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番外編 獣人学者は運命の番を許さない
8 対処法
しおりを挟む「クロワール様、大好きです! ああ、まさかこんなところで運命の番にお会いできるだなんて!!」
「クロワール様、二人でお話ししませんか?」
「クロワール様に食べてもらおうと思って、お弁当を作ってきたんです!」
「クロワール様! クロワール様!」
リスペットは条件を受け入れたが、初めのうちはクロワールの気を引こうと必死になっていた。
積極的に残業を引き受けて二人きりになろうとしたり、さりげなく身体に触れようとしてきたり。
その全てをクロワールは突っぱねた。
相手は運命の番だ。クロワールも獣人として何も感じなかったわけではない。愛を伝えられれば身体全体が歓喜で満たされるし、無理やり抱き着かれたときは感情が振り切れそうになった。
それでも決してそんな自分を相手に悟らせないように必死に堪えたし、あえて優しい言葉もかけなかった。リスペットを徹底的に拒絶して、徹頭徹尾、ただの上司として振る舞った。微かな期待すらも相手に抱かせないためだ。
そんな努力の甲斐もあって、半年も経つ頃には番がクロワールに対し直接的な行動をとることはなくなった。
「あの……クロワール主任。ここなんですけど――」
「エスペランサ君。ボクのことは名字の方で呼ぶようにと言ったはずだが?」
「あ……も、申し訳ありません、モラルズ主任。その、つい……以後、気を付けます」
どうやらクロワールの番はある程度の気持ちの整理をつけたらしい。これ以上無茶な求愛行動を続けてクロワールに嫌われるよりは、一研究員として同じ職場にいられる関係を選んだようだ。
それでも時折、今みたいな言い間違いは出てしまう。おそらくは、心の中の声が漏れ出てしまっているのだろう。
頬を染めて嬉しそうに『クロワール』と宝物の名を口にするような様子や、厳しく注意されることすら番の声が聞けたと喜んでいる様子を見ていると申し訳ない気持ちが湧いてくるが、それでもクロワールが愛するのは人間である妻だけなのだ。ここでほだされるわけにはいかない。
幸い、運命の番と出会ってもクロワールの妻への愛が消えることはなかった。
出会ってから数日の間は困惑からか身体が反応しなくて困ったが、番からのアプローチを躱しながら通常業務をこなしているうちに、再びカリスと夜を共にすることもできるようになった。
むしろ余計な邪魔が入った分、妻への愛情が深まったように感じているくらいだ。
番の方も優秀なのは確かなようで、仕事も正確だし獣人国から希少な薬草を取り寄せるのに、彼女の貴族としての人脈も期待できる。
何かと落ち着かないが、こうして番と顔を合わせるのもあちらとの共同事業が軌道に乗るまでのほんの数年だ。運命の番について普通の人間がどこまで情報を知っているのかは分からないが、リスペットさえいなくなれば元の生活に戻れるのだから、ここで余計なことを伝えて、愛する妻にわざわざ不安な思いをさせる必要はないだろう。
番と同じ部屋で仕事をする以上ある程度の接触は避けられないが、何かあってもクロワールさえ相手を拒絶すれば問題ない。
言わずに済むならその方がいい。
そんな風に安易な判断をしてしまったせいで、クロワールは生涯後悔し続けることになる。
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