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席替えの結果、僕の席は窓側の真ん中より少し後ろくらいだった。偶然にも隣はセリスさん。
隣の席となれば、しばらく彼女と関わることになるだろうと思った僕は、セリスさんに挨拶をした。
「これからよろしくね、セリスさん」
「……っ」
「あれ、セリスさん……?」
セリスさんは一瞬目を見開いて僕を睨んだ後、下を向いて顔を隠してしまった。
僕は、おかしなことを言っただろうか。
もう一度声を掛けてみる。
「あの……セリスさん、よろしくね」
「…………よろしく……」
よかった。
声は小さかったけど、セリスさんは返事をしてくれた。
授業が終わり休憩時間になると、いつものようにダリウスが僕のところへやってきた。
「トリスタン。ちょっとこっちに来てくれよ」
「いいよ。でも急にどうしたの?」
「ま、いいから。な、頼むよ。ほら」
あまりに真剣に頼むので、僕は大人しくダリウスについて行くことにした。
ダリウスの席の近くまで移動すると、彼は心配そうな顔をして言った。
「なあ、トリスタン大丈夫だったか?」
「えっ? なにが?」
「セリスさんだよ。お前のこと睨んでただろ? 彼女、お前を殺そうとしてるんじゃないかと思って心配だったんだ」
「ああ、そのことか。殺すなんてオーバーだよ。ぜんぜん大丈夫だし。さっきもよろしくって挨拶したところさ」
「まじかよ。あんな悪魔みたいなセリスさんにそんなこと言えるなんて……やっぱりお前はすごい奴だな」
「大げさだなダリウスは。隣の席なんだから、挨拶くらいしたっていいじゃないか」
「まあ、そうだけど……本当に大丈夫なのか?」
「だから気にしすぎだって……彼女はそんな人じゃないと思うよ」
「そうか……でも注意しておけよ」
セリスさんはそんな人じゃないのに。
ダリウスは友人思いを通り越して、もはや心配性なんじゃなかろうかとさえ思えてくる。
「じゃあ、話変わるけど。トリスタンの好きな女子のタイプってどんな感じ?」
「おお! いきなり変わったね!」
「そう! 今から恋バナをします」
こういうダリウスの突拍子も無いところは、彼の面白い魅力だ。
「うーん、タイプって言われても難しいね……」
「おっと、トリスタンはBL派か? 言っとくけど俺はノーマルだからな!」
「そうじゃなくて。僕……今まで人を好きになったことがないんだ」
「ほー。ウブですなあ」
「じゃあ、ダリウスは恋愛したことあるの?」
「そりゃ、あるよ! お付き合いしたことは無いけどな」
ダリウスが恋バナをしたがるの仕方のないことなのだ。
この世界が乙女ゲームだからだと思うが、この学園は『生徒は等しく平等である』という謎ルールがある。そのおかげで生徒同士は身分にかかわらず、フランクに話すことが出来る。おそらく、身分差のある男女でも気兼ねなく恋愛出来るためのシステムだろう。その規則は別名『恋愛奨励制度』なんて言われている。
そんな恋愛至上主義な学園だからか、両思いコンビが爆誕するのはよくあることだ。相性が良ければ、そのまま婚約関係に発展するそうだ。
でも、そんな学園でも僕たちは……やっぱりモブだった。
ダリウスの心配を余所に、それから何事もなく日々が過ぎていった。
そんな中で気になるのは、セリスさんが時々僕を睨んでいることだ。
でも、僕と目が合うとセリスさんはすぐに顔を逸らしてしまう。
そんな日が続く内に、何で睨まれているのかという疑問が大きくなってきていて……。
もちろん、僕の自意識過剰かもしれないけど、思い切って本人に聞いてみることにした。
「セリスさん。あの、僕セリスさんに何か悪いことしたかな?」
「っ……わ、悪いこと? 別にあなたは何もしてないでしょ」
「そっか。でも、なんか睨まれてる気がしちゃって」
「に、睨んでなんかない…………」
どうして睨んでるわけじゃないのに、そんなに眉間にシワを寄せるているのだろうか。目にだって相当力が入っているように見える。まるで般若かヤンキーのようだ。
「もしかして……セリスさんって」
「な、なによ」
「僕の勘違いかもしれないけど、聞いていいかな?」
「い、言ってみて……」
セリスさんの顔が若干紅潮している気がするが、僕の気の所為だろう。
「セリスさんって…………」
「…………うん」
「もしかして……」
「…………っ」
何故かセリスさんはゴクリとツバを飲む。
そんなに緊張しなくてもいいと思うけど。
「目が悪いんじゃないかな?」
「はあ!? …………め? 目が悪い?」
「セリスさんっていつも目に力入れてるよね」
「そうなの……? 言われれば、そうかも知れないわね」
「でしょ? そんなに目に力を入れてるってことは、そうしなきゃいけない理由があるんじゃないかって思ったんだ」
セリスさんが少し考えるような仕草をする。
「……続けて」
「目に力を入れると眼球が圧迫されるんだけどね……」
「それが何の関係があるの?」
「目が圧迫されるとと、ピントが合いやすく人もいるんだって」
「へぇ……そんなことよく知ってるわね」
詳しくは知らないけど、この辺は前世の知識だ。
目の筋肉が固まっているからピントが合いにくくなっているのが関係してるとか……。
「でも、そうやってずっと力を入れてると、目が疲れるんじゃないかなって」
「ええ……そうね。少し疲れるかもしれないわ」
「やっぱりそうだよね」
セリスさんは休み時間になると寝ていることが多い。それはきっと、不真面目だからとかじゃなくて、目が疲れているからなんじゃないかと思っている。
「それなら、眼鏡をかけたらどうかな」
「眼鏡……?」
「そう。もしかして眼鏡かけるの嫌かな? セリスさんは綺麗だから眼鏡をかけても似合うと思うけど」
「なっ……トリスタン。あなた何をっ!」
「あれ、僕おかしなこと言った?」
「あなた……誰にでもそんなこと言ってるんじゃないでしょうね?」
「誰にでもは言わないよ。でもセリスさんは綺麗だと思ったから」
「くっ…………」
セリスさんは気分を害したのかそっぽを向いてしまった。耳が少し赤くなっているから、相当怒らせてしまったのかもしれない。
隣の席となれば、しばらく彼女と関わることになるだろうと思った僕は、セリスさんに挨拶をした。
「これからよろしくね、セリスさん」
「……っ」
「あれ、セリスさん……?」
セリスさんは一瞬目を見開いて僕を睨んだ後、下を向いて顔を隠してしまった。
僕は、おかしなことを言っただろうか。
もう一度声を掛けてみる。
「あの……セリスさん、よろしくね」
「…………よろしく……」
よかった。
声は小さかったけど、セリスさんは返事をしてくれた。
授業が終わり休憩時間になると、いつものようにダリウスが僕のところへやってきた。
「トリスタン。ちょっとこっちに来てくれよ」
「いいよ。でも急にどうしたの?」
「ま、いいから。な、頼むよ。ほら」
あまりに真剣に頼むので、僕は大人しくダリウスについて行くことにした。
ダリウスの席の近くまで移動すると、彼は心配そうな顔をして言った。
「なあ、トリスタン大丈夫だったか?」
「えっ? なにが?」
「セリスさんだよ。お前のこと睨んでただろ? 彼女、お前を殺そうとしてるんじゃないかと思って心配だったんだ」
「ああ、そのことか。殺すなんてオーバーだよ。ぜんぜん大丈夫だし。さっきもよろしくって挨拶したところさ」
「まじかよ。あんな悪魔みたいなセリスさんにそんなこと言えるなんて……やっぱりお前はすごい奴だな」
「大げさだなダリウスは。隣の席なんだから、挨拶くらいしたっていいじゃないか」
「まあ、そうだけど……本当に大丈夫なのか?」
「だから気にしすぎだって……彼女はそんな人じゃないと思うよ」
「そうか……でも注意しておけよ」
セリスさんはそんな人じゃないのに。
ダリウスは友人思いを通り越して、もはや心配性なんじゃなかろうかとさえ思えてくる。
「じゃあ、話変わるけど。トリスタンの好きな女子のタイプってどんな感じ?」
「おお! いきなり変わったね!」
「そう! 今から恋バナをします」
こういうダリウスの突拍子も無いところは、彼の面白い魅力だ。
「うーん、タイプって言われても難しいね……」
「おっと、トリスタンはBL派か? 言っとくけど俺はノーマルだからな!」
「そうじゃなくて。僕……今まで人を好きになったことがないんだ」
「ほー。ウブですなあ」
「じゃあ、ダリウスは恋愛したことあるの?」
「そりゃ、あるよ! お付き合いしたことは無いけどな」
ダリウスが恋バナをしたがるの仕方のないことなのだ。
この世界が乙女ゲームだからだと思うが、この学園は『生徒は等しく平等である』という謎ルールがある。そのおかげで生徒同士は身分にかかわらず、フランクに話すことが出来る。おそらく、身分差のある男女でも気兼ねなく恋愛出来るためのシステムだろう。その規則は別名『恋愛奨励制度』なんて言われている。
そんな恋愛至上主義な学園だからか、両思いコンビが爆誕するのはよくあることだ。相性が良ければ、そのまま婚約関係に発展するそうだ。
でも、そんな学園でも僕たちは……やっぱりモブだった。
ダリウスの心配を余所に、それから何事もなく日々が過ぎていった。
そんな中で気になるのは、セリスさんが時々僕を睨んでいることだ。
でも、僕と目が合うとセリスさんはすぐに顔を逸らしてしまう。
そんな日が続く内に、何で睨まれているのかという疑問が大きくなってきていて……。
もちろん、僕の自意識過剰かもしれないけど、思い切って本人に聞いてみることにした。
「セリスさん。あの、僕セリスさんに何か悪いことしたかな?」
「っ……わ、悪いこと? 別にあなたは何もしてないでしょ」
「そっか。でも、なんか睨まれてる気がしちゃって」
「に、睨んでなんかない…………」
どうして睨んでるわけじゃないのに、そんなに眉間にシワを寄せるているのだろうか。目にだって相当力が入っているように見える。まるで般若かヤンキーのようだ。
「もしかして……セリスさんって」
「な、なによ」
「僕の勘違いかもしれないけど、聞いていいかな?」
「い、言ってみて……」
セリスさんの顔が若干紅潮している気がするが、僕の気の所為だろう。
「セリスさんって…………」
「…………うん」
「もしかして……」
「…………っ」
何故かセリスさんはゴクリとツバを飲む。
そんなに緊張しなくてもいいと思うけど。
「目が悪いんじゃないかな?」
「はあ!? …………め? 目が悪い?」
「セリスさんっていつも目に力入れてるよね」
「そうなの……? 言われれば、そうかも知れないわね」
「でしょ? そんなに目に力を入れてるってことは、そうしなきゃいけない理由があるんじゃないかって思ったんだ」
セリスさんが少し考えるような仕草をする。
「……続けて」
「目に力を入れると眼球が圧迫されるんだけどね……」
「それが何の関係があるの?」
「目が圧迫されるとと、ピントが合いやすく人もいるんだって」
「へぇ……そんなことよく知ってるわね」
詳しくは知らないけど、この辺は前世の知識だ。
目の筋肉が固まっているからピントが合いにくくなっているのが関係してるとか……。
「でも、そうやってずっと力を入れてると、目が疲れるんじゃないかなって」
「ええ……そうね。少し疲れるかもしれないわ」
「やっぱりそうだよね」
セリスさんは休み時間になると寝ていることが多い。それはきっと、不真面目だからとかじゃなくて、目が疲れているからなんじゃないかと思っている。
「それなら、眼鏡をかけたらどうかな」
「眼鏡……?」
「そう。もしかして眼鏡かけるの嫌かな? セリスさんは綺麗だから眼鏡をかけても似合うと思うけど」
「なっ……トリスタン。あなた何をっ!」
「あれ、僕おかしなこと言った?」
「あなた……誰にでもそんなこと言ってるんじゃないでしょうね?」
「誰にでもは言わないよ。でもセリスさんは綺麗だと思ったから」
「くっ…………」
セリスさんは気分を害したのかそっぽを向いてしまった。耳が少し赤くなっているから、相当怒らせてしまったのかもしれない。
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