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10、出会いとタイミング
しおりを挟む聞いてしまっていいのか迷ったが、今日だけの出会いと割り切って聞いてみた。
こんなリッチな方とは知り合いたくても知り合えない。
もし、有名な人なら一夜の思い出だ。
変な意味じゃなくて、お話だけでも、できてよかったと言う事!と自分に言い聞かせる。
「少しだけね・・・。俺たちが演奏しているジャンルに詳しい人だけには知られているかもね。・・・そんなにたくさんの人が収容できる大きなホールではないけど、来月も日本で演奏するチケットはもう売れたって聞いたよ。でも、裕ちゃんが知らないなら俺たちもまだまだだね。」
そう言って裕にウィンクしてくれた。
様になりすぎて裕の心臓がドキっとした。
ミルクの熊が崩れかけていたのもあるが、昊人のウィンクに顔を赤くなったのを誤魔化すように自分のカップの中身をグルグルと少し早めにかき混ぜた。
一口飲めば外を歩いた事で冷えた身体が温まっていくのを感じる。
すぐにひいてくれた頬の熱に安心しながら思った事を口にする裕。
「昊人さんみたいに穏やかにお話しする人はきっとピアノの音も柔らかくて・・・心を癒してくれる演奏なんでしょうね。」
昊人のピアノを弾く姿を想像しながら、聞いてみたいなあと思った。
「え?・・・そう見える?だったらいいなあ。・・・芸術って他人に評価してもらわないと成り立たない世界だと俺は思うんだ。いくら自分で良いと思っても他の人がダメなら続けていく事は不可能だからね。それが、『すばらしい』と言われるのも嬉しいけど、『心を癒す』なんて言われたら弾いててよかった、て思うし、ホッとするよ。」
弾いていてよかったはわかるが、ホッとするってどういうことかな?
「ホッとする?」
「うん。・・・コンクールとかで競うのも必要な事だったと理解していたけど、みんなそれぞれ良いものを持っているから比べる事に疑問を感じていた。優勝する為に相手を蹴落とすような事もするからね・・・。自分には向かない世界だと思っていたんだ。」
煌びやかな世界だと思っていた裕だが、輝くには大変なことなんだ、と同情の気持ちが沸く。
「一緒に演奏している仲間はね、そんな俺の気持ちを理解してくれているんだ。だから、すごく居心地がいい場所なんだ。・・・今の時代、音大を出てもピアニストとして名を馳せるのは難しい。それが毎年毎年何人も卒業を迎えるんだ。学校の先生や音楽教室の先生になるのはまだいい方で、ぜんぜん違う職業に就く人だっている。・・・人との出会いやタイミングに恵まれて、好きなピアノを続けられた事は・・・俺はラッキーだったと思うよ。」
いろいろな条件に恵まれるのは本当にラッキーなことだ。
人との出会いやタイミング・・・。
「本当にそうですよね。・・・私にもあるかな、人との出会いやタイミング・・・。」
「ん?裕ちゃん、悩み?」
裕の方に身体を向けて話を聞く体制をとる昊人。
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