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前編
しおりを挟む『婚約破棄の途中ですが課金しますか?』
婚約破棄の真っ只中。そんな選択肢が突然目の前に現れて、私は思い出した。
ああ、ココは生前にやっていたアプリゲームの世界だと。
確か、ヒロインは目の前で私の婚約者にぶら下がっている男爵令嬢だ。悪役令嬢に対する断罪がうまくいくかどうかで結末が変わる――そんなゲームだった。
無課金でもなんとかクリアできるけど、かなりの時間を要することになる。しかも、何故か悪役令嬢のしぶとさがランダムで変わり、運が悪いと無課金でのクリアは非常に厳しくなる。ただしその場合でも最後の最後で課金すれば攻略対象との幸せな未来が確約される。
そう。このゲームは課金が全て。課金することで卒業パーティー参加者のプレイヤーに対する評価が変わるので割と簡単にハッピーエンドを迎えられる――筈なのだが。
目の前に広がる四角い、半透明のゲーム画面。そこにプレイヤーが表示されているのは前世でやったゲームと一緒で変わりないが、表示されているのはヒロインの男爵令嬢ではなくどう考えても現在の私――断罪される側の悪役令嬢だ。
服装も今日の装いそのまま。卒業パーティーだというのに婚約者である王子からドレスが贈られることもなかったので、わが公爵家の威信をかけて相応しいものを自分で注文した。シンプルながらも細かい細工が美しい、見る人が見れば分かる最高品質のドレス。
そこに、婚約者の瞳の色のアクセサリーをつけまくって仲良しこよしをアピール……するつもりだったのよね。
ここがゲームの世界だと思い出す前の馬鹿な私は。
プレイヤー画面に表示された趣味の悪いアクセサリーをジャラジャラ纏った自分を見て呆れてしまう。
学園に入学したころからイベントごとの度に婚約者から義務的に送られてきたプレゼントのアクセサリー。見るからに安っぽいし質も悪いが、確かに色だけは婚約者の瞳の色だ。
卒業パーティーという人生の節目で。今まさに男爵令嬢を片手にぶら下げながら正当な婚約者である私を憎々し気に睨みつけている瞳と同じ色。――いやー、無理だわー。ないわー。今すぐ根こそぎ外したい。
だって。
ヒロイン目線で散々ゲームやったけど、貴方、メッチャお楽しみだったもんね? バイトに明け暮れる元平民の男爵令嬢とデートしまくっていたもんね、目の前の婚約者様。
一線こそ超えていないけど、ハグとか結構していたじゃん。お気に入りのイラストレーターさんだったから無課金でスチルコンプ頑張ったんだよ。だからヒロインとのイベントも全部知ってるよ。
クリアするには課金三分、無課金三カ月。そんな風に言われていたゲームだったけど、貴重な時間使って五カ月かけて全クリしたわ。だから覚えてる。
よく考えてみればこの婚約者様、普通に裏切られる悪役令嬢目線ではありえないし、婚約者がいる状態でデートに誘ってくるとかヒロイン目線でも正直無理だわ。責任感が無さすぎる。
思い出した以上、婚約継続はあり得ない。でも、この先の流れも分かっている。ヒロインをイジメたとして断罪され、悪役令嬢は修道院送りになる。
――が、こうして悪役令嬢になった私は知っている。イジメなんてしていないし、突き付けられる『悪事』とやらもほとんどが言いがかりや冤罪だ。
正直、ヒロイン目線でプレイしていても無理があった。そこを課金でゴリ押ししていく――そんな楽しみ方をするゲームでもあったけれど。
やっていないことはやっていない。
そしてこんな婚約者様、私はいらない。
どうやら私もプレイヤーらしい。なるほど。前世でヒロインとしてプレイしていた時に、悪役令嬢の強さがランダムだった理由が今わかった。こちら側も課金が出来るのだ。
そして、中の人のプレイスタイルによって手強さが変わっていたのだろう。
それさえ分かれば躊躇はしない。課金すれば断罪が回避できるというのなら公爵家の潤沢な資産を使っていくらでも課金してみせる――と思うのだけど。
男爵令嬢がヒロインだった時にはあった、残高を示すお財布表示がない。このゲーム、お貴族様との恋を楽しみながらバイトで貯めたお金を使い最後の卒業パーティーでの婚約破棄イベントで課金する――という仕様だった。
恋をメインで楽しみたいならサクッとリアルで課金。これでバイト部分は省略できる。
無課金で楽しみたいなら、限りある行動のほとんどを費やし、バイトに明け暮れる。
攻略対象によっても難易度は変わるけど、ヒロインが目の前で私の婚約者である王子にぶら下がっているところをみると、間違いなく無理ゲー。ヒロインもある程度は課金を覚悟しているのだろう。
今ならわかる。ヒロインの華奢な肩にはパーティーにそぐわない実用的なごつい肩掛けカバン。今までも何度もこういう事があった。
悪役令嬢である私は律儀にも『大きな荷物はパーティーの受付前に預けるものよ。何度も教えて差し上げているのに、いつになったら覚えるのかしら。マナーがなっていませんわよ?』なんて毎回親切に教えてあげていたのだけれど。彼女には預けられない理由があったのだ。
前世と違い、ココには紙幣などない。お金は全て金貨等のコイン。
高難易度。王子の婚約破棄を成功させるために、彼女は卒業パーティー会場に現金を持ち込む必要があったのだ。今までの行動はそのお試し。特にイベントのないパーティーを利用して、どのくらい現金を持ち込めるのかを試していたに違いない。
ずっしりと重そうなそのカバンの中には、おそらく王子ルートをクリアするために働きまくってきた彼女のバイト代が詰まっている。
それに対し――私は入場前にほとんどの荷物を預け、会場内に持ち込んだのは実用性が皆無の小さなポーチだけ。
中身はハンカチと、化粧品。現金はない。
だから、ゲーム画面にお財布マークが表示されない。
こんなことになるならば私も――。
――いいえ。
例え婚約者に愛されていなくても。
冤罪を掛けられるほど疎まれていても。
私は公爵令嬢なのよ。前世はどうあれ、今世で培ってきた高位貴族としての矜持がある。そこは譲れない。
マナーも知らない男爵家の小娘とは背負っているものが違うのよ。
元平民の男爵令嬢がコーデもマナーも何もかも無視して全財産を持ち込んで課金勝負を仕掛けてきたとしても――。
公爵家の資産をあてにした現金勝負はできないとしても――。
私は私のプライドを守りつつ――例えダメ元でも、この状況に立ち向かって見せる!!!
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