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339 ほろ酔い王子と召喚主 後編(王子視点)
しおりを挟む今夜は朝まで一緒に居てほしい……
帰り支度を始めた僕を見て放った召喚主の一言に、一瞬頭が真っ白になってとんでもない酔いと迷いが回ったが、間違えてはいけない。意味深に聞こえるが、召喚主のこれはただ単に悪酔いを抑えたいだけなのだ。
僕はお気に入りのクマちゃんに眼鏡を貸与して召喚主に押し付けると、後のことはクマちゃんに任せて幽閉塔へと戻った。
あのクマちゃんには僕の魔力がたっぷりと詰まっているから、1~2時間くらいならばもつはずだ。その頃には彼女の酔いも醒めるに違いない。
素面じゃない今の僕にはこの役目は危険すぎる。僕にとっても、召喚主にとっても。
帰る直前、『クマちゃんも眼鏡似合う~』とキャッキャしながら渡されたクマちゃんに頬ずりしている召喚主を見て、僕ソレやってもらっていないのにずるいと軽く嫉妬心を覚えたが、ぬいぐるみに嫉妬する時点で酔っている証拠なので、コレが正解。
石造りの塔はひんやりと冷たいが……酔いを醒ますためにはその冷たさがちょうどいい。
流石に今日は色々なことがありすぎた。
召喚主と半分こした肉まんあんまんと、コンビニコーヒーで楽しんだ明るい陽射しの下でのお花見。
僕の大好きなコーヒーを味わいながら――元気いっぱいの桜を嬉しそうに見上げる僕の……召喚主。
気が付いたらいつも通り長々と記憶魔法が発動していたけれど、頑張って無言を貫いたからバレてはいない……はず。
少し呆れた顔をしていたからバレちゃっているかもしれないけれど、笑っていたから少なくとも怒ってはいないだろう。
召喚主ならきっと大丈夫。
「あ……」
……ああ、まただ。
僕の中でどんどん召喚主への信頼が深まって、記憶の中に忘れたくない彼女の笑顔が増えていくたびに、異世界での僕の行動可能範囲が広がっていく。
日差しの下で桜を見上げる召喚主。
酒に酔って、潤んだ瞳で僕を見上げる召喚主。
温かな体温と腕に伝わる柔らかな感触と、ドキドキと落ち着かなくなるいい匂い。
お酒の影響でちょっぴり変なことを考えてしまったけれど、口には出していないから大丈夫。
思考翻訳スキルでも持っていたら軽蔑されてしまったかもしれないけれど、召喚主には魔力もないし、そもそも思考翻訳スキルなんて希少なスキルが使えるのはこの世界でも魔族か竜族くらいだからな。
ああ、そういえば地下ダンジョンにいる闇堕ち竜も使えたっけ。
日記を書くことで少しは落ち着いたけど、整理しきれないほんわかした気持ちはアイツに読み取って解説してもらえばいいだろう。封印中のアイツはどうせ暇だし。
僕も明日明後日は召喚がお休みだからちょうどいい。
……それはそうと、酔い覚ましに今日あったことを日記に書いていたら、いつの間にか部屋に入り込んだダンジョン猫が日記を覗き込んでいて、突然僕に強烈な猫パンチをして去っていったけれどあれはいったい何だったのだろう? 不思議なこともあるものだ。
その夜――色々といけない夢を見たが、流石に僕は悪くないと思う。あと、睡眠中でも記憶魔法は使用できることが判った。記念にしっかり保存しておこうと思う。
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