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26 毒杯処分を受けた者
「よく判ったな? お前が生まれた時には俺はとっくに死んでいたのに」
「失礼ながら、元婚約者とお顔がよく似ておりますから。……それに、王妃様から教わった王家の機密事項の中に毒杯処分を受けた者についての詳しい情報がありましたので。――髪の色についてはただの雑談でしたが。ええと……殿下は側妃様と御髪の色がよく似ていたそうですね?」
「……ったく、あの女も相当執念深いよな。冤罪をかけて親子共々毒杯まで飲ませておいて、まだ気が収まらないのかよ。あーヤダヤダ。女の嫉妬ってやつは恐ろしいね」
現在の王太子――クアリフィカの元婚約者には非公式ながら兄がいた。メイドとの間に生まれた第一王子だ。
一応、メイドは側妃として迎えられたものの、他国の王女だった現在の王妃が子を宿した時点で、第一王子は側妃共々毒杯処分を受けている。
托卵疑惑があったらしいがどこをどう見ても捏造で、このことをクアリフィカに教える際、王妃は少しばかり感情的になっていた。日頃優し気な王妃が珍しいと、そのことにクアリフィカは違和感を抱いていたのだ。
王妃の祖国は大国だし、王妃の方が国王に惚れ込んでの輿入れだったので、この件に関しては色々と政治的な思惑があったのだろう。
こうして目の色を見るだけでも、男性が持つ血の正統性は明らかなのだから。
「……公爵家出身とは言え、ただの婚約者にしか過ぎない私が王家の影として選ばれたのは、既に王妃教育を終えているからですか?」
「へえ。どうしてそう思うんだ?」
「国の暗部を担うには王族以上に国の機密事項に精通している必要がありますし、機密漏洩のリスクを抱えながら無関係の者に一から影としての教育を施すよりも、既にある程度の教育が済んでいる者を使った方が効率的ですから」
「ははは、流石は淑女の鑑とまで言われただけのことはある。冷静だし頭の回転が速い。ただし、その答えでは不十分だ。確かにその通りではあるんだが、別に知識さえあれば誰でもいいってわけじゃない。毒杯処分を受ける者の中にはどうしようもない奴もいるからな。そんな人間はとてもじゃないが影としては使えないし、いるだけ邪魔だからそのまま死んでもらう。つまり、お前さんは王家の影に選ばれるべくして選ばれたのさ。その資格があると判断されたんだ」
「貴方と同じように冤罪だからですか?」
「それは結果論だ。何にしても、毒杯のあの痛みに耐えられないような弱っちい奴は影として生き残れない。そういうことだ」
なるほど。つまり状況によってある程度の手心は加えるが、あのとんでもなく強力な毒杯はそういった選別も兼ねているのだろう。
精神面が強いだけではダメ。
肉体的な強さもある程度は必要。
――――何とも趣味が悪い。
「――で、どうする? 辞退することもできるけれど、その場合はここに『おかわり』を持ってくることになるが……」
ヒヤリ。
それまでの陽気な表情を引っ込めて。男性は冷たい冷気をその身に纏う。もしもクアリフィカがそちらを選べば、男性はすぐさま言葉通りに実行するのだろう。
衆目の中、粛々とクアリフィカに毒杯を運んできたあの時のように。
「もちろんやりますよ。二度もあの苦しみを味わうのはごめんですから」
クアリフィカの名声は既に地に落ちた。毒杯のせいで、あそこまでの醜態をさらしたのだ。
表の世界にまったく未練はない――が、こうして生き残ったからには、長年の王妃教育で培った知識だけでもしっかりと国の為に生かしたい。
――それに何より。人前で、二度もあのような醜態を晒す気はない。
毒杯を用いるなど、王家の影を選ぶのになんという採用方法を取っているのか。他に、いくらでもやりようはあるだろうに。本当に趣味が悪いとしか言いようがない。
「解った。ならば俺がお前の教育係だ。歓迎するよ、クアリフィカ――いや、その名の人間は死んだのだから、これからは『リフィ』だな。よろしく、リフィ。俺はパイデウシスだ。ははは、可愛い顔してそんな恨みがましい目で俺を睨むなって。言っておくけど、お前はあれでかなり矜持を保った方だぞ? 俺なんて、小さい頃とは言え人前で大きい方まで漏らしたからな」
(……と、いうことは、私は人前で――)
最後に自分が覚えていなかった醜態まで晒されて。
クアリフィカはこの先絶対に知り合いに会わないように、裏の世界で生きていこうと決めた。
目の前の男――パイデウシスが言う通り、王太子の婚約者だった公爵令嬢のクアリフィカは、恥もろともあそこで死んだのだ。
「失礼ながら、元婚約者とお顔がよく似ておりますから。……それに、王妃様から教わった王家の機密事項の中に毒杯処分を受けた者についての詳しい情報がありましたので。――髪の色についてはただの雑談でしたが。ええと……殿下は側妃様と御髪の色がよく似ていたそうですね?」
「……ったく、あの女も相当執念深いよな。冤罪をかけて親子共々毒杯まで飲ませておいて、まだ気が収まらないのかよ。あーヤダヤダ。女の嫉妬ってやつは恐ろしいね」
現在の王太子――クアリフィカの元婚約者には非公式ながら兄がいた。メイドとの間に生まれた第一王子だ。
一応、メイドは側妃として迎えられたものの、他国の王女だった現在の王妃が子を宿した時点で、第一王子は側妃共々毒杯処分を受けている。
托卵疑惑があったらしいがどこをどう見ても捏造で、このことをクアリフィカに教える際、王妃は少しばかり感情的になっていた。日頃優し気な王妃が珍しいと、そのことにクアリフィカは違和感を抱いていたのだ。
王妃の祖国は大国だし、王妃の方が国王に惚れ込んでの輿入れだったので、この件に関しては色々と政治的な思惑があったのだろう。
こうして目の色を見るだけでも、男性が持つ血の正統性は明らかなのだから。
「……公爵家出身とは言え、ただの婚約者にしか過ぎない私が王家の影として選ばれたのは、既に王妃教育を終えているからですか?」
「へえ。どうしてそう思うんだ?」
「国の暗部を担うには王族以上に国の機密事項に精通している必要がありますし、機密漏洩のリスクを抱えながら無関係の者に一から影としての教育を施すよりも、既にある程度の教育が済んでいる者を使った方が効率的ですから」
「ははは、流石は淑女の鑑とまで言われただけのことはある。冷静だし頭の回転が速い。ただし、その答えでは不十分だ。確かにその通りではあるんだが、別に知識さえあれば誰でもいいってわけじゃない。毒杯処分を受ける者の中にはどうしようもない奴もいるからな。そんな人間はとてもじゃないが影としては使えないし、いるだけ邪魔だからそのまま死んでもらう。つまり、お前さんは王家の影に選ばれるべくして選ばれたのさ。その資格があると判断されたんだ」
「貴方と同じように冤罪だからですか?」
「それは結果論だ。何にしても、毒杯のあの痛みに耐えられないような弱っちい奴は影として生き残れない。そういうことだ」
なるほど。つまり状況によってある程度の手心は加えるが、あのとんでもなく強力な毒杯はそういった選別も兼ねているのだろう。
精神面が強いだけではダメ。
肉体的な強さもある程度は必要。
――――何とも趣味が悪い。
「――で、どうする? 辞退することもできるけれど、その場合はここに『おかわり』を持ってくることになるが……」
ヒヤリ。
それまでの陽気な表情を引っ込めて。男性は冷たい冷気をその身に纏う。もしもクアリフィカがそちらを選べば、男性はすぐさま言葉通りに実行するのだろう。
衆目の中、粛々とクアリフィカに毒杯を運んできたあの時のように。
「もちろんやりますよ。二度もあの苦しみを味わうのはごめんですから」
クアリフィカの名声は既に地に落ちた。毒杯のせいで、あそこまでの醜態をさらしたのだ。
表の世界にまったく未練はない――が、こうして生き残ったからには、長年の王妃教育で培った知識だけでもしっかりと国の為に生かしたい。
――それに何より。人前で、二度もあのような醜態を晒す気はない。
毒杯を用いるなど、王家の影を選ぶのになんという採用方法を取っているのか。他に、いくらでもやりようはあるだろうに。本当に趣味が悪いとしか言いようがない。
「解った。ならば俺がお前の教育係だ。歓迎するよ、クアリフィカ――いや、その名の人間は死んだのだから、これからは『リフィ』だな。よろしく、リフィ。俺はパイデウシスだ。ははは、可愛い顔してそんな恨みがましい目で俺を睨むなって。言っておくけど、お前はあれでかなり矜持を保った方だぞ? 俺なんて、小さい頃とは言え人前で大きい方まで漏らしたからな」
(……と、いうことは、私は人前で――)
最後に自分が覚えていなかった醜態まで晒されて。
クアリフィカはこの先絶対に知り合いに会わないように、裏の世界で生きていこうと決めた。
目の前の男――パイデウシスが言う通り、王太子の婚約者だった公爵令嬢のクアリフィカは、恥もろともあそこで死んだのだ。
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