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中編
しおりを挟む「マニエール・ノービリス公爵令嬢、お前は僕の婚約者であるという己の立場を利用し、僕の大切な女性を傷つけた。聞くところによるとお前は……」
壇上では先に男爵令嬢と会場入りした婚約者からの婚約破棄宣言に続き、私への断罪が始まっている。言いたいことは分かっている。服装を馬鹿にしただの、マナーを笑っただの、仲間外れにしただの、よくあるヤツ。聞くまでもなく王子のセリフは覚えている。
……時間がない。今のうちに行動を起こさねば。
『現金』はなくとも確か、このゲームには買取や下取りシステムがあったはず。課金するお金が無くなった時の救済措置的な扱いだったけど、確かアイテムの売却金額がそのまま課金できたはず……あった。地味に隠された下取り&課金アイコン!!
手持ちの現金はない。――が、今の私はここ数年で王子から贈られた趣味の悪い王子の瞳色アクセサリーをコレでもかというほど身に着けている。
試しに半透明の画面に映る私が身に着けたアクセサリーの一つに目線を合わすと――なんと、下取りアイコンの所まで移動できた! やった、視線で操作できるとか!! 手で動かさなくていい分、公衆の面前で変なダンスをしなくて済む。安心の親切設計。
なので、次々と下取りに出していく。
3000……5000……2000……。
チャリンチャリン、と響く課金音と共に。驚くほど安い下取り価格が表示されていく。まあ、そうでしょうね。贈られたモノは見るからに安っぽかったし。
おそらくは、私に高価な品を贈るフリをして安く済ませ、男爵令嬢とのゴージャスデート代に充てていたに違いない。人目を気にせずデートできるようにって、劇場借り切ったりしていたものね。馬鹿みたい。
ヒロイン視点から言わせてもらえば、物でくれれば横流しして最後の最後で課金できたのに――ってところだ。
あまりに買取金額が安かったので、ついでに自分で初めてお小遣いを貯めて買った指輪の1つも下取りに出した。頑張って買った思い出の品だけど、婚約者様の色だからもういらない。
課金合計2,050,800エル
特大のチャリン音。
……おっと。桁が一気に跳ね上がりましたね。年齢一桁だった時の子供のお買い物に、王子から贈られたアクセサリーの総額が負けちゃうとか、ないわー。この王子との未来だけはないわー。
しかし、王子から婚約者への贈り物の総額が50,800エルて。ピアス、ネックレス、指輪、その他もろもろ合わせて10個以上下取りしたから一つ5,000エル切ってるんじゃない?
買取価格だから低め……ってのがあるにしてもこれってどうなのよ。相当ケチられたか目利きがなってないか……どっちにしてもそんな王子様との未来はあり得ません。
まあ、貰った時点でやっすいのは分かっていたけどね。あの頃はゲームのこと思い出してなかったから、婚約者からのプレゼントってだけで大喜びしていたのよ。
国民の税金を無駄にしないようにしているのね、きっと彼は領民のことを気遣ういい公爵家当主になるわ……なんてお花畑思考全開で。
「――と、いう訳でお前との婚約は破棄だ!!」
おっと、断罪終わったみたいです。そして再びこのセリフが出た後は。
「お前の愛など、そのこれ見よがしにジャラジャラと身に着けた安い宝石と同様、価値などない!!」
「「「え? 宝石??」」」
会場からの戸惑ったどよめき。
はい。安物の宝石は売却して課金済み。現在、私はシンプルながら質のいいドレスを品よく着こなしております。
あー重かった。心も体も超身軽☆
「なんかさ……王子のさっきの言いがかりっぽくね?」
「だよなあ。俺、公爵令嬢が注意しているのを聞いたけど、確かに男爵令嬢のあのカバンはないわー。預けるだろ普通。紐が肩に食い込んでいるけど何が入っているんだよ」
ひそひそひそひそ……。
王子の発言&私からの課金効果で会場の雰囲気が変わる。やったね☆ 不用品を処分しただけでコレ、逆転出来るんじゃない?
――と、思いきや。
チャリィ――ン!!
ひと際大きな課金音の後に、男爵令嬢が叫ぶ。
「コレは……私を女手一つで育てて下さった実のお母さまの形見なのです。男爵家に引き取られる前に亡くなってしまい、このカバン一つで私は貴族の世界に放り込まれました。マナー違反なのは分かっていましたが……せめて、天国にいる母に元気に学園を卒業する姿だけでも見せてあげたいと思い、それで……!! ぐすん!!!」
カバンを掻き抱く男爵令嬢。見れば、カバンの不自然なまでの膨らみは消えている。中身がない。課金されたという事か。
「そういう事なら分からなくも……」
「つーか、親の形見に文句つけるとか公爵令嬢も酷くない?」
まずい、流れが変わってきている。あの、元のカバンの膨らみからすると、MAXバイトに加え多少のリアル課金もしているようだ。
慌てて残ったアクセサリー(自前)を下取りに出すが、結構な金額が付いたにもかかわらず形勢は変わらない。
くっ! あの男爵令嬢いくら課金したのよ……!!
まずい。このままでは悪役令嬢の私は修道院へとまっしぐら。回避するためには身に着けている何かを売らなければならない。
髪留めも、お気に入りのネックレスももう売った。ポーチも中身も売った。残された高価なものとなると……。
――――ドレス――――。
国内外で一番のデザイナーに頼み、二つとない最高級の布を使い、国一番の技術者が作りあげた、芸術品ともいえるドレス。
私が今日身に着けた物の中では一番の高級品。ヒロインが幾ら課金したのか知らないけれど、これを下取りに出せば間違いなく私は助かるだろう。周囲は私の言い分を信じる。婚約破棄をされても私の身の潔白は証明される。
でも――。
課金と同時に消えたアクセサリーやポーチ。
ドレスを下取りに出すということは、つまり――。
ドレスの下はコルセットと下着。ドレスを売ったらその場で消え失せる。勝負下着とはいえ、不特定多数に下着姿を見られるとか、これ以上ない負け戦だ。そうなったら、例え勝負に勝っても私の修道院送りは免れないだろう。
裸で身の潔白を証明しての修道院か。
冤罪を被っての修道院か。
アクセサリーもポーチも売って、後のない私。
下取りとはいえ、結構な金額を課金したというのにまだ足らないなんて。残るはこの身につけた物だけなのに。
公爵令嬢として。
体面を重んじる貴族として。
私の取るべき決断は――!!
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