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27 さようなら、番だった人(リベルタside)
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――とはいえ、今ではただの元・番に過ぎない。
そのせいか、リベルタは早く話を切りあげたくてたまらない。
その為にも早く相手を納得させなくては。
「私は猫獣人の両親から生まれた、先祖返りの竜人です。己の寿命すらも分からない不安定な存在です。それでも同じ竜人として――いえ、もしかしたら私が先祖返りだったからこそ……竜王様は、同種族の異性が持つ若さゆえの輝きに惹かれたのではないでしょうか。不安定な先祖返りの竜人の、もっとも輝く時期があの頃だったのだとしたら……歳を重ねた今の私にソレがないのは当たり前のことかと存じます」
リベルタは自分でそう説明しながらも、少し困ったような……情けないような気持ちになってしまう。
そうして縋るように思い出すのは「彼」のことだ。
今日になってようやく成人できたリベルタ。既に若さの欠片もないが――それでもそんなリベルタがいいのだと言ってくれる相手がいる。
彼の言葉ならリベルタは信用できる。だからこそ、こうしてリベルタは逃げも隠れもせずに堂々と番のいる母国へ帰ってくることができたのだ。
思い出すだけでリベルタの口元に自然と笑みが浮かぶ。
その矢先。
「ちがうっ! 私は母のこともあって、若さなどに惑わされたりは……」
ヴァールから不機嫌そうな声で怒鳴られて、リベルタは真っ青になった。
まずい。調子に乗って言い過ぎたかもしれない。
竜王ヴァールとリベルタは番――とはいっても、それはリベルタが一方的に知っているだけで、ヴァールは怪しんでいただけ。しかも、その疑いは先ほどリベルタがデビュタントの会場で、国王への挨拶の際に奇麗サッパリと晴らしてあげた。
ヴァールからしたら今のリベルタはただの無礼な先祖返りの竜人に過ぎない。
リベルタとしてはヴァールの質問に答えただけだが、相手は国王だ。不敬罪とか言って捕まえられたらどうしよう。
怖い顔をして黙り込み、何やらアレコレと考え込んでいるヴァールを前にリベルタは心底肝を冷やしたが。
「……すまなかった。判別が長引いてしまったせいで――私がリベルタ嬢の若さを奪ってしまったのだな」
「い……いえ! 申し訳ありません、こちらこそ余計なことを言ってしまいまして……」
やがてヴァールから発せられた謝罪の言葉に、リベルタはようやくホッとすることが出来た。
これ以上リベルタは余計なことを言わない方がいいだろう。用事は済んだし一刻も早くこの場を離れるべきだ。
そうは思うものの、リベルタの目の前にいるヴァールは、またもや何かを考え込んでいる。
帰ると一声かけたいが、先ほどのこともあり何がヴァールの逆鱗に触れるか分からない。リベルタがすっかり疑心暗鬼になって困っていると。
「ヴァール様」
救世主が現れた。人間の女性のようだ。
親し気に国王の名前を呼んでいる様子からすると、二人は知り合いであろうと思われる。
この機を逃すまいと、リベルタは声を上げた。
「あ……あの、竜王様っ! 旅の疲れもありますし、私はそろそろ御前を失礼させていただいても……っ?」
「あ……? ああ、すまないな、リベルタ嬢。帰るところを呼び止めてしまった。……アシュランス伯爵家の爵位継承については先ほど言った通り承知した。すぐに対処するから、今日は安心して旅の疲れをとってくれ」
既に人間の女性へと興味を移しているヴァールはリベルタをすぐに解放してくれた。リベルタへの関心はなくなったようで、足早に人間の方へと去って行く。
昔から何度も見てきた光景だ。
一つだけ違うのは。
楽しそうに。嬉しそうに。仲良く語らう若き国王と美しい人間の女性。
その姿を見ても、リベルタの心が痛むことはない。
(さようなら、私の番だった人。私が貴方を愛することはありません。……過去に愛したことはあったけど、ね)
小さく呟かれたリベルタの番への最後の告白は、誰かに聞かれることなくその場に消えた。
そのせいか、リベルタは早く話を切りあげたくてたまらない。
その為にも早く相手を納得させなくては。
「私は猫獣人の両親から生まれた、先祖返りの竜人です。己の寿命すらも分からない不安定な存在です。それでも同じ竜人として――いえ、もしかしたら私が先祖返りだったからこそ……竜王様は、同種族の異性が持つ若さゆえの輝きに惹かれたのではないでしょうか。不安定な先祖返りの竜人の、もっとも輝く時期があの頃だったのだとしたら……歳を重ねた今の私にソレがないのは当たり前のことかと存じます」
リベルタは自分でそう説明しながらも、少し困ったような……情けないような気持ちになってしまう。
そうして縋るように思い出すのは「彼」のことだ。
今日になってようやく成人できたリベルタ。既に若さの欠片もないが――それでもそんなリベルタがいいのだと言ってくれる相手がいる。
彼の言葉ならリベルタは信用できる。だからこそ、こうしてリベルタは逃げも隠れもせずに堂々と番のいる母国へ帰ってくることができたのだ。
思い出すだけでリベルタの口元に自然と笑みが浮かぶ。
その矢先。
「ちがうっ! 私は母のこともあって、若さなどに惑わされたりは……」
ヴァールから不機嫌そうな声で怒鳴られて、リベルタは真っ青になった。
まずい。調子に乗って言い過ぎたかもしれない。
竜王ヴァールとリベルタは番――とはいっても、それはリベルタが一方的に知っているだけで、ヴァールは怪しんでいただけ。しかも、その疑いは先ほどリベルタがデビュタントの会場で、国王への挨拶の際に奇麗サッパリと晴らしてあげた。
ヴァールからしたら今のリベルタはただの無礼な先祖返りの竜人に過ぎない。
リベルタとしてはヴァールの質問に答えただけだが、相手は国王だ。不敬罪とか言って捕まえられたらどうしよう。
怖い顔をして黙り込み、何やらアレコレと考え込んでいるヴァールを前にリベルタは心底肝を冷やしたが。
「……すまなかった。判別が長引いてしまったせいで――私がリベルタ嬢の若さを奪ってしまったのだな」
「い……いえ! 申し訳ありません、こちらこそ余計なことを言ってしまいまして……」
やがてヴァールから発せられた謝罪の言葉に、リベルタはようやくホッとすることが出来た。
これ以上リベルタは余計なことを言わない方がいいだろう。用事は済んだし一刻も早くこの場を離れるべきだ。
そうは思うものの、リベルタの目の前にいるヴァールは、またもや何かを考え込んでいる。
帰ると一声かけたいが、先ほどのこともあり何がヴァールの逆鱗に触れるか分からない。リベルタがすっかり疑心暗鬼になって困っていると。
「ヴァール様」
救世主が現れた。人間の女性のようだ。
親し気に国王の名前を呼んでいる様子からすると、二人は知り合いであろうと思われる。
この機を逃すまいと、リベルタは声を上げた。
「あ……あの、竜王様っ! 旅の疲れもありますし、私はそろそろ御前を失礼させていただいても……っ?」
「あ……? ああ、すまないな、リベルタ嬢。帰るところを呼び止めてしまった。……アシュランス伯爵家の爵位継承については先ほど言った通り承知した。すぐに対処するから、今日は安心して旅の疲れをとってくれ」
既に人間の女性へと興味を移しているヴァールはリベルタをすぐに解放してくれた。リベルタへの関心はなくなったようで、足早に人間の方へと去って行く。
昔から何度も見てきた光景だ。
一つだけ違うのは。
楽しそうに。嬉しそうに。仲良く語らう若き国王と美しい人間の女性。
その姿を見ても、リベルタの心が痛むことはない。
(さようなら、私の番だった人。私が貴方を愛することはありません。……過去に愛したことはあったけど、ね)
小さく呟かれたリベルタの番への最後の告白は、誰かに聞かれることなくその場に消えた。
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