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列車は二十六時にしか来ない
第三章 待合室の少女
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列車が闇の海を漂い続けてどれほど経ったのか、時計もスマホも沈黙したままでは見当がつかなかった。車窓の外で星々は渦を巻き、時折フィルムが焼けるように一瞬途切れては繋がる。そのたびに茅乃の輪郭がわずかにずれ、照人は夢と覚醒の境を往復している気分になった。
自分が見た兄の影は幻だったのか、それとも別のレールへ流れた実像だったのか。胸に残るのは、霧の向こうで確かに感じた視線の余熱だけ。
車内を包む微かな振動が止み、列車は再び減速を始めた。天井灯が一度点滅し、蛍光灯が高い音を立てながら明るさを落とす。茅乃が瞼を開け、視線を向けた。
「もうすぐ〈待合室〉に着く。ここで降りれば、少し休めるよ」
「待合室……?」
「列車と外の世界の、中間みたいな場所。時間がまだ決まっていないから、安全と言えば安全」
言いながら、彼女は制服の胸ポケットから金属片を取り出した。五百円硬貨ほどの厚みのあるディスク。表面に目盛りが刻まれ、中央に青い発光体が埋め込まれている。
「これが乗車証。持っていない人は、あそこに時間を預ける」
ディスクの中心で光が三回点滅する。残りのチケットが三、とでも示すように。
照人のポケットには何も無い。貼り紙の回数と茅乃の手首の痕だけが、不気味にリンクしていた。
列車は柔らかい衝撃とともに停止し、ドアが開いた。そこに広がっていたのは、プラットホームとは似ても似つかない静謐な空間だった。
水族館の回廊を思わせる半透明の柱が天井まで伸び、内部を青い光粒が舞う。床は黒曜石のように滑らかで、歩くたびに波紋の影がにじむ。左右には古い木造ベンチと石造りの時計台が交互に並び、奥の壁に「待合室」と達筆の書で書かれた木札が掲げられている。
「わたしはここで一息つくよ。君は?」
「……兄を探すには、どうすればいい?」
茅乃は少し考え、金属ディスクを指先で弾いた。青い光が一度だけ強く瞬く。
「線路守に訊くのが早い。でも危険。代わりに待合室の係員に案内を頼めば……まあ、料金は取られる」
「料金?」
「時間。ここでは硬貨じゃなく、君の“未来”を小分けにして支払うんだってさ」
冗談とも本気ともつかぬ口調。照人の皮膚が粟立つ。
待合室の中央、石のインフォメーションカウンターらしき台の奥に老人が座っていた。黒い駅帽に銀縁メガネ、軍服に似た詰襟の上着。胸に名札があるが、そこだけが何も書かれていない白。
茅乃が距離を取り、目を伏せる。――線路守。
「いらっしゃい……初乗車のお客様」
声は驚くほど穏やかで、古い蓄音機の音色を思わせた。だが言葉を聞くだけで、背骨の奥に冷たい管が通ったような感覚が走る。
「兄を捜しています。暁生――二十四歳……」
照人が口を開くと、老人はメガネの奥で瞳孔を細めた。
「兄上は三度目の停車でチケットを使い果たし、只今当室にて“清算”中でございます」
「清算……って、何を……?」
「不要な時間を貸し倒しし、必要な方へ融通するのが我々の勤め。列車とは、時間の再配分装置なのです」
意味のわからない説明に口を閉ざすと、老人は帳簿を開き、羽根ペンで線を引いた。紙面に浮かび上がったのは、兄の名前と「残高〇時間」の文字。
「貸し倒しを免除する方法は二つ。一つはご本人が代価を払うこと。もう一つは、同じ家族が肩代わりすること」
ゆっくりと照人を見た。瞳が深い井戸の底のように暗く、吸い込まれそうだ。
「払う場合のレートは?」
「未来の三六時間につき、一停車分を返済。きょうび、なかなか太いお客様です」
冗談めかした言い方だが、内容は重すぎた。
「兄は……なぜそこまでして……」
「家族を助けるため。それ以上でも以下でもない」
言い切ると、老人は帳簿を閉じ、手元のベルを叩いた。耳障りな金属音が待合室全体に反響し、天井の光が脈打つ。茅乃が肩を跳ね上げた。
「時間切れですな。そろそろお戻りを」
列車の扉が再び開く音が遠くで響く。茅乃が袖を引いた。
「行こう。ここに長居すると、選択肢が減る」
「でも兄さんが――」
「清算はまだ終わってない。君が次の停車で降りれば、直接会えるかも」
瞳に宿る真摯な光が、嘘ではないと告げていた。照人は大きく息を吸い、頷いた。
列車へ戻る途中、石床に落ちている小さな紙片を踏みそうになった。拾い上げると、新聞の切れ端。日付はまた動いている。〈二〇二五年四月三日〉。自分はまだ四月一日の深夜にいるはずだ。だが指先に残るインクの湿りは、未来が確かにここへ流れ込んでいる証拠だった。
茅乃がポケットから別の紙切れを差し出した。
「君も集めてるみたいだから、お揃いだね」
そこには〈四月四日 幽光線 運休〉の小さな見出し。日付が遠ざかるにつれ、紙面の枠がぼやけ、まるで水に溶けるインクのように周辺が淡くにじんでいる。
「運休って……列車が止まる?」
「たぶん、その日で終点。だからタイムリミットは近い」
列車へ戻るステップで、カメラが小さく震えた。電源は切れているのに、シャッターユニットが独りでに動いたような感触。茅乃が耳を澄ますように首を傾げた。
「ファインダーが動きたがってる。次は写るかも」
「写ったら、何か変わる?」
「証明になる。線路守の帳簿にも、写真の方が効くらしい。彼、意外とアナログだから」
彼女の冗談に笑いそうになり、照人は糸が切れたように肩の力を抜いた。恐怖と不安で膨らんでいた肺の中の空気が、ほんの少し軽くなる。
列車に戻ると、扉は静かに閉まり、再び暗黒のレールへ滑り出した。待合室の柱が遠ざかり、やがて一点の光となって潰える。
ボックス席へ戻ると、茅乃は網棚から小さな紙包みを取り出し、照人の掌に載せた。中にはチョコレートバーが一つ。包装紙に〈NightSnack〉とカタカナ混じりのロゴが印刷されている。
「糖分が無いと、時間酔いするんだって」
「ありがと……」
包装を破き、甘さを噛むうちに脳に血が巡る。足元のフロアがわずかに傾き、列車は再びどこかへ曲がったらしい。
「線路守に目をつけられたら、どうなる?」
「一番悪いのは“時刻没収”――記憶がごっそり抜ける。通し番号の無い日付を生きることになる」
「……それは、つまり……」
「自分が誰かも曖昧になる。わたしのクラスメイトにもひとりいる。彼女、誕生日を祝われてもピンとこないんだって」
茅乃の声がわずかに震えた。照人は拳を握る。兄がそんな運命に向かっているなら、止めなければ。
「次で、兄さんに会う」
言い切ると、茅乃は柔らかく笑った。
「じゃあわたしも同行するよ。心配だし」
「君は……残り一回じゃ?」
「まあね。でもいいの。誰かの勇気に付き合うのが、わたしの役目みたいだから」
軽く肩を竦めた彼女の耳たぶで、青い光が二度脈打った。残り回数が減った合図のようで、照人の胸が締め付けられる。
車内灯がふっと消え、すぐに戻った。茅乃は席を立ち、連結部へ向かう。
「進行方向の先頭へ行けば、運転席が見える。そこに立つと、次の停車がはっきりわかるそうだよ」
照人は立ち上がり、彼女を追った。連結扉を開けると、一瞬だけ車両間を満たす虚空が現れ、足下の鉄板が半透明に透けた。闇の底で星雲がゆっくりうねっている。
次の車両は客席が撤去され、壁一面に写真が貼られていた。セピア色の家族写真、運動会のゴールテープ、病室のベッド脇で握った手。どれも見知らぬ人々だが、シャッターの瞬間に焼き付いた愛情が温かい。
「全部、ここで預かった時間の原版。言い換えれば、担保」
茅乃の声が低く響く。照人は呼吸を忘れ、一枚一枚を見つめた。すると、最奥の壁に、見覚えのある背中があった。高校の文化祭で兄を撮ったはずの写真だ。だが自宅にプリントは無い。記憶には、カメラがフリーズして撮れていなかったはず。
「兄さん……」
写真の兄は笑っていた。その肩越しに、幼い照人がぼんやり写っている。
「清算の担保に入った写真かな。きっと大事だから残してるんだ」
茅乃の言葉に、照人は手を伸ばしそうになり、指を止めた。触れれば帳簿が動き、兄の残時間が書き換わるかもしれない。
連結部の向こうで、運転室を示す青い表示灯が点った。列車は次の停車へ向け最終の旋回を始めたらしい。
「行こう」茅乃が手を差し出す。
照人は頷き、彼女の指を握った。
今度こそ、真実を掴む。そう覚悟した瞬間、カメラのシャッターが自動で切れ、光がファインダーいっぱいに満ちた。
閃光が収まると、照人の手の中でカメラが小さく震えた。液晶には先ほどの家族写真が、今度は鮮明に写っている。兄の笑顔の奥で、何か青い粒が舞うように散っていた。
「写った……!」
喜びと同時に、列車全体が深く鳴動する。天井灯が列を成して消灯し、遠くでブレーキ音が唸った。ダークブルーの闇の中、運転席のガラスだけが海底の窓のように光を湛え、そこへ向かう通路がほの白く浮かび上がった。
次の停車が、運命の三回目――照人は茅乃と並んで歩き出した。
足音は吸い込まれ、替わりに鼓動だけが重く響く。レールの先から潮騒のような音がわき上がり、見えない波が時の砂をさらう。照人は胸のカメラを叩き、兄の名を心で呼んだ。闇の向こうで、二:〇六の鐘が静かに鳴ろうとしていた。
自分が見た兄の影は幻だったのか、それとも別のレールへ流れた実像だったのか。胸に残るのは、霧の向こうで確かに感じた視線の余熱だけ。
車内を包む微かな振動が止み、列車は再び減速を始めた。天井灯が一度点滅し、蛍光灯が高い音を立てながら明るさを落とす。茅乃が瞼を開け、視線を向けた。
「もうすぐ〈待合室〉に着く。ここで降りれば、少し休めるよ」
「待合室……?」
「列車と外の世界の、中間みたいな場所。時間がまだ決まっていないから、安全と言えば安全」
言いながら、彼女は制服の胸ポケットから金属片を取り出した。五百円硬貨ほどの厚みのあるディスク。表面に目盛りが刻まれ、中央に青い発光体が埋め込まれている。
「これが乗車証。持っていない人は、あそこに時間を預ける」
ディスクの中心で光が三回点滅する。残りのチケットが三、とでも示すように。
照人のポケットには何も無い。貼り紙の回数と茅乃の手首の痕だけが、不気味にリンクしていた。
列車は柔らかい衝撃とともに停止し、ドアが開いた。そこに広がっていたのは、プラットホームとは似ても似つかない静謐な空間だった。
水族館の回廊を思わせる半透明の柱が天井まで伸び、内部を青い光粒が舞う。床は黒曜石のように滑らかで、歩くたびに波紋の影がにじむ。左右には古い木造ベンチと石造りの時計台が交互に並び、奥の壁に「待合室」と達筆の書で書かれた木札が掲げられている。
「わたしはここで一息つくよ。君は?」
「……兄を探すには、どうすればいい?」
茅乃は少し考え、金属ディスクを指先で弾いた。青い光が一度だけ強く瞬く。
「線路守に訊くのが早い。でも危険。代わりに待合室の係員に案内を頼めば……まあ、料金は取られる」
「料金?」
「時間。ここでは硬貨じゃなく、君の“未来”を小分けにして支払うんだってさ」
冗談とも本気ともつかぬ口調。照人の皮膚が粟立つ。
待合室の中央、石のインフォメーションカウンターらしき台の奥に老人が座っていた。黒い駅帽に銀縁メガネ、軍服に似た詰襟の上着。胸に名札があるが、そこだけが何も書かれていない白。
茅乃が距離を取り、目を伏せる。――線路守。
「いらっしゃい……初乗車のお客様」
声は驚くほど穏やかで、古い蓄音機の音色を思わせた。だが言葉を聞くだけで、背骨の奥に冷たい管が通ったような感覚が走る。
「兄を捜しています。暁生――二十四歳……」
照人が口を開くと、老人はメガネの奥で瞳孔を細めた。
「兄上は三度目の停車でチケットを使い果たし、只今当室にて“清算”中でございます」
「清算……って、何を……?」
「不要な時間を貸し倒しし、必要な方へ融通するのが我々の勤め。列車とは、時間の再配分装置なのです」
意味のわからない説明に口を閉ざすと、老人は帳簿を開き、羽根ペンで線を引いた。紙面に浮かび上がったのは、兄の名前と「残高〇時間」の文字。
「貸し倒しを免除する方法は二つ。一つはご本人が代価を払うこと。もう一つは、同じ家族が肩代わりすること」
ゆっくりと照人を見た。瞳が深い井戸の底のように暗く、吸い込まれそうだ。
「払う場合のレートは?」
「未来の三六時間につき、一停車分を返済。きょうび、なかなか太いお客様です」
冗談めかした言い方だが、内容は重すぎた。
「兄は……なぜそこまでして……」
「家族を助けるため。それ以上でも以下でもない」
言い切ると、老人は帳簿を閉じ、手元のベルを叩いた。耳障りな金属音が待合室全体に反響し、天井の光が脈打つ。茅乃が肩を跳ね上げた。
「時間切れですな。そろそろお戻りを」
列車の扉が再び開く音が遠くで響く。茅乃が袖を引いた。
「行こう。ここに長居すると、選択肢が減る」
「でも兄さんが――」
「清算はまだ終わってない。君が次の停車で降りれば、直接会えるかも」
瞳に宿る真摯な光が、嘘ではないと告げていた。照人は大きく息を吸い、頷いた。
列車へ戻る途中、石床に落ちている小さな紙片を踏みそうになった。拾い上げると、新聞の切れ端。日付はまた動いている。〈二〇二五年四月三日〉。自分はまだ四月一日の深夜にいるはずだ。だが指先に残るインクの湿りは、未来が確かにここへ流れ込んでいる証拠だった。
茅乃がポケットから別の紙切れを差し出した。
「君も集めてるみたいだから、お揃いだね」
そこには〈四月四日 幽光線 運休〉の小さな見出し。日付が遠ざかるにつれ、紙面の枠がぼやけ、まるで水に溶けるインクのように周辺が淡くにじんでいる。
「運休って……列車が止まる?」
「たぶん、その日で終点。だからタイムリミットは近い」
列車へ戻るステップで、カメラが小さく震えた。電源は切れているのに、シャッターユニットが独りでに動いたような感触。茅乃が耳を澄ますように首を傾げた。
「ファインダーが動きたがってる。次は写るかも」
「写ったら、何か変わる?」
「証明になる。線路守の帳簿にも、写真の方が効くらしい。彼、意外とアナログだから」
彼女の冗談に笑いそうになり、照人は糸が切れたように肩の力を抜いた。恐怖と不安で膨らんでいた肺の中の空気が、ほんの少し軽くなる。
列車に戻ると、扉は静かに閉まり、再び暗黒のレールへ滑り出した。待合室の柱が遠ざかり、やがて一点の光となって潰える。
ボックス席へ戻ると、茅乃は網棚から小さな紙包みを取り出し、照人の掌に載せた。中にはチョコレートバーが一つ。包装紙に〈NightSnack〉とカタカナ混じりのロゴが印刷されている。
「糖分が無いと、時間酔いするんだって」
「ありがと……」
包装を破き、甘さを噛むうちに脳に血が巡る。足元のフロアがわずかに傾き、列車は再びどこかへ曲がったらしい。
「線路守に目をつけられたら、どうなる?」
「一番悪いのは“時刻没収”――記憶がごっそり抜ける。通し番号の無い日付を生きることになる」
「……それは、つまり……」
「自分が誰かも曖昧になる。わたしのクラスメイトにもひとりいる。彼女、誕生日を祝われてもピンとこないんだって」
茅乃の声がわずかに震えた。照人は拳を握る。兄がそんな運命に向かっているなら、止めなければ。
「次で、兄さんに会う」
言い切ると、茅乃は柔らかく笑った。
「じゃあわたしも同行するよ。心配だし」
「君は……残り一回じゃ?」
「まあね。でもいいの。誰かの勇気に付き合うのが、わたしの役目みたいだから」
軽く肩を竦めた彼女の耳たぶで、青い光が二度脈打った。残り回数が減った合図のようで、照人の胸が締め付けられる。
車内灯がふっと消え、すぐに戻った。茅乃は席を立ち、連結部へ向かう。
「進行方向の先頭へ行けば、運転席が見える。そこに立つと、次の停車がはっきりわかるそうだよ」
照人は立ち上がり、彼女を追った。連結扉を開けると、一瞬だけ車両間を満たす虚空が現れ、足下の鉄板が半透明に透けた。闇の底で星雲がゆっくりうねっている。
次の車両は客席が撤去され、壁一面に写真が貼られていた。セピア色の家族写真、運動会のゴールテープ、病室のベッド脇で握った手。どれも見知らぬ人々だが、シャッターの瞬間に焼き付いた愛情が温かい。
「全部、ここで預かった時間の原版。言い換えれば、担保」
茅乃の声が低く響く。照人は呼吸を忘れ、一枚一枚を見つめた。すると、最奥の壁に、見覚えのある背中があった。高校の文化祭で兄を撮ったはずの写真だ。だが自宅にプリントは無い。記憶には、カメラがフリーズして撮れていなかったはず。
「兄さん……」
写真の兄は笑っていた。その肩越しに、幼い照人がぼんやり写っている。
「清算の担保に入った写真かな。きっと大事だから残してるんだ」
茅乃の言葉に、照人は手を伸ばしそうになり、指を止めた。触れれば帳簿が動き、兄の残時間が書き換わるかもしれない。
連結部の向こうで、運転室を示す青い表示灯が点った。列車は次の停車へ向け最終の旋回を始めたらしい。
「行こう」茅乃が手を差し出す。
照人は頷き、彼女の指を握った。
今度こそ、真実を掴む。そう覚悟した瞬間、カメラのシャッターが自動で切れ、光がファインダーいっぱいに満ちた。
閃光が収まると、照人の手の中でカメラが小さく震えた。液晶には先ほどの家族写真が、今度は鮮明に写っている。兄の笑顔の奥で、何か青い粒が舞うように散っていた。
「写った……!」
喜びと同時に、列車全体が深く鳴動する。天井灯が列を成して消灯し、遠くでブレーキ音が唸った。ダークブルーの闇の中、運転席のガラスだけが海底の窓のように光を湛え、そこへ向かう通路がほの白く浮かび上がった。
次の停車が、運命の三回目――照人は茅乃と並んで歩き出した。
足音は吸い込まれ、替わりに鼓動だけが重く響く。レールの先から潮騒のような音がわき上がり、見えない波が時の砂をさらう。照人は胸のカメラを叩き、兄の名を心で呼んだ。闇の向こうで、二:〇六の鐘が静かに鳴ろうとしていた。
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