公爵様のわかり辛い溺愛は、婚約を捨る前からのようです

奈井

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「え?・・・あの、道を間違えてはいませんか?」

店主を振り返れば、私から目を逸らした。
え?
どうして、逸らしたの?
そして、店主との穏やかの会話を遮ったのは、私の問いかけだけでなく、馬の嘶きだった。

悲鳴のような馬の鳴き声の後、馬車が大きく揺れた。
振り落とされないように手足に力を入れ、目を堅く閉じた。
すぐに馬車は停まった。
馬車の中のランプの飾りがシャリンシャリンと揺れの余韻を鳴らす。
車内が静かになるとすぐに扉が開いた。

「・・・!」

暗闇の中、現れたのは、黒い仮面を被り、黒い衣服の者だった。
素早く中を見回すとまっすぐに私の腕を掴み引く。
あまりの勢いに、動く用意の出来ていない私は、力の入らない人形のように、身体を外へと引きずり出された。

「お嬢様には乱暴をしない約束だろう!」

「大人しくしてろ!」


店主の焦った声の後に、低く響く男の人の声がした。
ドン、と地面に倒された店主が目に入る。
突然始まった、この場の事が理解できず、ただただ、恐怖だけに気持ちが支配された。
そして、いきなり柔らかいもので口辺りを覆われた。

「ううっ!んーー・・・」

口を塞がれた事と、鼻の奥まで刺激するツーンとした臭いが呼吸を苦しくする。
その苦しさの中、次第に目の前がぼやけていく。
そして、すぐにプツリと意識は途絶え、私は暗闇に落ちた。




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