もうやめましょう。あなたが愛しているのはその人です

堀 和三盆

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番外編 獣人学者は運命の番を許さない

2 妻との出会い

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 私財を投じての研究に限界を感じていたクロワールにとって、人間国側からのこの誘いは渡りに船だった。

 人間国内で暮らす獣人はまだ珍しく、獣人が就く仕事といえば種族的な特性を活かした力仕事ばかりだった時代。

 そんな中で研究者として招かれるというのは背筋が伸びる思いがしたが、実際に人間国へと渡り研究を始めてしまえば潤沢な研究資金と恵まれた環境に、クロワールはこれまで以上に自身の研究にのめり込んでいった。

 そして、国が変われば採取できる薬草も違う。
 クロワールは当然のように人間国で採れる薬草にも興味を示した。人間国で多く採れる薬草の中には獣人への効果が絶大なものがあった。獣人には薬草が効きづらいと思われていた中で、この発見は画期的だった。

 人間国で採れる薬草は獣人国とは逆に魔力がほとんど含まれない。その辺が関係しているのか――

 地道に研究を進め、クロワールは人間国と獣人国、それぞれで採れる希少な薬草を使用したり、掛け合わせたりすることで、それまで不治の病とされていたものへの特効薬を生み出すことに成功した。これは、獣人と人間、双方に効果がある物だ。

 耳やしっぽといったクロワールが持つ外見的な特徴から最初こそ周囲から興味本位の視線を向けられたりもしたが、そもそもクロワールはそういったことを気に病むような性格ではなかったし、同僚たちも同じような研究気質の人間ばかり。
 着実に研究成果を積み上げていく中で、次第に周囲からのそういった視線も減って、クロワールはあっという間に人間社会での暮らしに慣れていった。

 金銭的にも余裕ができて、何不自由のない生活を送っていたものの、何年か経った時に当時住んでいた研究施設の職員寮が建て替えられることになり、クロワールは人間国へと移り住んでから初めての『困った事態』に陥った。

 研究施設に勤める同僚たちが仮住まいを決めて次々と引っ越していく中で、獣人であるクロワールを受け入れてくれる引っ越し先がいつまで経っても見つからなかったのだ。

 獣人は種族によっては力が強すぎて、本人に悪気はなくともドアを壊したり壁にひびを入れてしまったりと、そういったことは割とよくある。なので、獣人国ではそういう事態を考慮したうえで、家を頑丈に設計しているのだ。

 ――が、当然のことながら人間国では建物にそういった対策は取られていない。そして、人間国に働きに来る獣人はそういった力の強い種族が圧倒的に多い。
 結果的に大家との間でトラブルに発展するケースが少なくなかったのだ。

 猫獣人のクロワールの場合は種族的にもそこまで力自慢というわけではないのだが、どうしても人間にとっては頭に獣の耳が付いているというだけで、他の力自慢の種族と同じように扱われてしまう。
 まあ、人間よりも力が強いのは確かだし、実際に貸主への被害が出ている以上、それも仕方がないことではあるのだが……

 そうしていよいよ引っ越しの期日が差し迫り、住居問題に頭を悩ませていた時に手を差し伸べてくれたのが、勤め先の研究機関に通う患者家族のカリス――後に、クロワールの妻となる女性だった。




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