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第一歌
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しおりを挟む王太子である僕と侯爵令嬢であるシンシアは幼馴染だった。歳も同じで、遊び相手としてずっとそばにいた。将来は彼女を娶ることになると決まり、僕も彼女も幸せいっぱいだったと思う。
王太子としての教育が始まるまでは。
優しい母上が大好きだった。いつもどこか何かを諦めた顔をしている父上とは違い、母上はいつも慈愛に満ちた笑顔を浮かべていたから。
触ることはできないし、時々消えたり姿が歪んだり。
そんなことも王族だから特別なのかな、くらいにしか思っていなかった。国は豊かで、国民は口々に冥妃さまのお陰だと感謝の言葉を口にする。
真実を、現実を教えられた時の恐怖。僕が背負っているものの重さと悍ましさ。シンシアも悪役令嬢としての教育を受ける中で、それを知り酷くショックを受けていた。
それでも震える僕の手を、同じくらい震える手で握り締めてくれた時の温かさを僕は忘れない。
だからこそ。
学園へと入学し、何も知らない成金貴族令嬢が彼女に冤罪をかけてまで成り代わろうとしたときに、僕は喜んでそのいらない手を取った。
これで彼女は解放される。そう思ったから。
シンシアとの関係は解消され、成金令嬢が僕の新しい相手となった。将来僕の子供を産み、死んでいく存在。悪役令嬢教育を受け、真実を知って取り乱す成金令嬢の様子を見て、この女こそふさわしいと思った。
平民から貴族へとなったばかりの成金令嬢は知らないかもしれないが、貴族はある程度現実を分かっている。だから皆が祝福してくれる。
悪役令嬢らしい悪役令嬢。心が痛まぬ相手。それが一番、この役目に相応しいから。
成金令嬢ももう逃げられないと思ったのか、ようやく全てを諦めたようだった。
それなのに。
自由になり、王宮からは離れて羽を伸ばしていたはずのシンシアが、突然起こした夜会での暴挙。あれで全てが水の泡となってしまった。
僕の隣で。スヤスヤと寝息を立てるシンシアを見る。
こうなってしまった以上、もう全てが手遅れなのだ。カウントダウンは始まってしまった。
僕にできることはただ一つ。
「ん……なあに? あー、お水……ありが、と。むにゃむにゃ」
まだ寝ぼけている彼女に、僕は気付かれないように避妊薬を飲ませた。僕も飲んでいるから、これで恐らく大丈夫だ。
与えられたのは3年間。子を産めばそこで強制終了。
少しでも長く彼女といたい。
そんな僕の身勝手な欲望が彼女の人生を意味のないものにしてしまうなんて――この時の僕は思ってもいなかった。
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