魔導デイトレード戦記

高根 甲信

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6.パプル

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夕焼けが窓を通して部屋に入り込み、壁一面が赤い。

「……目を覚ませ……」

声がした気がして起き上がると、僕は自分の部屋のベッドにいた。魔導トレード科にいたはずだったが、その後の記憶が無い。

誰かが部屋まで運んでくれたに違いないが、一体誰が?

軽く頭を振って目を擦る。思わず独り言が口から出た。

「そういえば、誰かが僕を呼んでた気がする…」

「そうだよ」

壁の方から声がして、僕はびっくりした。
ガバっと身を起こし、辺りを注視したが、誰もいない…

恐る恐る声がした方へ話しかけてみる。

「誰かいるの?」

「いるよ、アレイシ」

「???」

目を凝らしてみても、肩掛けカバンとパプルの他には何もない。

「何怯えてんのさ?相棒のこと忘れたの?」

当たり前のように立ち上がった白猫は、プルプルと頭を振って、しなやかな動きで僕の近くへ歩いてきた。

「うそ…」

壊れる前のパプルの動きじゃない。これじゃまるで本物の猫だ。会話までしている。
耳をピクピクさせた白猫は、喋り始めた。

「気分はどう?ちょっと大容量のデータを一気にダウンロードしたから、魔導地場に影響が出たんだろうな」

白猫が何を言っているのか、僕には理解できなかった。そして、目の前の現実が信じられなかった。

「僕は再起動したんだよ。魔導トレードシステムで新しく」

「きみはパプルなの?」

「そうだね。この魔導ロイドのメモリーは全て保護してるから、ベースは完全にパプルだよ。だけど、かなりドラスティックにアップデートしちゃったから、そうでないとも言えるかな…ーーんっ?」

「パプル!」

僕は小さな白猫を胸に抱いて、優しく頭を撫でていた。確かにパプルに違いない。
この白猫は、僕が子供の頃に泣いた僕のために、両親が無理をして買ってくれた魔導ロイドだ。家族なのだ。

細くて柔らかい尻尾を擦り付けてくる様は、生きている猫そのものだ。

「ゴロゴロゴロ……って、それより」

そう言うとパプルはスルッと僕の腕を抜け出したかと思うと、窓枠にジャンプした。

いつの間にか夕焼けはほとんど闇に溶け、代わりに藍色の闇が世界を支配しようとしていた。

パプルは頭をプルプルっと振ってから、座って前足を舐め始めた。

「伝えることが3つある」

毛づくろいはやめないでも、話はできるようだ。

「1つ目。君をここまで運んできたのは、ニッキーだよ。手伝ったのはジョエルとイルダ。明日お礼を言ったほうがいいね」

「2つ目。ジョエルは魔導医療科に入ったよ。アレイシと一緒が良かったみたいだけど、彼には彼なりの事情があったみたい」

「3つ目。君は魔導トレードをしようとしてるよね。恐らく資金を溶かしちゃうから、やめたほうがいいよ」

パプルは事務的に話し終えると、ぴょんと窓から飛び降り、今度は僕のベッドで丸くなった。

僕は聞いた。

「魔導トレードは、やめたほうがいいってこと?」

「うん。勝ち続ける人は5%未満だから」

僕は驚いた。

「どうしてそんなことを知ってるの?」

「どうしてって?データベースにあるから」

「なんでそんなデータベースがパプルにあるの?」

「最新のスーパーマーケットトレードシステム(SMTS)が常時起動してるからかな」

「どういうこと?トレードのことが分かるの?先の事が分かったりするの?」

「分析はできるけど、先読みは無理だね」

「分析?じゃあ、僕の先生になってトレードを教えてよ。君がついていてくれたら、勝ち続ける5%の中に入れるんじゃないの?」

パプルは前足を舐めるのを止めて、僕を見た。

「…確かにそうかも知れない」

ぐううう

僕は、まるで本物の子猫と会話しているような、不思議な気持ちになっていたが、空腹に気づいて現実に戻った。
「夕食作るけど食べる?」
「食べないって」
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