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11 出会い(公爵視点)
しおりを挟む最初はただの思い付きだった。家族を得たい。愛する者を得たい。けれど、生きた伴侶を手に入れることは嫁いでくれた妻のその後の人生を無責任に放り出すことと同じになる。
それならば、生きていない妻を娶ればいい――。
『王都の一角に、とても評判のいい人形店があるらしい』
それを聞いた私は興味本位で出掛けて行った。
そして実際に店を訪れてみて驚いた。
展示されている人形の中には子供向けの小さい物はもちろん、まるで実際の人間と同じような大きさの物まであったのだ。より精巧に作られたものは生きている人間と変わらない。
店主の説明によれば素材には力を入れているらしく、実際に触ってみると多少固くヒヤリと温度は冷たいが、肌の質感も人間のソレに近い。
ただの思い付きではあったが、コレならば十分、妻として迎えられそうだ。
ただ、人形だけあってとても美しいものが多かった。大きな瞳に長いまつげ。折れそうな腰の上にはとても豊かな二つの――。
人形達はどれも美しいドレスで着飾っており、全ての美を人型に詰め込んだようなその姿に見惚れてしまう。
決して安いものではなかったが、そのうち死ぬ運命を受け入れてきた私は今まで何の贅沢もしないで生きてきたのだ。これくらいは許されるだろうと、美しく創られた令嬢達を見て回った。しかし美しくはあるものの、あまり違いが判らず中々決められない。
何せ自分の妻を選ぶのだ。
少し背徳的な物を感じながらも、妥協はしたくなかった。
その中に妻が――『フェデルタ』がいた。
完璧な容姿に完璧な肉体。そんな全てにおいて文句のつけようのない美しい女性たちの中でたった一人浮いていた。美しくない訳ではない。可愛らしい……が、そこらに居ない訳でもない。つまりは、ごく自然な可愛らしさなのだ。
それが、かえって新鮮だった。
そして。
彼女とだったら、ごくごく自然な夫婦になれるのではないか――そんな風に思った。
店主に購入の意思を伝えたら、何故だか他の美しい人形をお勧めされた。あまり売りたくないのだろうか。
店頭に並べておいて不思議だったが、どうやら店主にとってフェデルタはかなり思い入れがある人形らしかった。他の人形とは違い、彼女だけは最初から名前がついていたのもその証なのだと思う。
しかし、私は他の人形にはもはや何の魅力も感じなくなっていた。おそらくは一目ぼれだったのだと思う。目の奥に潜む生命力を感じさせる輝きに夢中になった。
妻に迎えるのなら彼女しかいない。私の心は既に決まっていた。
なので『彼女でいい』と他のお勧めは全て突っぱねた。
店主の説得に時間はかかったが、最終的には無事にフェデルタを譲って貰えることになった。
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