魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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321 白と黒の恩返し(偽王子(猫耳)視点)

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 連続での召喚にテンションが上がり、大喜びで魔法陣に飛び込んで召喚主の部屋へ着いた瞬間――信じられないものが目に入ってきた。


 大好きな匂いのする。
 大好きな人とよく似た。
 猫耳姿の獣人。


 もしかして! もしかして!! もしかして!!!


 期待が膨らみ絶対に逃がさないように、とりあえずソッコーで相手に飛びついたら、まさかの猫耳をつけただけの召喚主だった。


 あー、もう。何だよ、期待させやがって。
 やっと運命の番に出会えたのかと思ったのに……。


 そうは思ったものの、召喚主の見慣れぬ猫耳姿に胸のあたりがそわそわとして落ち着かない。


 口の堅いオレが何も語らなくても召喚主の病気をオレが肩代わりして治したことが分かっているのか、アイツが何か自分にして欲しいことはないかと聞いてきた。

 あ。じゃあ、さっきの猫耳つけて欲しいなー……と思ったけれど、何となくそれはまずい気がする。

 召喚主がせっせとオレに美味しいモノを食べさせてくれたお陰で身体は大人に成長できたけれど、アイツを見ていると胸がキューッとなってそわそわするし。

 この状態で猫耳なんて付けられたら、自分がどうなるか判らない。こういうのはせめて春先を過ぎてからだな。うん。


 それならと思って昔アイツに作ってもらったご飯を食べさせてもらったら、ようやく気持ちが落ち着いた。



 うん。そうそう。これだよ、これ! 



 オレが熱に浮かされているときに何度も見た。


 怠くて。苦しくて。痛くて。
 食欲なんて全然なくて。

 だけど、小さな体で一生懸命に世話を焼いてくるアイツをどうしても喜ばせたくて、オレは無理矢理飲み込んだ。


 あんまり美味しくはなかったけど。
 あんまり長くは一緒に居られなかったけど。


 だけど、アイツの笑顔と、うっかり指に噛みついちゃったときの血の味と、安心する匂いだけはしっかりと覚えてる。

 ――最期に見たアイツの泣き顔と、目を閉じた後に聞いた泣き声も。


 落ち着く声。
 口に残る懐かしい味。
 鼻から感じる大好きな匂い。
 温かい手で優しく頭を撫でられる感触。


 幸せな気持ちで薄目を開けたら、そこにはオレがずっと会いたかった、泣いていない笑顔のアイツが居て――。



(大好き)



 夢うつつの中で。
 ずっと伝えたかった大切にしていた思いを口にして、幸せな気持ちでぐっすりと眠ったら。




「――て! 猫ちゃん起きて!! 日付変わっちゃう、早く帰らないと」


 慌てた召喚主に叩き起こされて急いで塔に帰った。

 時間ギリギリだったから陰険腹黒眼鏡上司に無茶苦茶嫌な顔をされたけど、仕方なく最新の王子の日記の隠し場所を教えてやったら許された。

 最近は王子のヤツ、やたら警戒して日記の隠し場所を変えているからな。匂いで判るから何度変えたって無駄なのに。まあ、腹黒眼鏡には何でか判らないみたいだけど。



「……!?」



 あっはっは! 上司のヤツ、さっそく王子の日記を盗み読みして固まってやんの。超ウケル!

 アレ見ていったい何を想像しているんだか。むっつり腹黒眼鏡め。――ま、おもしれーから言わないけど。


 グッスリと眠ったおかげか胸のザワザワはすっかり消えていた。

 ついでにずっと大切にしていた記憶もうっすらとしたものになっちゃったけど、不思議と嫌な感じはしない。そして、アイツが特別な存在なのも変わらない。

 影としては問題があるかもしれないけど、こればかりは仕方ねーよな。

 獣人は義理堅い生き物だ。
 獣として一度でも命を助けられれば絶対にその恩は忘れないし、魂に刻まれた本能には逆らえない。何だかんだで、今だってアイツには色々と世話になっているわけだし。

 つっても、今のオレの飼い主は王家の影になるから表立って裏切ることはできないけど。

 ――ま、その辺は状況に応じて適当にやるしかない。

 白か黒かハッキリさせればいいってもんでもないし、オレとしてはどっちの毛並みも気に入っているからな。それを優しく撫でるアイツの手の感触も。


 自分の身体に残ったアイツの匂いが心地いい。最期に願った時と比べて随分と薄れていたけど、追加でしっかりとオレ様の加護を付けておいたからこれでしばらくは大丈夫だ。

 オレとしても、召喚主にあのやたらねちっこい妙な匂いだけは付けたくないし。まったく、どこであんな雑種を拾って来たんだか。



 うん! やっぱ、お互い元気なのが一番だ。
 しっかりと恩返しが出来たみたいでよかったぜ!





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