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第一歌
3
しおりを挟む二年たっても懐妊の兆しがないことにシンシアは悩んでいるようだった。周囲からのプレッシャーもあるようだ。しかし、できる筈はない。僕がそう仕向けているのだから。
そうして三年目。最後の年に入ったとき。僕は避妊薬を盛るのを止めた。
彼女と過ごした二年間。僕は本当に幸せだった。後は自然に任せて、彼女の忘れ形見をこの腕に抱くことが出来たなら。
いつ、どこに現れるか分からない冥妃。情報収集をしているのだろう。異変を感じれば冥妃は歪む。
だからこそ、悪役令嬢であるシンシアに愛を囁けるのはこの部屋の中でだけだった。
愛してる。ずっと大好きだった。君だけだ。
見られる恐怖におびえながら過ごす鳥かごの中の生活は精神的にキツイのだろう。シンシアはこのところ体調を崩すようになっていた。
そして残り半年を残して彼女は死んだ。
突然だった。まだ時間はあったはずなのに、なんでなんでなんで……!
僕は冥妃に詰め寄った。ピンクの髪に、幼さを残しながらも慈愛に満ちた、大好きだった母の顔。冥婚の証が浮かび上がってからは、顔を合わせるのを避けていた。
同じことを繰り返し、歪んでいる彼女には母であった記憶は既にない。僕ももう母とは思っていない。もちろん妃であるとも思わない。
今はただ憎くて憎くて仕方がない。すると彼女は申し訳なさそうな顔をして。
『申し訳ございません、王太子殿下。選定を誤ったようですわ。彼女、デュラハンから死の予言を受けておりましたの』
僕との関係が解消された後。シンシアは気分転換にと出掛けた花畑で、首なしの騎士に出会い、あと3年で死ぬと予言を受けてしまった。それで、あの夜会での行動につながったそうだ。
――とある出来事でわたくし、気付いてしまいましたの。殿下のいない人生なんて、何の価値もないのだと。例え短い間でも殿下と過ごし、愛の証を残したいのです――
あの日。彼女に言われた言葉を思い出す。喜びと絶望を同時に手に入れたあのとき。既にカウントダウンは始まっていたのだ。
三年目に入って、体調を崩すようになった彼女。あの夜会から娶るまでは約半年。王宮に上がってから二年と半分である今日が、デュラハンから死の予言を受けてから丁度3年だったのだという。
死の予言。それが体調に影響していたのか……。
初めて聞くことばかりだった。でも、一部では知られていたらしい。彼女自身が、親友たちに相談していたそうだ。冥妃はどこかでソレを聞いて、彼女を見切ったのだという。
『予言を受けてから3年という猶予があったのでもしかしたら……と思い、ギリギリまで待ちましたが、どのみち間に合いませんでしたわね。すぐに新たな悪役令嬢の選定を行いましょう』
そう言って、すぐに新しい悪役令嬢は決められた。
あの日、ワインをかけられた成金令嬢だ。既に悪役令嬢教育を受けているうえ、あの後、解放された喜びから相当好き勝手をやっていたようだ。
おかげで周囲の反対もなくすぐに決まった。
「なんでよ! なんでよおぉ! 嫌よ! まだ死にたくない! いや、いや、いやあああああ!!!」
ああ、相応しいな、と心底思う。それでも大事な僕のシンシアに、僅かとはいえ僕から解放された自由な時間を与えてくれた恩ある令嬢だ。僕は大事に扱った。
すぐに懐妊し、出産すると彼女は逝った。
王宮に響き渡る元気な産声を聞いて、これがシンシアの産んだ子だったら……とつい、思ってしまう。
真実を知っていたら。彼女が健康であったうちに、もう少し早く避妊薬を飲ませるのをやめていたら。
そんなときだった。シンシアの残した日記を見つけたのは。
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