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8話 それぞれの憂鬱
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王妃の部屋は、張り詰めた空気が満ちていた。隅の方で控えている王妃の侍女たちは青ざめた顔をしている。ほんの少しでも身動きすれば叱責されそうなひりつき具合に、ジェシカは息を飲んだ。
エリザベスはベッドで横たわる王妃に穏やかな笑みを向ける。
「お母様、エリザベスが参りました」
「遅いわ! 呼んでから、どれだけ時間が経っていると思っているの!?」
王妃の侍女がエリザベスを呼びに来てから、すぐに支度を整え、こちらへ来た。さほど時間はかかっていない。王妃の言い分は理不尽だ。
だが、それを言ったところで王妃の怒りを買うだけだとわかっているエリザベスは、淡々と謝罪の言葉を返す。
「しっかりしてちょうだい! 王太子のあなたがその様な調子では、あの悪魔憑きにいいように利用されてしまうわ!」
「申し訳ございません。今後、気をつけますわ。ですから、お母様。そのように激昂なさらないください。お身体に障ります」
王妃は数ヶ月前、突然の病に倒れた。回復の見込みはなく、ただ病状を緩和する措置しか取れていないと聞いている。
安静第一のため、エリザベスは王妃を気遣ってそう言った。だが、それは王妃の神経を逆撫でするだけだった。
「じっとしていられるわけないでしょう! あの悪魔憑きのせいで、全てが狂ったのよ! 息が止まって生まれたのなら、そのまま母親と共に死んでしまえば良かったのに! なんて忌々しい!」
「お母様……」
「だいたい、あの悪魔憑きを放置しているから、こんなことになっているのよ! さっさと殺してしまえばいいものを! 遅くはないわ、今からでもーー」
「お母様!」
珍しく語気を強めたエリザベスに、王妃は一瞬呆気に取られた表情を浮かべた。だが、すぐに眦を吊り上げ、先ほど以上の勢いでエリザベスに怒りをぶつける。
「……これでは埒が明かないわね。医師を呼んで鎮静剤を打つように頼んでちょうだい」
侍女に言い添えると、エリザベスは部屋を退室する。まだ王妃が喚いていたが、彼女は一切振り返らなかった。
「殿下。お茶をお淹れいたしましょうか?」
自室に戻って、暗い顔で天を仰ぐエリザベスにそう声をかける。
本来ならばアネットたち侍女の仕事だったが、彼女たちは控えの間に待機している。長年の腹心であるジェシカとふたりきりのほうがいいだろうと判断したのだろう。
「そうね。そうしてちょうだい。……ああ、砂糖もミルクも一切いらないわ」
「承知しました」
エリザベスは甘いものが好きではない。疲れている時ほど摂りたくないと言っているが、普段は平気なフリをして飲んでいる。
甘い物嫌いが王妃とそっくりだと思われたくないからだ。顔つきや声が王妃に似ていると言われることが多いからか、他の部分では似ている要素を少しでも排除したいのだろう。
これはジェシカやアネットなど、ごく身近な侍女しから知らないことだった。自室でも滅多に砂糖やミルク抜きのお茶は飲まない。今日はそれほど疲れているのだろう。
「王妃陛下のご機嫌がよろしくないとは伺っておりましたが、想像以上でしたね」
「ひどいでしょう? 一度お会いするだけでもつらいのに、一日に何度も顔を見せろを言われるのよ」
深いため息をついて、エリザベスはカップに口をつけた。
「前から神経質な方だったけれど、倒れられてからは更に攻撃的になってしまったのよ。侍女も気の毒だわ」
王妃アイラ・アンダーソンは非常に気難しい性格だった。常に高みを目指して努力をし、ほんのわずかな休憩も怠惰だと嫌った。
その厳しさが自分にのみ向けられていれば良かったが、彼女は他人にも同様のストイックさを求めた。だから、配偶者に心を許せる相手を求めた国王の心を掴むことはできず、表面的な関係に留まっている。政略結婚ではごく普通の関係ではあるが、心から国王を愛している王妃には耐え難かったのだろう。
「起きている間は侍女を罵るか、お兄様への呪詛を吐いているそうよ。……お身体が悪い時ぐらい、ご自分のことだけをお考えになればいいのに。あれでは、最期の時までお兄様を憎んでいそうね」
王妃が必要以上にベネディクトに強くあたるのは、国王に愛された前妻の子供だからというのもあるのかもしれない。今すぐ消えて欲しいほど、彼が憎いに違いない。
「王位継承権も与えず幽閉しているのだから、それで満足なさればいいのに。知識を与えるのは危険だからと読み書きすら禁じようとなさって……。お父様が悪魔憑きといえどもかわいい我が子なのだから、最低限の待遇は与えるのを許して欲しいとおっしゃったから、渋々認めたそうだけど」
この国の識字率は高く、平民でもほぼ全ての者が読み書きを習う。習わないのは、孤児院にすら入れなかった孤児くらいのものだろう。
だから、国王が王妃の反対押し切っても教育をさせたのは理解できる。
だがーー
「あら。何か言いたげな顔ね」
「あ……いえ! 申し訳ございません」
「いいのよ。わたくしとお前の仲でしょう? 言ってみなさい」
「……ベネディクト様が教育を受けたことを、殿下はどう思っていらっしゃるのかと思いまして」
ベネディクトが一切教育をされていなければ、今、こうしてエリザベスが彼の存在を危惧することはなかったのかもしれない。ろくな教育を受けていない者が王位に立てるわけがないのだから。
教育を受けられないことは不幸なことだ。だが、今後ベネディクトを葬る可能性を作ってしまったと考えると話は変わってくる。王妃の望み通りに何も教育しない方が、エリザベスにとってもベネディクトにとっても、平穏な道だったのかもしれない。
領地教育の分野に触れられないが、ベネディクトには星や甘いものなど他にも心を癒すものがある。
「そうね。わたくしは……」
エリザベスは考えを整理するように、指でテーブルを叩いた。頭を悩ませる問題に直面した時に、彼女がよくする仕草だ。
「……良かったと思うわよ。彼も王家の一員であることに違いわないもの」
エリザベスは軽やかに笑った。その言葉に偽りはないとジェシカは思った。
「けれど、状況は今と大して変わらないと思うわ。……いえ、それどころかもっと悪い結果になったのかもしれない。玉座につくことの意味を理解できなければ、簡単に謀反の誘いに乗るかもしれないでしょう? それに、傀儡の王であった方がモーガン卿には都合がいいでしょうし」
再びカップに口をつけた後、エリザベスは立ち上がった。
「さ、喉も潤ったことだし、行きましょう」
「どちらにですか?」
「あら。お前が打ち合いに誘ってくれたんじゃない。忘れたの?」
エリザベスの着替えを済ませ、彼女の王宮にある庭で思う存分、剣の打ち合いをした。
エリザベスもジェシカも夢中になって行っていたが、ふたりを見守っていたアネットの提案で、休憩を取ることにした。彼女が用意してくれた椅子に座り込むと、心地よい疲労感が体を包んだ。
「ああ、やっぱり体を動かすと気持ちが晴れるわね」
「そうですね。ひとりで素振りをしているよりも、相手がいる方が楽しいです」
「それにしても、相変わらずお前は強いわね。ひとつも取れなかったわ」
「殿下こそ、久しぶりに剣を握ったと言われましたが、剣筋が冴えていました」
後継者として生まれたエリザベスは王太子として様々な教育を受けた。国王になるための勉学や礼儀作法だけでなく、武芸も学んでいた。
年が近く、幼い頃から交流があり、エリザベスと同じく体を鍛えていたジェシカがよく剣の訓練の相手をしていた。それはエリザベスが立太子する二年前まで続いていた。
「お前とこうしていると、昔を思い出すわ」
「ふたりでよく殿下の王宮で遊び回っていましたね」
「あの王宮は庭が広かったし、登りやすい木もあって楽しかったわね。今の王宮も悪くはないけれど」
エリザベスもジェシカも活発な子どもで、勉学の時以外は常に体を動かしていた。
ジェシカは当時のエリザベスの王宮に泊まることも多く、お転婆だったふたりは王宮を探検して抜け道を見つけたり木登りをしたりと元気いっぱい遊んだものだ。
「またこうして体を動かしたいところだけど……しばらくは無理そうね。もうすぐシーズンだもの」
「……ああ、もうそんな時期なんですね」
この国では『シーズン』と呼ばれる慣習がある。春から秋の間、領地にいた貴族たちが王都に集い、社交するのだ。
王都で開催される華やかな舞踏会は、家同士の交流と、年頃の令息令嬢の出会いの場でもある。家を継ぐわけでもなく、結婚する意思もないジェシカには無縁の場だ。
参加する予定もないが、それでも気が重くなってしまう。
「家族が王都に来るのね」
ジェシカの表情で察したエリザベスは気遣うように見やる。
「ステイプルズ卿たちには、お前はわたくしの命で片時も顔を出せないと伝えておきましょうか?」
「いえ。数ヶ月ぶりですし、きちんと顔を合わせておこうと思います。……殿下。父からは今回のシーズンではできたら数日泊まっていかないかと言われているのですが……」
「わかったわ。その間のベネディクトの世話は他の者に任せるわ。そろそろあなた以外の侍女にも慣れていってほしいと思ってたところだし。……アネット、できるかしら?」
「……殿下のご命令なら」
了承したアネットの表情は若干強張っている。ジェシカはそんな彼女を安心させるように笑んだ。
「大丈夫よ。ベネディクト様は穏やかな方だし、殿下の侍女なら敵意を向けられることはないから。そこらの貴族令息よりも紳士的でお優しいわ」
「……そうね。ジェシカがそう言うなら、大丈夫よね……」
アネットは自分に言い聞かせるように呟く。
悪魔憑きを恐れている彼女に何を言ってもこれ以上不安を和らげることはできないだろう。
百聞は一見にしかず。実際に彼に接すれば、アネットの意見も変わるはずだ。
「お兄様のことはアネットに任せて、あなたは自分のことを考えなさい」
「はい」
ジェシカは天を仰いだ。晴れやかな空が、今のジェシカには眩しかった。
エリザベスはベッドで横たわる王妃に穏やかな笑みを向ける。
「お母様、エリザベスが参りました」
「遅いわ! 呼んでから、どれだけ時間が経っていると思っているの!?」
王妃の侍女がエリザベスを呼びに来てから、すぐに支度を整え、こちらへ来た。さほど時間はかかっていない。王妃の言い分は理不尽だ。
だが、それを言ったところで王妃の怒りを買うだけだとわかっているエリザベスは、淡々と謝罪の言葉を返す。
「しっかりしてちょうだい! 王太子のあなたがその様な調子では、あの悪魔憑きにいいように利用されてしまうわ!」
「申し訳ございません。今後、気をつけますわ。ですから、お母様。そのように激昂なさらないください。お身体に障ります」
王妃は数ヶ月前、突然の病に倒れた。回復の見込みはなく、ただ病状を緩和する措置しか取れていないと聞いている。
安静第一のため、エリザベスは王妃を気遣ってそう言った。だが、それは王妃の神経を逆撫でするだけだった。
「じっとしていられるわけないでしょう! あの悪魔憑きのせいで、全てが狂ったのよ! 息が止まって生まれたのなら、そのまま母親と共に死んでしまえば良かったのに! なんて忌々しい!」
「お母様……」
「だいたい、あの悪魔憑きを放置しているから、こんなことになっているのよ! さっさと殺してしまえばいいものを! 遅くはないわ、今からでもーー」
「お母様!」
珍しく語気を強めたエリザベスに、王妃は一瞬呆気に取られた表情を浮かべた。だが、すぐに眦を吊り上げ、先ほど以上の勢いでエリザベスに怒りをぶつける。
「……これでは埒が明かないわね。医師を呼んで鎮静剤を打つように頼んでちょうだい」
侍女に言い添えると、エリザベスは部屋を退室する。まだ王妃が喚いていたが、彼女は一切振り返らなかった。
「殿下。お茶をお淹れいたしましょうか?」
自室に戻って、暗い顔で天を仰ぐエリザベスにそう声をかける。
本来ならばアネットたち侍女の仕事だったが、彼女たちは控えの間に待機している。長年の腹心であるジェシカとふたりきりのほうがいいだろうと判断したのだろう。
「そうね。そうしてちょうだい。……ああ、砂糖もミルクも一切いらないわ」
「承知しました」
エリザベスは甘いものが好きではない。疲れている時ほど摂りたくないと言っているが、普段は平気なフリをして飲んでいる。
甘い物嫌いが王妃とそっくりだと思われたくないからだ。顔つきや声が王妃に似ていると言われることが多いからか、他の部分では似ている要素を少しでも排除したいのだろう。
これはジェシカやアネットなど、ごく身近な侍女しから知らないことだった。自室でも滅多に砂糖やミルク抜きのお茶は飲まない。今日はそれほど疲れているのだろう。
「王妃陛下のご機嫌がよろしくないとは伺っておりましたが、想像以上でしたね」
「ひどいでしょう? 一度お会いするだけでもつらいのに、一日に何度も顔を見せろを言われるのよ」
深いため息をついて、エリザベスはカップに口をつけた。
「前から神経質な方だったけれど、倒れられてからは更に攻撃的になってしまったのよ。侍女も気の毒だわ」
王妃アイラ・アンダーソンは非常に気難しい性格だった。常に高みを目指して努力をし、ほんのわずかな休憩も怠惰だと嫌った。
その厳しさが自分にのみ向けられていれば良かったが、彼女は他人にも同様のストイックさを求めた。だから、配偶者に心を許せる相手を求めた国王の心を掴むことはできず、表面的な関係に留まっている。政略結婚ではごく普通の関係ではあるが、心から国王を愛している王妃には耐え難かったのだろう。
「起きている間は侍女を罵るか、お兄様への呪詛を吐いているそうよ。……お身体が悪い時ぐらい、ご自分のことだけをお考えになればいいのに。あれでは、最期の時までお兄様を憎んでいそうね」
王妃が必要以上にベネディクトに強くあたるのは、国王に愛された前妻の子供だからというのもあるのかもしれない。今すぐ消えて欲しいほど、彼が憎いに違いない。
「王位継承権も与えず幽閉しているのだから、それで満足なさればいいのに。知識を与えるのは危険だからと読み書きすら禁じようとなさって……。お父様が悪魔憑きといえどもかわいい我が子なのだから、最低限の待遇は与えるのを許して欲しいとおっしゃったから、渋々認めたそうだけど」
この国の識字率は高く、平民でもほぼ全ての者が読み書きを習う。習わないのは、孤児院にすら入れなかった孤児くらいのものだろう。
だから、国王が王妃の反対押し切っても教育をさせたのは理解できる。
だがーー
「あら。何か言いたげな顔ね」
「あ……いえ! 申し訳ございません」
「いいのよ。わたくしとお前の仲でしょう? 言ってみなさい」
「……ベネディクト様が教育を受けたことを、殿下はどう思っていらっしゃるのかと思いまして」
ベネディクトが一切教育をされていなければ、今、こうしてエリザベスが彼の存在を危惧することはなかったのかもしれない。ろくな教育を受けていない者が王位に立てるわけがないのだから。
教育を受けられないことは不幸なことだ。だが、今後ベネディクトを葬る可能性を作ってしまったと考えると話は変わってくる。王妃の望み通りに何も教育しない方が、エリザベスにとってもベネディクトにとっても、平穏な道だったのかもしれない。
領地教育の分野に触れられないが、ベネディクトには星や甘いものなど他にも心を癒すものがある。
「そうね。わたくしは……」
エリザベスは考えを整理するように、指でテーブルを叩いた。頭を悩ませる問題に直面した時に、彼女がよくする仕草だ。
「……良かったと思うわよ。彼も王家の一員であることに違いわないもの」
エリザベスは軽やかに笑った。その言葉に偽りはないとジェシカは思った。
「けれど、状況は今と大して変わらないと思うわ。……いえ、それどころかもっと悪い結果になったのかもしれない。玉座につくことの意味を理解できなければ、簡単に謀反の誘いに乗るかもしれないでしょう? それに、傀儡の王であった方がモーガン卿には都合がいいでしょうし」
再びカップに口をつけた後、エリザベスは立ち上がった。
「さ、喉も潤ったことだし、行きましょう」
「どちらにですか?」
「あら。お前が打ち合いに誘ってくれたんじゃない。忘れたの?」
エリザベスの着替えを済ませ、彼女の王宮にある庭で思う存分、剣の打ち合いをした。
エリザベスもジェシカも夢中になって行っていたが、ふたりを見守っていたアネットの提案で、休憩を取ることにした。彼女が用意してくれた椅子に座り込むと、心地よい疲労感が体を包んだ。
「ああ、やっぱり体を動かすと気持ちが晴れるわね」
「そうですね。ひとりで素振りをしているよりも、相手がいる方が楽しいです」
「それにしても、相変わらずお前は強いわね。ひとつも取れなかったわ」
「殿下こそ、久しぶりに剣を握ったと言われましたが、剣筋が冴えていました」
後継者として生まれたエリザベスは王太子として様々な教育を受けた。国王になるための勉学や礼儀作法だけでなく、武芸も学んでいた。
年が近く、幼い頃から交流があり、エリザベスと同じく体を鍛えていたジェシカがよく剣の訓練の相手をしていた。それはエリザベスが立太子する二年前まで続いていた。
「お前とこうしていると、昔を思い出すわ」
「ふたりでよく殿下の王宮で遊び回っていましたね」
「あの王宮は庭が広かったし、登りやすい木もあって楽しかったわね。今の王宮も悪くはないけれど」
エリザベスもジェシカも活発な子どもで、勉学の時以外は常に体を動かしていた。
ジェシカは当時のエリザベスの王宮に泊まることも多く、お転婆だったふたりは王宮を探検して抜け道を見つけたり木登りをしたりと元気いっぱい遊んだものだ。
「またこうして体を動かしたいところだけど……しばらくは無理そうね。もうすぐシーズンだもの」
「……ああ、もうそんな時期なんですね」
この国では『シーズン』と呼ばれる慣習がある。春から秋の間、領地にいた貴族たちが王都に集い、社交するのだ。
王都で開催される華やかな舞踏会は、家同士の交流と、年頃の令息令嬢の出会いの場でもある。家を継ぐわけでもなく、結婚する意思もないジェシカには無縁の場だ。
参加する予定もないが、それでも気が重くなってしまう。
「家族が王都に来るのね」
ジェシカの表情で察したエリザベスは気遣うように見やる。
「ステイプルズ卿たちには、お前はわたくしの命で片時も顔を出せないと伝えておきましょうか?」
「いえ。数ヶ月ぶりですし、きちんと顔を合わせておこうと思います。……殿下。父からは今回のシーズンではできたら数日泊まっていかないかと言われているのですが……」
「わかったわ。その間のベネディクトの世話は他の者に任せるわ。そろそろあなた以外の侍女にも慣れていってほしいと思ってたところだし。……アネット、できるかしら?」
「……殿下のご命令なら」
了承したアネットの表情は若干強張っている。ジェシカはそんな彼女を安心させるように笑んだ。
「大丈夫よ。ベネディクト様は穏やかな方だし、殿下の侍女なら敵意を向けられることはないから。そこらの貴族令息よりも紳士的でお優しいわ」
「……そうね。ジェシカがそう言うなら、大丈夫よね……」
アネットは自分に言い聞かせるように呟く。
悪魔憑きを恐れている彼女に何を言ってもこれ以上不安を和らげることはできないだろう。
百聞は一見にしかず。実際に彼に接すれば、アネットの意見も変わるはずだ。
「お兄様のことはアネットに任せて、あなたは自分のことを考えなさい」
「はい」
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