魔導デイトレード戦記

高根 甲信

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17.日曜日

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日曜日の午後。
僕は遅めの昼食に、リベイクしたバゲットを食べていた。多少硬くなっても、少し水を振って火を通せば、焼きたてみたいになるんだ。チーズを乗せれば、極上ランチの出来上がりだ。

「それにしても、そろそろ食料を買いに行かないといけないな」

パンをかじりながらつぶやく。
そのためには、魔導銀行へも行かなければならない。僕はパプルに聞いた。

「日曜日は銀行やってたっけ」

「魔導銀行は年中無休でやっているよ」

「最高」

僕のこのあとの用事は決まった。

昨日は1日、シモン教授のノートを読みふけっていた。分からないところはパプルが教えてくれたから、大体理解できた。
改めて思い知ったのは、『シモン教授は凄い』ということだった。
鉄の掟もノートに書いてあった。あれは、教授の実践から導き出された答えだった。

風を入れるために窓を開けると、遠くに元気なヒバリの声が聞こえた。あの時、助けた子だったらいいな…
目を閉じて集中すると、視界はヒバリのそれになって行き、眼下に街が小さく見えてくる。
学校があった。見慣れた校門から街へ繋がる道を誰かが歩いている。
あれ、ジョエル…?
その横を誰かが一緒に歩いているのが見える。
僕の知らない女の子だった。魔導医療科の子だろうか。
ジョエルはここ最近元気がなかったから、ガールフレンドができたんなら元気も出るだろう。

「ジョエルは案外モテるんだな…」

嬉しい気持ちとモヤモヤした気持ちが混ざって、思わず口に出てしまった。

「ジョエルがどうしたって?」

パプルの声に、僕の意識は一気に戻ってきた。『何でもないよ』と言って僕は、少し冷えたパンをかじった。


イペーの街路樹が黄色に彩る道を、ジョエルとサンドラは歩いていた。
ジョエルはノルマのお母さんに頼まれて、お昼を届けに来た帰り。サンドラはノルマを手伝いに来たのだが、不要だと追い返されて。2人は揃って学校をあとにする事になったのだった。
サンドラは、ジョエルが幼い頃からノルマを知っていると分かって、羨ましいと言った。

「ノルマ先輩って、昔からああいう人なの?」

「うん。全然変わんない」

ふたりが思う『ああいう人』のイメージは違っていたが、なぜか話が通じ合うのが不思議だ。

「もし今度の最終試験がうまくいったら、どうなるんだろうね」

「そうねえ、今度は臨床試験になるんじゃないかな」

「…凄いよね。もしこの技術がうまくいったら、どんなケガでも治せるようになるのかもしれないなんて、なんか夢みたいだ」

「うん。そしてこんな地道な努力に、心血を注げるノルマ先輩って本当に素敵よね。ジョエルもそう思わない?」

「そ、そうだね」

「私憧れるわ」

駅に着くまでいろんな話をした2人だったが、やがてお互いにイヌの魔導ロイドを持っているのを知ったとき、距離は一気に縮まった。

「ほんと?どんなタイプのマドロイドなの?」

「ぼくのはタックスタイプだけど、サンドラのは?」

「私んちの子は、ジバ。このくらいの大きさでね…」

話が盛り上がってきた頃に、駅に着いた。
なんとなく話し足りないのに、ジョエルは話を打ち切って言った。

「じゃあ…またいつか見せてよ、サンドラのジバ」

「いいよ。その代わりジョエルのタックスも見せてよ」

ホームに電車到着を知らせるアナウンスが流れて、サンドラはカバンを抱え上げた。
じゃあと行きかけて、ジョエルに言った。

「CJ。私のジバの名前。ジョエルのタックスは何んて名前?」

「…カカウ」

「可愛い名前」

そう言うと、サンドラはまた明日と手を振ってホームに消えた。
やがてジョエルもバスを捕まえるために歩き出したが、人混みの中にいても今は不思議と孤独を感じなかった。



お金を引き出すために、僕は駅の近くの魔導銀行にいた。
僕が魔導現金預け払い機を操作するのを、肩掛けカバンの中から相棒の白猫は面白そうに見ていたが、僕だけに聞こえるように言った。

「アレイシは自分で魔導トレードする気ないの?」

いつかはやってみたいと思っていたところだったので、『やるつもりだよと』小声で答えた。

「そうだろうね」

パプルは続ける。

「そうしたら、自分の魔導銀行と魔導トレードを結ばないといけないよ。手伝おうか?」

そう僕はそう言われて答えた。

「うん。その時はお願い」

「了解」

答えたパプルの目がチカチカと明滅したのを、僕は見落とした。
だって、その時はお願いっていったよね。
その時はって。
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