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後編
しおりを挟む「何をやっておるのだ!! この馬鹿王子が」
壇上で。公務の為、遅れてやってきた国王陛下が婚約破棄騒動を起こした元婚約者を叱責している。
それを、スカートを軽く摘まみ、膝を折り、身を低く低ーくして礼をとりながら見守る私。
そう。私はドレスを売らなかった。例え身の潔白を証明できたとしても、醜聞をバラまいたら意味がない。貴族として、体裁を守る必要があるのだ。
国王陛下の登場により、再び場の空気が変わった。国王陛下が秘かに付けていた影の者の報告により、私の身の潔白は証明された。そして、男爵令嬢の嘘も発覚した。
彼女はマナー無視で持ち込んだカバンを母の形見と称していたが、彼女の実の母は生きてピンピンしていた。
よりよい教育を受けさせるため――彼女の母親は娘の幸せを願い、男爵に言われるまま泣く泣く手放したが、愛する娘の晴れ姿を一目見ようと卒業パーティーの会場にケータリング業者として入り込んでいたのだ。
親の行動は王家の影より早かった。
影が国王陛下に報告をあげている間にサッと壇上へとあがり、人様を陥れるような嘘つきにするために手放したわけじゃないと説教をし、その場で謝罪をさせた。母親も自分の育て方が悪かったのだと、床に頭が付きそうなほどの勢いで謝罪して、自分の元で再教育させてほしいと懇願した。
母親の必死のとりなしのお陰か、男爵令嬢は平民である母親の元へと引き取られることになった。勿論男爵家からは籍を抜かれ、身分は再び平民へと戻される。もう会うこともないだろう。
「公爵令嬢との婚約は白紙だ。王子は再教育の末、改心せねば身分剥奪のうえで、市井に放り出す。それはそれでお前にとって幸せかもしれぬな。そこの女との身分差もなくなり、お前も好きな相手と婚姻できる。聞くところによると相当の働き者らしいし、お前には出来た嫁だ。これまでのバイト生活での貯えもあるだろうし、当面苦労はしないだろう」
「そんな!! 父上……ッ」
いや、さっきソレ消えたけどね。課金して。
ホラ。元男爵令嬢、元形見の空のカバン持って抜け殻みたいになってるし。
学生生活のほとんどを費やしたバイト代が一瞬で溶けた上、攻略失敗して貴族籍まで失うとか。自業自得とはいえ、失うものが多すぎる。婚約破棄なんてギャンブルに手を出すもんじゃないな。
「……して、ノービリス公爵令嬢。顔を上げよ。この件は息子の有責だ。婚約は白紙となったが、王家として何もせぬわけにもいかぬ。何か望むものはあるか。慰謝料でも宝石でもなんでもよい。申してみよ」
「恐れながら……」
姿勢を正し、国王陛下に申し上げる私。
「わたくしは貴族の娘。家の為、国の繁栄の為に婚姻を結ぶのは当然のこと。今回はわたくしの力不足によりご縁がありませんでしたが、行き遅れとはいえ、貴族としてこの国を支えていくためにも、一刻も早く次の良縁を見つけなくてはなりません。よって、早々に新たな婚約を結ぶ許可を」
「許そう。ああ、馬鹿な息子だ。このような国への忠誠心溢れる貴婦人の鑑を自ら手放すとは……ああ、いや。白紙となったのだな。王家としても今回の件に一切惑わされることなく良縁を探す手伝いをすることを約束しよう。他には?」
「有難き幸せにございます。この場を収めるためにも、場を騒がせた者の一人として退出する許可を。ここは祝いの場所でございます。皆様が今日という日を憂いなく楽しめますように――」
「許す。ああ、かえすがえすも口惜しい。息子は何と勿体ないことを……」
許可を得た私は再び礼をとり、その場を退出する。
優雅に。美しく。決して足の震えを悟られることのないように。
つま先立ちのカーテシーはかなりキツかった。ダンスで鍛えた体幹のバランスが無ければ転んでしまっていたかもしれない。
そう――。私は課金したのだ。周囲から悟られることなく。現在身に着けている物の中から、二番目に高い、ドレスと同じデザイナーによる贅沢の限りを尽くした『靴』を――。
下着姿を晒さないため。
貴族の矜持を守るため。
私が不要と選んだのは靴。
裸足など恥でしかないが、裾の長いドレスならバレる心配もないはずだ。ヒールがあった分、つま先立ちをしなくてはならないので足の筋肉疲労は半端ないけれど、そんなものは貴族の見栄で乗り切って見せる。
優雅に見えるがどこの貴族も見えないところでは苦労をしている。それと同じこと。周囲から『見え』なければ『見栄』が張れる。
それで、更なる良縁が舞い込んでくるというのならこんな小さな躓きなど取るに足らない。貴族として。安易に勝ちにこだわることなく下着姿を晒さなかったからこそできたこと。
正直、靴で足りるのかは賭けだったけど、どうにかなったみたいだ。
「それでは皆様、わたくしは下がらせていただきますが、卒業パーティーの続きをお楽しみくださいませ」
最後に一つ礼をして、あくまでも優雅に。
私はつま先立ちで会場をあとにした。
卒業パーティー会場からは再び軽やかなダンス音楽が流れ出した。興味津々についてくる視線も、一つ、二つと減っていき、やがて誰もがパーティーへと夢中になる。
受付や警備の人達とも十分距離を取り、細かく判別できなくなった辺りでようやくかかとを下した。
公爵家の馬車はすぐそこだ。
そしてしっかりと地に足をつけて。私は良縁を求めて歩き出した。
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