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2話 生じる違和感
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タン、タン、と一定の間隔で音がする。また雨漏りがしているようだと鈴音はため息をついた。
バケツを取りに行って戻ってくると、亮太が水浸しになった床を丁寧に拭いていた。雨漏りの箇所には空き瓶が置かれている。
「ごめん、ありがとう」
「気にしないで。……この間塞いだつもりだったんだけど、やっぱり業者の人に頼まないとダメかもね」
亮太は天井を見上げた。鈴音も視線をそちらに向ける。白い天井に大きな染みが広がっており、そこからポタポタと水滴が垂れている。
「この間、ドアの建て付け直したばっかりなのに……」
両親が海外に居住するため、一人娘の鈴音がこの家を受け継いだ。だが、築年数が深いせいか、雨漏りを始め、いたるところで問題が起こっていた。
「古い家って補修するとこが多くて、嫌になる」
「確かに。でも、僕はこの家好きだよ。鈴ちゃんとの思い出がたくさんあるし」
「……まあ、私も好きだけど。でも、住むには大変だよ。新婚なんだし、やっぱりもっといいところに住みたかったよ。ほら、前に一緒に見に行ったマンションとか。設備も綺麗だし、駅にも近くて。他の物件も見る予定だったのに、その場で即決したぐらいーー」
鈴音は口をつぐんだ。それなら何故、自分たちはこの古い一軒家に住んでいるのだろうと疑問が生じたからだ。
あの物件に決めて、月が変わる前には契約も交わした。あのマンションに置く家具も見にいったのに。
「ーー鈴ちゃん」
亮太の声に顔をあげる。彼はいつものように微笑んで、鈴音の手元を指差した。
「バケツ、戻しておいでよ。ここは僕が綺麗にしておくからさ」
「……あ。うん。お願いね」
「あと、そろそろ着替えたほうがいいよ。もうお昼になっちゃうし」
亮太の言葉に、鈴音は自分の格好を見下ろす。寝巻きのままだ。
「ほんとだ。というか、もうお昼なの? 私、寝過ぎちゃった」
昨日も、家に着くなりすぐに眠ってしまった。お堂で目が覚めてから、頭が霞がかったように判然としない。
「ここ最近、引っ越しとか家の片付けとかで大変だったし、のんびりしたらいいよ」
「そうだね……」
亮太の言うとおりだ。近頃ひどく疲れてしまうことがあったから、しばらくは静養に努めよう。
「壱様のところに行ってくるよ」
「……どうして?」
「だって、ここを離れる前は毎日壱様にお参りするのが日課だったし。またここに住み始めるから日課を再開しようと思って」
亮太は少し考えるようなそぶりを見せた後、首を横に振った。
「やめたほうがいいよ。あのお堂へ行く道、荒れてて危ないから。土砂崩れがあったみたい。昨日だって、転びそうな時あったし」
「そうだったっけ?」
普通に問題なく歩けた気がするが。
しかし、鈴音の記憶違いなのかもしれない。昨日は頭が働かなくて、終始意識はもうろうとしていたから。
亮太がやめといたほうがいいと言うのなら、やめたほうがいいのだろう。
「役所に電話したら、直してもらえるかな?」
「後回しにされると思うよ。うちの市、余裕がないから田舎の、僕らくらいしか使わない道だし。数年かかるかも」
「そっか……」
しばらくは壱様にお参りするのは難しいだろう。そうとわかっていれば、昨日きちんと挨拶したのに。
鈴音は落ち込んだが、すぐに気持ちを切り替えた。
「なら、梅婆ちゃんのところに行こうかな。まだ挨拶できてないし」
「ああ、梅婆ちゃんへの挨拶がまだだったね。……鈴ちゃんの顔見たら、きっと喜ぶよ」
「亮太は行かないの?」
「僕は仕事があるから。それに、女性同士で積もり積もった話もあるだろうし。梅婆ちゃんによろしく言っておいて」
「わかった。今度、またふたりで会いにいこう」
亮太が一緒に行けないのは残念だが、久しぶりに梅婆に会えるのは楽しみだ。
鈴音が支度を終えて出かけようとすると、亮太が見送りに来てくれた。
「行ってきます」
「いってらっしゃい。……車には気をつけてね」
バケツを取りに行って戻ってくると、亮太が水浸しになった床を丁寧に拭いていた。雨漏りの箇所には空き瓶が置かれている。
「ごめん、ありがとう」
「気にしないで。……この間塞いだつもりだったんだけど、やっぱり業者の人に頼まないとダメかもね」
亮太は天井を見上げた。鈴音も視線をそちらに向ける。白い天井に大きな染みが広がっており、そこからポタポタと水滴が垂れている。
「この間、ドアの建て付け直したばっかりなのに……」
両親が海外に居住するため、一人娘の鈴音がこの家を受け継いだ。だが、築年数が深いせいか、雨漏りを始め、いたるところで問題が起こっていた。
「古い家って補修するとこが多くて、嫌になる」
「確かに。でも、僕はこの家好きだよ。鈴ちゃんとの思い出がたくさんあるし」
「……まあ、私も好きだけど。でも、住むには大変だよ。新婚なんだし、やっぱりもっといいところに住みたかったよ。ほら、前に一緒に見に行ったマンションとか。設備も綺麗だし、駅にも近くて。他の物件も見る予定だったのに、その場で即決したぐらいーー」
鈴音は口をつぐんだ。それなら何故、自分たちはこの古い一軒家に住んでいるのだろうと疑問が生じたからだ。
あの物件に決めて、月が変わる前には契約も交わした。あのマンションに置く家具も見にいったのに。
「ーー鈴ちゃん」
亮太の声に顔をあげる。彼はいつものように微笑んで、鈴音の手元を指差した。
「バケツ、戻しておいでよ。ここは僕が綺麗にしておくからさ」
「……あ。うん。お願いね」
「あと、そろそろ着替えたほうがいいよ。もうお昼になっちゃうし」
亮太の言葉に、鈴音は自分の格好を見下ろす。寝巻きのままだ。
「ほんとだ。というか、もうお昼なの? 私、寝過ぎちゃった」
昨日も、家に着くなりすぐに眠ってしまった。お堂で目が覚めてから、頭が霞がかったように判然としない。
「ここ最近、引っ越しとか家の片付けとかで大変だったし、のんびりしたらいいよ」
「そうだね……」
亮太の言うとおりだ。近頃ひどく疲れてしまうことがあったから、しばらくは静養に努めよう。
「壱様のところに行ってくるよ」
「……どうして?」
「だって、ここを離れる前は毎日壱様にお参りするのが日課だったし。またここに住み始めるから日課を再開しようと思って」
亮太は少し考えるようなそぶりを見せた後、首を横に振った。
「やめたほうがいいよ。あのお堂へ行く道、荒れてて危ないから。土砂崩れがあったみたい。昨日だって、転びそうな時あったし」
「そうだったっけ?」
普通に問題なく歩けた気がするが。
しかし、鈴音の記憶違いなのかもしれない。昨日は頭が働かなくて、終始意識はもうろうとしていたから。
亮太がやめといたほうがいいと言うのなら、やめたほうがいいのだろう。
「役所に電話したら、直してもらえるかな?」
「後回しにされると思うよ。うちの市、余裕がないから田舎の、僕らくらいしか使わない道だし。数年かかるかも」
「そっか……」
しばらくは壱様にお参りするのは難しいだろう。そうとわかっていれば、昨日きちんと挨拶したのに。
鈴音は落ち込んだが、すぐに気持ちを切り替えた。
「なら、梅婆ちゃんのところに行こうかな。まだ挨拶できてないし」
「ああ、梅婆ちゃんへの挨拶がまだだったね。……鈴ちゃんの顔見たら、きっと喜ぶよ」
「亮太は行かないの?」
「僕は仕事があるから。それに、女性同士で積もり積もった話もあるだろうし。梅婆ちゃんによろしく言っておいて」
「わかった。今度、またふたりで会いにいこう」
亮太が一緒に行けないのは残念だが、久しぶりに梅婆に会えるのは楽しみだ。
鈴音が支度を終えて出かけようとすると、亮太が見送りに来てくれた。
「行ってきます」
「いってらっしゃい。……車には気をつけてね」
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