『二十六時のアオイヒカリ』

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二十六時のアオイヒカリ

第二十六章 春宵一刻

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 五月一日夕刻、朱に染まる雲が改装済みの旧日永駅舎へ斜光を落とす。写真展〈春宵一刻〉のオープニングには照人・茅乃・母・美佐子がホストとして立ち、兄・暁生は海外調査からのリモート参加だ。ギャラリーの白壁には幽光ライン開業から今日までを捉えた四十八点が並び、床材は踏むと微光を返すフォトグラム紙。  

◆ 母のシリーズ〈家族温度〉  
 黄昏インクで現像した十点が観覧者の嗅覚まで呼び起こす。茅乃は「匂いも光の仲間」と解説。  

◆ 照人の〈桜越急行〉  
 改良DOFレンズで満開の桜・夜行列車・未来機関車を同焦点に収め、白札は誤差〇・〇三と判定。  

◆ 空白の額縁  
 最奥の額だけ何も無いキャプション〈暁生/未現像〉。兄の未現像フィルム用余白だ。白札〈露光待機〉が現れ線路守も承認。  

◆ 春宵一刻コンチェルト  
 午後六時半、振り子時計が一刻を打つと黄昏粒インクが桃色閃光。鼓動シンフォニーが流れ観客の心拍を音に変換。  

◆ 暁生のライブメッセージ  
 海外夜景の前で兄は「これは次の60秒」と語り、ブラックホールピクセル入りケースを掲げ通信終了。白札〈60S予約〉。  

◆ 一刻は三千六十秒  
 客が去り無人の会場で照人がシャッターを切ると額の中央にカメラを持つ淡影―時差二時間先の兄が写り込む。茅乃は「未現像だけど少し写った」とプリントを乾燥へ。  

◆ 余白の未来  
 母「写真は写らぬ未来も額装できるのね」。照人「余白こそ一番のレンズ」。茅乃は秒券を弾き「60秒を渡す準備を」。暗光が線路を走り、空白の額は春宵の余韻と共に未来現像を待つ。

(了)
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