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17 抑えきれない思い 前編(公爵視点)

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 使用人棟はひっそりと静まり返っていた。

 人員整理を進めたため、現在住み込みで働いているのはフェデルタの世話を頼んでいたシェリーを始め、その夫の執事や料理長といった母の代から仕えてくれている高齢の者のみとなっている。皆、ここが最後の職場と決めている者達だ。

 その他の足りない人材は通いの者でまかなっているため部屋のほとんどが空室となっており、住み込みの使用人もこの時間はそれぞれの持ち場についていることからこの辺りはあまり人の気配がしないのだ。

 そんな中。ふふふ……と聞き慣れた微かな笑い声が聞こえ、自然とそちらに足が向く。

 フェデルタの仕事は朝のマッサージと、昼・夜の軽いストレッチの付き添いのみ。それだけでいいと言った筈なのに、働き者の彼女は午後になると厨房や部屋の掃除などのほか、庭の手入れなど、人手が足りないと思われるところを手伝うために動き回っている。

 働いている方が落ち着くと言うので自由にさせているが、そんな彼女も不思議と午前中だけは部屋にこもっている。


 ふふ…あのね……それで………


 部屋に近づくにつれ、話し声が鮮明に聞こえるようになってきた。間違いなくフェデルタの声だ。この時間、部屋にいるのは彼女のみだから間違えようもないのだが。

 それにしても、彼女はいったい誰と話しているのだろうか? シェリーには先ほど用事を頼んだから邸に居ないし、他に彼女が親しく話すような相手に心当たりはないのだが


 部屋のドアは閉まっている。


 来客中なら出直した方がいいだろうか。でも、相手はいったい誰なのだろう?

 こんなことをしてはいけないと思いつつも、もっとよく聞こえるようにドアに耳を付けて――聞こえてくる話の内容に固まってしまった。


「今日ね、公爵様に『お陰でずいぶん楽になった』って言ってもらえたの。少しずつ歩けるようになって、この前なんて一緒にお庭をお散歩できたのよ。全部、貴方のお陰だわ。貴方が、こうしてマッサージの練習に付き合ってくれたから」


『全部、貴方のお陰』『マッサージに付き合ってくれた』……言葉の端々からフェデルタが話している相手が浮かび上がってきて、血の気が引いていく。



 ドクドクドクドク……。



 部屋の中に聞こえてしまうのではないかと思うくらいに心臓が慌ただしく動いている。嫌な想像を打ち消したくてそっと扉を開くと、ベッドに横たわる足が見えた。


「……どう? 気持ちいい?」


 ベッドに横たわる大きな男性の足。その傍らに立ったままの彼女が、しきりに男の身体に触れている。
 男に気をとられているせいで、彼女は薄くドアが開いているのには気が付かない。

 ふと、言葉を止めた彼女の唇が、段々と男の顔に近づいて……。

 バン!!!



「いったい誰を連れ込んでいる!!」



「こ……公爵様!?」


 気づいた時には、私は叩き壊す勢いでドアを大きく開け放ってフェデルタを睨みつけていた。




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