もうやめましょう。あなたが愛しているのはその人です

堀 和三盆

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番外編 獣人学者は運命の番を許さない

9 カリスの事情(カリス視点)

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 初めてその人の姿を見たときは、なんて可愛らしい人なんだろうと思った。

 柔らかそうな髪に、キラキラとした目。
 それに、頭の上にある愛らしい猫の耳。

『獣人』といえば体が大きくて、工事現場で重そうな荷物をひょいひょいと担いでいる力強い姿を想像していたカリスは、研究機関で時折見かける他の研究員と大差ない華奢な身体と、たまに餌をあげている近所の子猫のような可愛らしい耳に、つい、頭を撫でてみたいなんて失礼なことを思ってしまった。


 カリスの母親は活発な人だった。若くして夫を亡くした後もカリスの母親はバリバリと働いて、少ない手伝いの人たちと共に小さな宿屋を切り盛りしていた。
 部屋数こそ少ないが、母親の手料理と恵まれた立地に宿屋はそこそこ繁盛していて、母娘二人で暮らす分には十分だった。

 美しい人だったので再婚の話が何度もあったのは知っているし、中には娘のカリスにまで『どうにかしてお母さんを説得してくれないか』などと頼んでくるような常連さんまでいたが、母親がそういった誘いを受け入れることは絶対になかった。母親は亡くなったカリスの父親をずっと愛していたからだ。

 まだカリスが学校に通っていた頃、そんな母親が体調を崩した。最初は近所の病院をたらい回しにされていたが、その中の一人のお医者様に運よく大きな研究機関を紹介されて、そこで魔力がらみの珍しい種類の病気を発症していることが分かった。

 治療が困難で、治る見込みのほとんどない病気だった。

 母親は紹介された研究機関で治療を受けながらカリスと二人でどうにか宿屋の営業を続けていたものの、病状の悪化とともに仕事を続けていくのが困難となり、宿屋を休業して治療に専念することになった。

 治療費は高額だが国からの援助はあるし、多少の蓄えはある。最悪、宿屋を手放せば生活はどうにかなるはずだ。そのあとのことは、そのときに考えればいい。

 そう考え、とにかく今は母親の病気を治すことが先決だと治療を続けていたものの、病状は悪くなるばかり。母親によれば、彼女の母親――つまりはカリスの母方の祖母も同じ病気で命を落としていたらしい。

 母親も祖母と同じように亡くなってしまうのか。
 何もできぬまま、やがてやってくるであろうその日を、怯えながら待つしかないのか。

 そんな絶望的な状況に救いをもたらしてくれたのが、あの可愛らしい人だった。




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