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22 呪いの行方
しおりを挟む「……だからね、申し訳ないのですがこの二人はバラバラにはできないのです」
人形店のショーウィンドウに飾られた、夫婦を模した魂の宿るお人形。
その前で、女の子が『コレが欲しい』と父親に駄々をこねている。
飾られている人形はドレスのデザインなどは少しばかり古いが、本物と見紛うばかりに質は良い。
その分、少々値段がお高い上に、夫婦セットでないと売れないのだと店主は言う。
事情を話したことで父親は納得してくれたが、小さな女の子は泣き止まない。まだ幼い女の子には話が少々難し過ぎたようだ。
店主は少し考えて、店の奥から女の子ソックリの人形を見繕ってくると子供はそちらに心を移し、父親と共にそちらを購入してニコニコと大満足で帰って行った。
きっと女の子はあの人形を大事にしてくれるだろう。
「これでよし、と。……約束をしたからにはちゃんと守りませんとね」
人形店の大きなショーウィンドウの前で。まるで人形に語り掛けるようにつぶやく年老いた人形師。かつては天才と誉めそやされていたが……加齢によりその手は震え、今では新たに人形を作ることは出来ない。
この二人は自分の生涯における最高傑作。
老人形師は満足そうに飾られた二人を見る。
幸せそうにお互いを見つめる二人にはどこか暖かい空気が流れ、その様子は道行く人々の足を止め彼らの購買意欲を刺激する。
けれど、この二人が一番輝くのは彼らが一緒に居る時だ。
一人ずつバラバラに飾ると途端にその魅力が半減する。
寂しそうに。悲しそうに。それは道行く人の同情を誘ってしまうくらい。
だから老人形師は飾り方一つにも気を配る。
自分の最高傑作の二人にはいつだって幸せそうにしていてほしいから。
自分が生きているうちに二人を任せられる購入者を見つけなければ……そう思ってはいるのだが、自らの理想とするものが高すぎてなかなか彼らを手放すことが出来ない。
老人形師は二人が気持ちよく外を眺められるように。
ショーウィンドウの大きなガラスを隅々までキレイに拭きあげると、最近曲がり始めた腰を伸ばして店の奥へと消えていった…………。
「――と、いう夢を見た」
「嫌だわ、ジェネラス様。私もよ!」
庭に作った四阿で。アフタヌーンティーを楽しんでいた私は驚きの声を上げた。公爵……ジェネラスが見たという夢と、まるで同じものを昨夜自分も見たからだ。
あり得そうで怖いわぁー…とため息をつきながらケーキを自分の分身に取り分ける私。
だよなー…と言いながら紅茶を自らの分身に注ぐ公爵のジェネラス。
午後のお茶の時間。
現役の公爵夫妻として忙しく働く私達が一番大切にしているひとときだ。この時間は私達夫婦の他に人形師のファーレに作ってもらったお人形の二人も必ず同席をする。
最初はお互いに伴侶の人形を世話していたが、相手や自分を模した人形からの圧がすごくてこの形に落ち着いた。
まぁ、人形の方は気のせいだと思うが。
それでもダイエットをしているときなどに自分の好きなケーキを自分の分身にすすめるのは楽しい。決して太らぬ自分から若干ドヤ顔をされている気もするが、自分が彼女だったら同じことをやると思うのでそこは気にしない。
贅沢な、それこそ貴族の遊びかもしれないが、残ったケーキはメイドたちが競うように分け合っているから無駄にはなっていない。だから使用人達も公爵夫妻のこの一風変わったお人形遊びを優しく見守ってくれる。
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