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22 お前を愛することはない(竜王視点)
しおりを挟む「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………お前を愛する……ことは……ない」
不思議なことに。言い慣れたはずのその言葉が、なかなか口から出てこなかった。
何百、何千、何万回……年に一度のデビュタントの日を迎える度に、ヴァールが飽きるほど新成人の少女達へと送ってきた言葉だったのに。
「……ありがとうございます、竜王様」
ヴァールからの言葉を受けて。
晴れて成人を迎えたリベルタが淑女の礼をとる。
ピンと背筋を伸ばして。胸を張り堂々とその場から去って行くリベルタの背中から、ヴァールはどうしても目が離せなかった。
「……リベルタ嬢っ!!」
ピクリッ。
背後からかけられた声に、リベルタの肩が跳ね上がるのが見えた。
「良かった、まだ居たのだな」
荒くなった息を整えて、会場から追ってきたヴァールはリベルタの元へと駆け寄った。
会場の僅かに外。リベルタは預けていた上着と荷物を受け取って、今にも帰ろうとしているところだった。
「あの……何か御用でしょうか。流石にこの歳では他の参加者に知り合いもおりませんし、竜王様への御挨拶が済んだのでお暇しようかと思ったのですが……。……はっ! もしや、私が国を出てから慣例が変わって、途中退席が失礼にあたってしまうとか……? だ、だとしたら申し訳ございません! 私の確認不足ですっ」
「ああ、いやいや。そうではない。わが国の成人の儀を兼ねたデビュタントには他国からの賓客も多くあるのでな。予期せぬ交渉事で終了時間が遅くなることもあるし、国王への挨拶が終わった新成人の途中退席は今まで通り許している。その……そうではなく、少し、リベルタ嬢に確かめたい事があって」
「結婚のことでしたら先ほど……」
「ああ、それはよいのだ。ただ――その」
ヴァールは僅かに口ごもる。
言いづらい、というか。ヴァールは何と言葉にしていいのかが分からなかった。分からぬままに、居てもたってもいられないでつい、その背中を追いかけてきてしまったのだ。
「…………正直に話そう。リベルタ嬢が16歳で初めてデビュタントに参加したときから……毎年……国を出る直前のデビュタントのときまで。私は何か、リベルタ嬢に対して特別な物を感じていたのだ。それは今、当時のそなたの姿を思い出してみても変わらない」
キラキラと光り輝くような――
少しも目が離せないような――
言葉にしがたい、神聖な気配すら感じるソレは常にリベルタと共に在った。
だからこそ、リベルタだけがいつまでも判別することが出来ずにいたのかもしれない。
「しかし、その言葉にしづらい『何か』が今のリベルタ嬢からは感じられなくなった。その理由が知りたいのだ。分かるなら教えてくれ。この国を出てから何か変わったことはないか? どこかで何かを失くしたりはしてないか?」
諦めが悪いのは自分でも分かっている。リベルタは結婚していないし、それはヴァール自身が先ほど確かめた。
そして――自らの番ではない、それも何となく分かった。
焦りから。ヴァール自身何を言っているのか分からないが、これだけは分かる。再会したリベルタからは、以前に感じていたヴァールを惹きつけるような、好ましい何かが明らかに消えていた。
番ではない。分かっている。それでも、確かめずにはいられない。
自分は、なんであんなにもリベルタを手放せなかったのか。
何にあんなにも惹かれていたのか。
「何でもいい。以前のリベルタ嬢と今のリベルタ嬢で、いったい何が違うのか。分かるのなら教えてくれないか……」
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