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3 気落ちする夫
しおりを挟む突然の母の死。
愛する妻の死から目を背けるように仕事に熱中していたので聞いていなかったが、母は何か重大な病気でも患っていたのだろうか。
棺の中に納まる母の顔は窶れ、酷くやせ細っていた。
妻のことでは母も随分と気に病んでいたから、そのせいだったのかもしれない。
ああ、何故僕だけにこんなにも不幸が降りかかるんだ!!
流石に気落ちした僕は王太子殿下の側近の仕事を休職し、しばらくの間のんびりと過ごすことにした。妻と母のいなくなった屋敷は驚くほど静かだ。
そうして静まり返った屋敷で一人過ごしていると、どうしても賑やかだった頃のことを思い出してしまう。
愛しい妻を娶り、結婚当初は毎日がとても幸せだったものの――あまり気が合わないのか、段々と妻と僕の母親の折り合いが悪くなってしまったのだ。
「あなた、お義母様の事で少しお話しが」
「ちょっと、聞いてちょうだいよ、あの子ったらまた生意気な態度を――」
仕事から帰るなりそんな風に僕の取り合いが始まる。確かに世間では嫁と夫の母親はうまくいかないことが多いが、まさか僕の家に限っては――と思っていた。妻のシェルタは明るい性格だし、母も気遣いの人だ。それなのに、毎日お互いの不満ばかり。
殿下の側近として忙しく働く僕からしてみれば、屋敷に帰ったときくらい心穏やかに過ごしたいのに……。
ちょうど第一王子殿下が失脚し、僕が仕える第二王子殿下が王太子に指名されたばかりの頃だった。第二王子殿下の側近だった僕も自動的に王太子殿下の側近となって、それまで以上に仕事が忙しくなっていた。
家族のゴタゴタが面倒になった僕はこれ幸いと城に泊まり込み、一年間に渡る王太子殿下の各国へのあいさつ回りにも率先して付いて行った。
妻の訃報はまさにその間にあった出来事だ。
こまめに手紙を送っていたものの、どうせ返事が届くころには次の国へと移動しているし、旅先でまで余計なことに煩わされたくなくて、あえて家族には連絡先を教えずに過ごしていた。
結果、国に戻るまで妻の訃報も知らず、埋葬に立ち会うことすら出来なかった。
ああ、二人が上手くやってくれていたらこんなことにはならなかったし、僕だって避けたりはしなかったのに。
下らぬ愚痴で僕の貴重な時間を奪う妻と母親を煩わしく思ってはいたが、決してあの二人を嫌っていたわけではない。
僕は愛する二人を相次いで喪ってしまったことに耐え切れず、しばらくは酒浸りの日々を過ごしていたものの――このままではいけないと、遺品を整理するために近寄ることの出来なかった妻の部屋へと入った。
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