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第二歌
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しおりを挟む「北の小国より参りました。公爵家の娘でサリュと申します。過日の災害に対する我が国に対しての数々のご支援、国民を代表してお礼申し上げます。そのご縁によりこの度、一年の教育の後に王太子殿下の元で『悪役令嬢』のお役目を務めさせていただくこととなりました。貴国と王太子殿下のお役に立てるよう、これから一年しっかりと学び、お役目を果たすために精進したいと思います」
「そうか……」
政略の為、祖国から遠路はるばるやってきて。初めて会ったメーコンの王太子様。緊張しながらの挨拶の後、もらえたのはその一言だけだった。
口数の少ない人だな、と思った。
メーコンは豊かな国だった。国境を越えてすぐに分かる、その違い。ここ数年大陸では不幸な災害や不作が続いてどこの国も酷い状態だったけれど、この国にはまるで影響はないみたい。
私の産まれた北の小国は地理的な問題もありとても被害が大きかったけれど、この国からの支援でどうにか存続はできそうだ。
文化の違いは覚悟していたけれど、『悪役令嬢教育』というのはとても特殊な物だった。とにかく、この国の象徴ともいえる、『冥妃様』を歪ませることのないように。それに主軸が置かれているみたい。
不思議ではあったけれど、受けた恩を思えばなんてことないと思う。今も苦しんでいる国民や領地の者たちを思えば、三食出されているだけでありがたいもの。
そう思っているにもかかわらず、私に対する扱いは非常に丁寧で申し訳なく思ってしまうくらい。
小国出身なのにもかかわらず侮ってくるでも馬鹿にしてくるでもなく、皆が親切にしてくれる。何故か同情されることすらあるのがとっても不思議。
教育を受けている一年間、王太子様にお会いする機会はほとんどなかったけれど、頻繁に贈り物が届けられるのでお礼の手紙は欠かさなかった。
数少ない会話の中で積極的に交流を持とうとしたけれど、相変わらず口数は少なくて「そうか」以外の言葉を聞いたことがなかった。
会話が苦手なのかしら?
それとも実は嫌われている?
そんな風に思ってしまうくらい会話らしい会話が無かったの。
そして、一年がたち正式に『悪役令嬢』となる前に国への里帰りが許された。これが、国の者と会える最後の機会となるだろうからと、一カ月もの期間が与えられた。
まあ、それを私に伝えてきたのは宰相だったし、王太子殿下は「行ってまいります」の言葉に対し「そうか」と答えるだけだったけど。
一カ月の里帰りとは言っても祖国は遠く移動に時間がかかるから実際に領地で過ごせるのは一週間ほどだけど、自分の立場を考えると破格の待遇だと思う。
そして、祖国へ帰り国王への挨拶を済ませ、領地へと入ると公爵である父親がそれまでの心労から倒れてしまった。もう、長くないらしい。
申し訳ないと思いつつも里帰りの延長を手紙でお願いすると、『そうか。分かっているから大丈夫だ。自由にしていい』と返ってきた。手紙とはいえ長い言葉が返ってきたことに驚いた。
私を見て安心したのか、父親である公爵はすぐに逝ってしまった。でも、滞在を延長してもらえたお陰で埋葬まで済ませることが出来たし、公爵家の爵位も信頼できる親族に委ねることが出来て、実家の心配はこれで何もなくなった。
これも許可をくださった王太子殿下のお陰だわ。手続きを全て済ませると、私は役目を果たすべくメーコンへと戻った。
「王太子殿下、ただいま戻りました。この度は里帰りに際し過分のご配慮を賜り誠にありがとうございます。急な滞在延長でご迷惑をおかけしましたが、おかげで思い残すこともなくなりました。このご恩をお返しするためにも、これよりは学びました通りにお役目を全うしていきたいと思います」
里帰りを終えての帰国時の挨拶で、王太子殿下は何故か驚いたように目を見開いて固まっていた。そして、ひと言。
「そう……か」
と言った。その口数の少なさが懐かしいと思った。
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