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20 プロポーズ

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「フェデルタ。すごく驚いたけど、私は君が戻って来てくれて本当に嬉しかった。けれど君を公爵家の事情に巻き込めないし、気持ちを押し殺してわざと距離を取っていたんだ。でも、ダメだな。君を他の人間に託したというだけでこうも嫉妬してしまうのに、どうして君を手放せると思ったんだろう?」

「公爵様」


 拘束していた手が緩み、公爵様が愛しげに私の顔を覗き込む。

 私を見つめる優しい目で。
 大好きだった愛しさがにじみ出る優しい声で。

 生きて、動いている私を求めてくれる。


「愛しているよ、フェデルタ。……人形師から聞いているかもしれないけれど、私の病は本当は病気ではないんだ。公爵家の先祖にかけられた呪いだから、いくら一時的に症状が良くなったとしても死ぬ運命からは逃げられない。そう遠くない未来に君につらい思いをさせてしまう。でも、それでも君には妻として私の傍にいて欲しいんだ。だから……フェデルタ。どうかもう一度、今度は人として私と結婚してほしい」

「はい……はい! 公爵様」

「……ちゃんと名前で呼んで。人形師を名前で呼ぶのに夫を名前で呼ばないのは不公平じゃないか。それとも私よりも人形師の方が大事?」

「私も貴方を愛しています。…ジェネラス様」

「やっと名前を呼んでもらえた」


 公爵様が私を抱き寄せる。口づけを交わし、そのままベッドに押し倒そうとして、先に横になっているもう一人の公爵様に気付き、本物の公爵様が軽く眉を寄せる。
 その様子がおかしくて、ついクスクスと笑ってしまった。

 やれやれと、公爵様がそっとため息を吐く。


「自分で自分にヤキモチを焼くことになるはね。そう言えば、もう一人の君はどうしたの? ……まさかまだあの人形師の元に」

「いえ、流石に自分の分身のような存在をそのままにしておくのは嫌だったので、人形師に公爵様を作ってもらった残りのお金で買い取らせてもらいました。ほら、そこに飾ってありますよ。おかげでせっかく公爵様にもらった大金が底をついちゃいましたけど」


 クローゼットの横にちょこん、と座っている私を指差すと公爵様はホッとした顔をした。


「良かった。たとえ抜け殻だったとしても、君を他の人間に触れさせたくはないからね。そうだな、彼女にはこっちの私をしっかりと繋ぎとめておいてもらおうか。フェデルタを奪われたら堪らない」


 公爵様はそう言うと、ベッドの上に居た公爵様を人形の私の横に座らせた。人形同士仲睦まじい様子に頬が緩むが、自分達とそっくりなだけに見ているとなんだか不思議な気分になってくる。


 公爵様はベッドに腰掛けている私の前で片膝をつくと、そっと私の手を取った。

 そして。


「愛しているよフェデルタ。人形の君も素敵だったけど、すぐには信じてもらえないかもしれないけれど、私が欲しいのは君なんだ。フェデルタが自らの意志でこうして私の元に戻って来てくれて、生きている令嬢だと知って、君を清いままで手放すのが一番良いと我慢していたけれど……人形師どころか自分の分身にすら焼いてしまうのでは無理そうだ。私の我が儘で君の将来に影を落とすことを許して欲しい。その代わり生きている限り君を愛するし、死んでも君を守るから」

「はい、ジェネラス様。これからもずっとお傍に居させてください……」


 公爵様の目が私を見つめて嬉しそうに緩む、

 優しくて温かな、それでいて熱を孕んだ公爵様の目。大好きだった目。

 人形の目を通して、もう何度見つめ合ったことだろう。
 呼吸も、受け入れるタイミングも全て知り尽くしている。



 ……唇が重なり空いたベッドに押し倒されて。
 もう一人の私と公爵様が見守る中で、私達は本当の夫婦になった――――。




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