26 / 30
26 毒杯処分を受けた者
しおりを挟む
「よく判ったな? お前が生まれた時には俺はとっくに死んでいたのに」
「失礼ながら、元婚約者とお顔がよく似ておりますから。……それに、王妃様から教わった王家の機密事項の中に毒杯処分を受けた者についての詳しい情報がありましたので。――髪の色についてはただの雑談でしたが。ええと……殿下は側妃様と御髪の色がよく似ていたそうですね?」
「……ったく、あの女も相当執念深いよな。冤罪をかけて親子共々毒杯まで飲ませておいて、まだ気が収まらないのかよ。あーヤダヤダ。女の嫉妬ってやつは恐ろしいね」
現在の王太子――クアリフィカの元婚約者には非公式ながら兄がいた。メイドとの間に生まれた第一王子だ。
一応、メイドは側妃として迎えられたものの、他国の王女だった現在の王妃が子を宿した時点で、第一王子は側妃共々毒杯処分を受けている。
托卵疑惑があったらしいがどこをどう見ても捏造で、このことをクアリフィカに教える際、王妃は少しばかり感情的になっていた。日頃優し気な王妃が珍しいと、そのことにクアリフィカは違和感を抱いていたのだ。
王妃の祖国は大国だし、王妃の方が国王に惚れ込んでの輿入れだったので、この件に関しては色々と政治的な思惑があったのだろう。
こうして目の色を見るだけでも、男性が持つ血の正統性は明らかなのだから。
「……公爵家出身とは言え、ただの婚約者にしか過ぎない私が王家の影として選ばれたのは、既に王妃教育を終えているからですか?」
「へえ。どうしてそう思うんだ?」
「国の暗部を担うには王族以上に国の機密事項に精通している必要がありますし、機密漏洩のリスクを抱えながら無関係の者に一から影としての教育を施すよりも、既にある程度の教育が済んでいる者を使った方が効率的ですから」
「ははは、流石は淑女の鑑とまで言われただけのことはある。冷静だし頭の回転が速い。ただし、その答えでは不十分だ。確かにその通りではあるんだが、別に知識さえあれば誰でもいいってわけじゃない。毒杯処分を受ける者の中にはどうしようもない奴もいるからな。そんな人間はとてもじゃないが影としては使えないし、いるだけ邪魔だからそのまま死んでもらう。つまり、お前さんは王家の影に選ばれるべくして選ばれたのさ。その資格があると判断されたんだ」
「貴方と同じように冤罪だからですか?」
「それは結果論だ。何にしても、毒杯のあの痛みに耐えられないような弱っちい奴は影として生き残れない。そういうことだ」
なるほど。つまり状況によってある程度の手心は加えるが、あのとんでもなく強力な毒杯はそういった選別も兼ねているのだろう。
精神面が強いだけではダメ。
肉体的な強さもある程度は必要。
――――何とも趣味が悪い。
「――で、どうする? 辞退することもできるけれど、その場合はここに『おかわり』を持ってくることになるが……」
ヒヤリ。
それまでの陽気な表情を引っ込めて。男性は冷たい冷気をその身に纏う。もしもクアリフィカがそちらを選べば、男性はすぐさま言葉通りに実行するのだろう。
衆目の中、粛々とクアリフィカに毒杯を運んできたあの時のように。
「もちろんやりますよ。二度もあの苦しみを味わうのはごめんですから」
クアリフィカの名声は既に地に落ちた。毒杯のせいで、あそこまでの醜態をさらしたのだ。
表の世界にまったく未練はない――が、こうして生き残ったからには、長年の王妃教育で培った知識だけでもしっかりと国の為に生かしたい。
――それに何より。人前で、二度もあのような醜態を晒す気はない。
毒杯を用いるなど、王家の影を選ぶのになんという採用方法を取っているのか。他に、いくらでもやりようはあるだろうに。本当に趣味が悪いとしか言いようがない。
「解った。ならば俺がお前の教育係だ。歓迎するよ、クアリフィカ――いや、その名の人間は死んだのだから、これからは『リフィ』だな。よろしく、リフィ。俺はパイデウシスだ。ははは、可愛い顔してそんな恨みがましい目で俺を睨むなって。言っておくけど、お前はあれでかなり矜持を保った方だぞ? 俺なんて、小さい頃とは言え人前で大きい方まで漏らしたからな」
(……と、いうことは、私は人前で――)
最後に自分が覚えていなかった醜態まで晒されて。
クアリフィカはこの先絶対に知り合いに会わないように、裏の世界で生きていこうと決めた。
目の前の男――パイデウシスが言う通り、王太子の婚約者だった公爵令嬢のクアリフィカは、恥もろともあそこで死んだのだ。
「失礼ながら、元婚約者とお顔がよく似ておりますから。……それに、王妃様から教わった王家の機密事項の中に毒杯処分を受けた者についての詳しい情報がありましたので。――髪の色についてはただの雑談でしたが。ええと……殿下は側妃様と御髪の色がよく似ていたそうですね?」
「……ったく、あの女も相当執念深いよな。冤罪をかけて親子共々毒杯まで飲ませておいて、まだ気が収まらないのかよ。あーヤダヤダ。女の嫉妬ってやつは恐ろしいね」
現在の王太子――クアリフィカの元婚約者には非公式ながら兄がいた。メイドとの間に生まれた第一王子だ。
一応、メイドは側妃として迎えられたものの、他国の王女だった現在の王妃が子を宿した時点で、第一王子は側妃共々毒杯処分を受けている。
托卵疑惑があったらしいがどこをどう見ても捏造で、このことをクアリフィカに教える際、王妃は少しばかり感情的になっていた。日頃優し気な王妃が珍しいと、そのことにクアリフィカは違和感を抱いていたのだ。
王妃の祖国は大国だし、王妃の方が国王に惚れ込んでの輿入れだったので、この件に関しては色々と政治的な思惑があったのだろう。
こうして目の色を見るだけでも、男性が持つ血の正統性は明らかなのだから。
「……公爵家出身とは言え、ただの婚約者にしか過ぎない私が王家の影として選ばれたのは、既に王妃教育を終えているからですか?」
「へえ。どうしてそう思うんだ?」
「国の暗部を担うには王族以上に国の機密事項に精通している必要がありますし、機密漏洩のリスクを抱えながら無関係の者に一から影としての教育を施すよりも、既にある程度の教育が済んでいる者を使った方が効率的ですから」
「ははは、流石は淑女の鑑とまで言われただけのことはある。冷静だし頭の回転が速い。ただし、その答えでは不十分だ。確かにその通りではあるんだが、別に知識さえあれば誰でもいいってわけじゃない。毒杯処分を受ける者の中にはどうしようもない奴もいるからな。そんな人間はとてもじゃないが影としては使えないし、いるだけ邪魔だからそのまま死んでもらう。つまり、お前さんは王家の影に選ばれるべくして選ばれたのさ。その資格があると判断されたんだ」
「貴方と同じように冤罪だからですか?」
「それは結果論だ。何にしても、毒杯のあの痛みに耐えられないような弱っちい奴は影として生き残れない。そういうことだ」
なるほど。つまり状況によってある程度の手心は加えるが、あのとんでもなく強力な毒杯はそういった選別も兼ねているのだろう。
精神面が強いだけではダメ。
肉体的な強さもある程度は必要。
――――何とも趣味が悪い。
「――で、どうする? 辞退することもできるけれど、その場合はここに『おかわり』を持ってくることになるが……」
ヒヤリ。
それまでの陽気な表情を引っ込めて。男性は冷たい冷気をその身に纏う。もしもクアリフィカがそちらを選べば、男性はすぐさま言葉通りに実行するのだろう。
衆目の中、粛々とクアリフィカに毒杯を運んできたあの時のように。
「もちろんやりますよ。二度もあの苦しみを味わうのはごめんですから」
クアリフィカの名声は既に地に落ちた。毒杯のせいで、あそこまでの醜態をさらしたのだ。
表の世界にまったく未練はない――が、こうして生き残ったからには、長年の王妃教育で培った知識だけでもしっかりと国の為に生かしたい。
――それに何より。人前で、二度もあのような醜態を晒す気はない。
毒杯を用いるなど、王家の影を選ぶのになんという採用方法を取っているのか。他に、いくらでもやりようはあるだろうに。本当に趣味が悪いとしか言いようがない。
「解った。ならば俺がお前の教育係だ。歓迎するよ、クアリフィカ――いや、その名の人間は死んだのだから、これからは『リフィ』だな。よろしく、リフィ。俺はパイデウシスだ。ははは、可愛い顔してそんな恨みがましい目で俺を睨むなって。言っておくけど、お前はあれでかなり矜持を保った方だぞ? 俺なんて、小さい頃とは言え人前で大きい方まで漏らしたからな」
(……と、いうことは、私は人前で――)
最後に自分が覚えていなかった醜態まで晒されて。
クアリフィカはこの先絶対に知り合いに会わないように、裏の世界で生きていこうと決めた。
目の前の男――パイデウシスが言う通り、王太子の婚約者だった公爵令嬢のクアリフィカは、恥もろともあそこで死んだのだ。
4,359
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……
希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。
幼馴染に婚約者を奪われたのだ。
レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。
「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」
「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」
誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。
けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。
レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。
心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。
強く気高く冷酷に。
裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。
☆完結しました。ありがとうございました!☆
(ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在))
(ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9))
(ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在))
(ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))
王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。
婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜
みおな
恋愛
王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。
「お前との婚約を破棄する!!」
私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。
だって、私は何ひとつ困らない。
困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。
彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。
目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。
貴方が側妃を望んだのです
cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。
「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。
誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。
※2022年6月12日。一部書き足しました。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。
表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。
※更新していくうえでタグは幾つか増えます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
婚約破棄をしてきた婚約者と私を嵌めた妹、そして助けてくれなかった人達に断罪を。
しげむろ ゆうき
恋愛
卒業パーティーで私は婚約者の第一王太子殿下に婚約破棄を言い渡される。
全て妹と、私を追い落としたい貴族に嵌められた所為である。
しかも、王妃も父親も助けてはくれない。
だから、私は……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる