もうやめましょう。あなたが愛しているのはその人です

堀 和三盆

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番外編 獣人学者は運命の番を許さない

24 続かぬ幸せ(カリス視点)

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「……私は主任の運命の番ですが、奥様との仲を邪魔したいわけではないのです。獣人にとって運命の番は絶対ですが、だからこそ、私は自分よりも愛する人の幸せを大事にしたいと考えています。職場で色々なことを言う人がいるようですが、すべては無知からくる誤解です。奥様の耳に余計な情報が入る前に、当事者である私の口から事実をきちんとお伝えしておきたくて、こうしてお伺いしたのです。ですので、奥様には申し訳ありませんが、せめてこのまま番と同じ職場で働くことだけはお許しいただけないでしょうか。もちろん、主任の許可は得ています。そもそも私たちのような獣人にとって運命の番というのは出会えること、それ自体が奇跡であり、本来ならば何をおいても優先されるべきではあるのですが、それでも私と主任は……」


 自分は何を聞かされているのだろうか……カリスはどこか他人事のような気持ちで目の前の女性を見る。

 女性の頭には猫の耳。声からするとあの時の女性だろう。突然家を訪ねてきた彼女はうっとりとした表情を浮かべながら、まるで自分に酔ったように言葉を重ねている。

 彼女曰く――自分とクロワールは運命の番だけれども、周囲が噂するような関係にはない。獣人にとって番は絶対だけれど、それを自ら手放すくらい、クロワールのことを愛している。
 だから妻であるカリスにも、運命の番である自分がクロワールの傍で働くことを許してほしい。

 それを、繰り返し聞かされているのだ。

 今日、夫は仕事で家を留守にしている。夫と同じ職場で働く彼女は、それを分かった上でカリスを訪ねてきたらしい。そのために、わざわざ休みを取ったのだそうだ。

 要は、彼女は自分の一番大切なものを手放せるくらいにクロワールを愛していると、妻であるカリスに宣言しに来たのだ。獣人国では貴族階級出身だと言う彼女は美しく博識で、また、身のこなしも洗練されていた。

 そんな彼女はカリスとは違い、仕事上でもクロワールの役に立つことができるのだそうだ。まるで運命に導かれるように、二人が出会うずっと以前から、彼女はクロワールと同じ分野に興味を示していたらしい。


 女性の話を聞き流しながら、カリスはぼんやりと考える。

 いつだって自分の幸せは長く続かない。
 思えば昔からそうだったのだ。

 家族は仲が良かったけれど、父親は早くに亡くなってしまったし、残された母娘二人で協力しながら宿屋の経営をどうにか軌道に乗せたけれど、その母親は病気に倒れてしまった。

 その後、母親はクロワールのおかげで奇跡的に命を救われたけれど、思わぬ事故で他界してしまったし、クロワールとの幸せな結婚生活には、こうして運命の番が現れた。

 そして……ようやく授かった命は、カリスが母親と同じ病気を発症してしまったせいで、子供か自分かどちらかを選択しなければいけなくなってしまったのだ。




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