編

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※※※(王子の日記)※※※

 召喚主が春休みに入ったことで僕の召喚が増えました。
 おかげで毎日がとっても楽しいです!

 突然、異世界からの召喚が途絶えた時はどうしようかと思いましたが、どうやらあれは召喚主の試験期間中だったみたいです。召喚主は大学生なので、どうしても外せない試験というのがあるのです。学生のこういうところはあちらもこちらも大して変わりがないのですね。

 懐かしいです。僕も魅了堕ちして幽閉される前はそうでした。僕が学園に通っていた頃は魅了がらみの苦い思い出がいっぱいです。

 なんにしても、この試験期間中に僕が異世界で何かをやらかすと、その対処に追われて結果的にその後の召喚に響いてしまいます。そのあたりのことは前召喚主である鈴木さんのときに散々試しましたから間違いないです。

 念のために、鈴木さんにはもう一度しっかりと謝罪をするべきかもしれません。



 あのときは単位危なくさせてごめんなさい。今は反省しています――と。



 次に会った時に覚えていたら謝ることにしましょう。鈴木さんはきっと僕のごめんなさいを喜んでくれるはずです。今の召喚主から怒られて前召喚主の鈴木さんに謝罪と感謝の気持ちを伝えたときも、『あの悪魔からこんな殊勝な言葉が聞けるなんて』――と鈴木さんは大喜びをしていましたし。

 王子である僕を悪魔呼ばわりするのはどうかと思いますが、それも僕が自分で言い出したことなので仕方がありません。あの頃の僕は召喚の為なら手段を選んでいませんでしたから。歴代の召喚主を脅しておやつと召喚を強要していたのはいい思い出です。もっとも、善良な鈴木さんには脅しよりも泣き落としの方が効果的だったようですが。

 鈴木さんは僕からの謝罪を驚いていましたが、人は成長をする生き物なのです。王子である僕もそれは同じです。やらかして塔に幽閉されてなお、与えられた状況に満足せずに監視の目が届かない異世界で遊ぶ道を自ら開拓したくらいですからね。

 それに比べて鈴木さんは相変わらず存在もしない『妹』に妙なこだわりを持っているようです。妹への憧れがあるのは分かりますが、いくらなんでもまったく血縁のない召喚主を『妹』呼ばわりするのは流石にどうかと思います。

 召喚主は『鈴木さんの妹』ではなく、『僕の召喚主』なのに――。


 それはさておき、春休みで大学の講義のない今は、午前・午後・夜の3回ほど異世界に召喚をしてもらえます。

 そうです。これは夏休みの時とほぼ同じ体制です。夏休みは僕の体調不良を理由に秘密の離宮に送られてしまい、ほとんどその恩恵が受けられなかったのですごく嬉しいです。ゲームのやりすぎとはいえ、アレは失敗でした。

 だけど、僕はそれくらいではへこたれない王子です。あの離宮での療養生活をきっかけにして離宮海域に住むはぐれセイレーンに魅了効果を利用した3D酔い防止眼鏡を作ってもらったので、今ではそういった予期せぬ体調不良も避けられます。

 数年で効果は薄れてしまいますが、とりあえずこれさえ使えば3D酔いをしないのです。しかも、この眼鏡は僕が使用中に召喚主と接触することで彼女にも効果が伝わる優れものです。おかげで毎日召喚主と腕を組んでのゲーム三昧です。

 召喚が途絶えた後などは召喚主と離れることへの不安感から戸惑う彼女を無理やり腕の中に抱え込んでしまいましたが、本来ならばあそこまでの濃密な接触は必要ないのです。

 アレを思い出すたびにちょっぴりドキドキしてしまうのは眼鏡に付与されている魅了魔法の効果でしょうか?

 それとも着用中は眼鏡に妙なこだわりを持っている召喚主にこれでもかというほどガン見をされるからでしょうか?

 本人はあれで気付かれていないと思っているのですからおかしくてたまりません。指摘してしまうと見てくれなくなるかもしれないので、こちらからそれを伝える気はありませんが。

 なんにしても、それらは不快な感情ではありません。どちらかというと愉快ですらあります。召喚主に構ってもらえるうえ、おやつのポテチが30%増量されますからね。ちょっぴりお得なのです。3D酔い防止眼鏡の効果は計り知れません。

 なので、魔力の無駄遣いだと解っていても、最近ではついついゲームに関係なくあの眼鏡を多用してしまいます。


 召喚が途絶えたあの一件はつらかったですが、召喚主とのすれ違いが無くなったのは僕にとって嬉しい誤算でした。召喚主に買ってもらったスケジュール手帳のお陰でしっかりと彼女の予定を確認できますし、時間を無駄にすることなく彼女と一緒に過ごせるのですから。

 召喚主の春休みの予定は今のところバイトだけです。店長や先輩から余計なメールさえ入らなければ、召喚主はずっとアパートに居るはずです。彼女は驚くほど交友関係が希薄ですからね。春休みの間は僕が召喚主を独り占めできるのです。

 だから本当は朝イチで召喚主の部屋に押しかけたいのですが――僕のせいで彼女には毎日夜遅くまで無理をさせてしまっているのでそれは難しいのです。

 彼女は朝早くからバイトがありますし、彼女の体調を考えれば少しは我慢をした方がいいのは僕も解っているのですが、夜は何かと誘惑が多いから欲望が抑えきれないのです。それは召喚主も同じです。

 今は春ですからね。毎晩二人で楽しんでいます。




※※※≪偽王子(腹黒)視点≫※※※


「…………は!?」

 ピシッ。




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