魔導デイトレード戦記

高根 甲信

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4.魔導トレード科

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第一印象は『黒い』だった。
カーテンを閉め切った部屋の中は、黒色のパーテーションでいくつも仕切られていた。そのせいで、昼間なのに薄暗い。
人がいるような気配もない。

「シモン教授はいらっしゃいますか?」 

恐る恐る呼びかけると、意外にも奥から返事が返ってきた。

「教授はもういない」

「は?…どういうことですか?」

僕は声のした方へ進んでいった。
パーテーションの奥、部屋の一番隅に、巨大なモニターがあった。

そこには、赤と青のグラフ…『ローソク足』が、生き物のように動いている。その光の中に一人の男が座っていた。
​​男はモニターから目を離さずに言った。

「だから、言った通りだ。教授はいない」

その声には感情の起伏が全くなく、無機質な感じだ。

「どういうことでしょうか?」

「選択科目の受講だろ?教授は追証喰らって消えたから、諦めろ」

教授がいない?おいしょう?どういうこと?僕の頭は混乱していた。こんなに走り回って、まだ一つも受講できないとは思わなかった。
どうしていいかわからず、突っ立っていると奥でデジタル音と同時に女性の声がした。
ピンボーン

「リカーク!」

僕は他にも人がいた事に少し驚いて振り向くと、ドタドタとやってくる音がして、短髪の女子生徒が顔をのぞかせた。

「結構行けたよ今のは!…って…誰?」

「お前、まだいたのか」

「えっと…あの…ここ、魔導トレード科ですよね?」

「そうだけど、さっき言ったよな。シモン教授はいなくなったって。それを聞いてみんな帰ったぞ。悪いことは言わない。ここはやめとけ」

「じゃ教授の代理の方とかは…」

僕は1つでも、受講の実績が欲しかったのだ。何とか教授に話だけでも聞きたい。
女子生徒が、目の前の男子生徒を指さしていた。

「これ。この人が代理人のニッキー」

「え?」

教授の代わりを生徒が?どういうことだろうか?

「ニッキー、いいじゃんやらせてみても」

「だめだ」

ニッキーと呼ばれた男は椅子から立ち上がると、シンクに歩いていってコーヒーをいれ始めた。

「ねぇあんた、なんでここに来たの?」

僕に向き直った女子生徒が、ぶっきらぼうに聞いてきた。僕はこの学校の志願理由を聞かれたものと思った。

「稼げる大人になりたいからです」

スプーンを回していた手を止めて、ニッキーが振り向いた。

「何んだと?」

「ほらー」

短髪女子がにやりと笑いながら言った。

「お前、魔導トレードを知ってるのか?」

「?」

何がなんだか分からずに、僕はポカンとするほかなかった。 
テーブルの上は大量の紙が散乱していた。紙には何やらグラフのような、表のようなものがたくさん印刷してあった。
そのテーブルを挟んで、僕はニッキーさんの話を聞いている。

「いいか。この魔導トレード科は、他の教科とは全く違う。下手したらマジで死ぬ」

「は?」

「ビビらせすぎだよー」

「イルダ!シモン教授が飛んた理由、わかってんのか?」

「そうだけど」

「だが、稼げるというのも事実だ。だから本気で稼ぎたいというなら…止めない」

ニッキーは真面目な顔で続けた。

「ここでは全てが実戦で実弾だから、被弾するとリアルに喰らう。当然出血もするし、下手したら死ぬ。それはこれが現実だからだ」

戦争でもしているのだろうか?
僕の脳はニッキーの話が理解できずにいたので、アホな顔をしていたのだろう。
堪りかねたイルダさんが割って入った。

「あんたの説明じゃ何もわっかんないよ。あたしが簡潔に説明すっか?」

イルダさんが椅子にドカッと座って言った。

「で、あんたまだ時間あんの?」

…この時僕が断って次の科へ行っていたら、その後の人生は全然違うものになっていただろう。
だが、僕はこう言ったんだ。

「はい」
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