魔導デイトレード戦記

高根 甲信

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18.板

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昨日買ったという青いペンを自慢するジョエルは、すっかり元気になっていた。
その姿に、僕はホッとした。友人が元気だと、こっちも元気がでる。
ジョエルは昨日の女子のことは言わなかったので、僕もあえて聞くことはしなかった。

魔導高校は、2週目が始まった。
入学した途端に退学の危機なんて、両親にはとても言えない。
今日は4月14日。
タイムリミットまで残り98日。
ニッキー先輩の表によると、土日を除いた日数はもう68日しかないらしい。

「ここを使え」

と先輩が用意してくれた壁側のトレードスペースが、僕の席だった。
黒いシートにグレーの魔導コンピューター。そして何より目の前の大きなモニターが目を引く。

「ノートは読んだな」

「はい!」

「でも、今日も売り買いはするな。まずは魔獣の動きを見て、頭の中だけで買ったり売ったりしてみろ」

ニッキー先輩がそう言っていなくなると、
いよいよ自分の魔獣トレードが始まるのかと、ドキドキした。

「僕達はやれることをやっていこう」

僕の相棒はそう言うと、躊躇することなく魔導コンピューターのスイッチを入れた。
鈍い振動の後、ゆっくり画面が立ち上がってくる。
もはや見慣れた、あのローソク足だった。

「どう?画面の意味覚えてる?」

「うん」

表示されているのは『フミクラ』という魔獣らしい。見ると、チャートは日足(ローソク1本が1日)だった。右肩上がりの1本調子のチャートだ。連戦連勝ってことは、相当強い魔獣なのだろう。

「順張りっていう戦略がある」

パプルが、日足チャートを見つめながら言った。

「じゅんばり」

初めて聞く言葉だった。

「こういう魔獣に効く戦略だね。一旦、一方方向に動き出した魔獣は、こんなふうに動きが続きやすいんだ」

「動く方向の事を『トレンド』っていうんだけど、そのトレンドに乗っかるからトレンドフォロー、つまり順張り」

僕は夢で見た、魔獣の戦いを思い出していた。確かに圧倒的に強ければ、何もしなくても勝ち続けるだろう。ギミックなどは必要ない。

「順張りは、トレンドがある強い魔獣を手に入れて、もっと強く価値が高くなったら売ることだよ」

「えっとつまり、強い奴は強いんだから、多少負けたとしても最後には勝ち上がるってことかな」

「良い答えだ」

パプルが、尻尾をクルクルさせて言った。
ここからは実戦になると前置きして、説明を続けた。
上昇トレンドの時であっても、いつでも魔獣を買っていい訳じゃない。魔獣だって生き物だから調子が悪い日もある。だから強い魔獣が調子を崩した時や、魔獣使いがブラフをしかけた時が狙い目なんだという。

「こういう上昇(アップ)トレンドの、一時的に下げた場所の事を『押し目』というよね」

「おしめ…」

「どんどん行くよ。チャートを秒足にしてみて」

僕はチャートを1秒刻みに調整した。

「生きてる!」

画面に現れるチャートは、一秒刻みでローソクが形成されていて、目まぐるしく上がったり下がったりを続けている。

「アレイシ、右上の『板』」を表示させてみて」

言われた通りにすると新しい画面が1つ追加され、そこにたくさんの数字が動き回っていた。

「よく見て。上のローソクとこの『板』は、同じものなんだけど分かるかな」

『板』の中央に真っ直ぐ縦に数字が並んでいる。それを挟むように左右に数字が並んでいた。
「真ん中がこの魔獣の状態…というか価値で、右が『フミクラ』、左側が相手の魔獣の…そうだな、それぞれの攻撃力。でね、この魔獣『フミクラ』と相手の魔獣がここでお互い戦ってる。攻撃の最前線がここ」

画面の中央を尻尾で指しながら、パプルは続ける。

「お互いの攻撃力が同じ強さなら、数字は相殺されてなくなり、勝負はつかない。つまり数字は動かない。
だけど一方の攻撃力が強ければ、相手の攻撃力はなくなって攻め込まれるから、そちらの方向へ動いていくわけだ」

『板』の中央の、右と左の数字がなくなっている場所が、いわば戦いの最前線なのだ。
センターの数字4850で、『フミクラ』の攻撃5000が相手の攻撃3000とぶつかっている。
相手の攻撃が消え、一段数字が上がって4860になる。すかさず『フミクラ』の攻撃が500.1000.2000と増え始め、相手の攻撃が削られてなくなってしまうと、また一つ数字は上昇して4870になった。

目まぐるしく動く生き物のような数字に、一気に吸い込まれていく。そして僕の頭は数字の動きを、魔獣同士の戦いに徐々に変換していく。

「アレイシ?」 

パプルの声は届いていなかった。
次第に魔獣どうしの姿が、頭の中で鮮明になっていく。魔獣『フミクラ』は想像以上に大きくて、思わず息を呑む。直感で、強烈に『強い』と分かった。
相手はどす黒い塊のようなものだったが、絶対に負けるはずがない。そのビジョンは、もはや現実だった。

「視える…」

攻撃を受けて『フミクラ』が後退していくのだが、それは魔獣使いのブラフなのがみえみえだった。

「フミクラ、買いだ…」

つぶやいた瞬間、パプルの目がチカチカと点滅して、機械音声がパプルの口から呪文のように流れる。

「5803…フミクラ…ロング…

見ていたのは誰もいない。
もちろん僕自身も、何が起こったか分かってはいなかった。

…建値4560…lot…」

震える咆哮と共に、『フミクラ』が暗闇を吹き飛ばす。『フミクラ』の頭上チャートが赤く跳ね上がって行く。噛みつき、薙ぎ祓い、吹き飛ばす。『フミクラ』の強さは圧倒的だった。
僕はニッキー先輩に呼ばれて我に返るまで、脳内ビジョンの中で魔獣『フミクラ』が、暗闇相手に圧倒し続ける姿を見続けていた。
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