18 / 27
18.板
しおりを挟む
昨日買ったという青いペンを自慢するジョエルは、すっかり元気になっていた。
その姿に、僕はホッとした。友人が元気だと、こっちも元気がでる。
ジョエルは昨日の女子のことは言わなかったので、僕もあえて聞くことはしなかった。
魔導高校は、2週目が始まった。
入学した途端に退学の危機なんて、両親にはとても言えない。
今日は4月14日。
タイムリミットまで残り98日。
ニッキー先輩の表によると、土日を除いた日数はもう68日しかないらしい。
「ここを使え」
と先輩が用意してくれた壁側のトレードスペースが、僕の席だった。
黒いシートにグレーの魔導コンピューター。そして何より目の前の大きなモニターが目を引く。
「ノートは読んだな」
「はい!」
「でも、今日も売り買いはするな。まずは魔獣の動きを見て、頭の中だけで買ったり売ったりしてみろ」
ニッキー先輩がそう言っていなくなると、
いよいよ自分の魔獣トレードが始まるのかと、ドキドキした。
「僕達はやれることをやっていこう」
僕の相棒はそう言うと、躊躇することなく魔導コンピューターのスイッチを入れた。
鈍い振動の後、ゆっくり画面が立ち上がってくる。
もはや見慣れた、あのローソク足だった。
「どう?画面の意味覚えてる?」
「うん」
表示されているのは『フミクラ』という魔獣らしい。見ると、チャートは日足(ローソク1本が1日)だった。右肩上がりの1本調子のチャートだ。連戦連勝ってことは、相当強い魔獣なのだろう。
「順張りっていう戦略がある」
パプルが、日足チャートを見つめながら言った。
「じゅんばり」
初めて聞く言葉だった。
「こういう魔獣に効く戦略だね。一旦、一方方向に動き出した魔獣は、こんなふうに動きが続きやすいんだ」
「動く方向の事を『トレンド』っていうんだけど、そのトレンドに乗っかるからトレンドフォロー、つまり順張り」
僕は夢で見た、魔獣の戦いを思い出していた。確かに圧倒的に強ければ、何もしなくても勝ち続けるだろう。ギミックなどは必要ない。
「順張りは、トレンドがある強い魔獣を手に入れて、もっと強く価値が高くなったら売ることだよ」
「えっとつまり、強い奴は強いんだから、多少負けたとしても最後には勝ち上がるってことかな」
「良い答えだ」
パプルが、尻尾をクルクルさせて言った。
ここからは実戦になると前置きして、説明を続けた。
上昇トレンドの時であっても、いつでも魔獣を買っていい訳じゃない。魔獣だって生き物だから調子が悪い日もある。だから強い魔獣が調子を崩した時や、魔獣使いがブラフをしかけた時が狙い目なんだという。
「こういう上昇(アップ)トレンドの、一時的に下げた場所の事を『押し目』というよね」
「おしめ…」
「どんどん行くよ。チャートを秒足にしてみて」
僕はチャートを1秒刻みに調整した。
「生きてる!」
画面に現れるチャートは、一秒刻みでローソクが形成されていて、目まぐるしく上がったり下がったりを続けている。
「アレイシ、右上の『板』」を表示させてみて」
言われた通りにすると新しい画面が1つ追加され、そこにたくさんの数字が動き回っていた。
「よく見て。上のローソクとこの『板』は、同じものなんだけど分かるかな」
『板』の中央に真っ直ぐ縦に数字が並んでいる。それを挟むように左右に数字が並んでいた。
「真ん中がこの魔獣の状態…というか価値で、右が『フミクラ』、左側が相手の魔獣の…そうだな、それぞれの攻撃力。でね、この魔獣『フミクラ』と相手の魔獣がここでお互い戦ってる。攻撃の最前線がここ」
画面の中央を尻尾で指しながら、パプルは続ける。
「お互いの攻撃力が同じ強さなら、数字は相殺されてなくなり、勝負はつかない。つまり数字は動かない。
だけど一方の攻撃力が強ければ、相手の攻撃力はなくなって攻め込まれるから、そちらの方向へ動いていくわけだ」
『板』の中央の、右と左の数字がなくなっている場所が、いわば戦いの最前線なのだ。
センターの数字4850で、『フミクラ』の攻撃5000が相手の攻撃3000とぶつかっている。
相手の攻撃が消え、一段数字が上がって4860になる。すかさず『フミクラ』の攻撃が500.1000.2000と増え始め、相手の攻撃が削られてなくなってしまうと、また一つ数字は上昇して4870になった。
目まぐるしく動く生き物のような数字に、一気に吸い込まれていく。そして僕の頭は数字の動きを、魔獣同士の戦いに徐々に変換していく。
「アレイシ?」
パプルの声は届いていなかった。
次第に魔獣どうしの姿が、頭の中で鮮明になっていく。魔獣『フミクラ』は想像以上に大きくて、思わず息を呑む。直感で、強烈に『強い』と分かった。
相手はどす黒い塊のようなものだったが、絶対に負けるはずがない。そのビジョンは、もはや現実だった。
「視える…」
攻撃を受けて『フミクラ』が後退していくのだが、それは魔獣使いのブラフなのがみえみえだった。
「フミクラ、買いだ…」
つぶやいた瞬間、パプルの目がチカチカと点滅して、機械音声がパプルの口から呪文のように流れる。
「5803…フミクラ…ロング…
見ていたのは誰もいない。
もちろん僕自身も、何が起こったか分かってはいなかった。
…建値4560…lot…」
震える咆哮と共に、『フミクラ』が暗闇を吹き飛ばす。『フミクラ』の頭上チャートが赤く跳ね上がって行く。噛みつき、薙ぎ祓い、吹き飛ばす。『フミクラ』の強さは圧倒的だった。
僕はニッキー先輩に呼ばれて我に返るまで、脳内ビジョンの中で魔獣『フミクラ』が、暗闇相手に圧倒し続ける姿を見続けていた。
その姿に、僕はホッとした。友人が元気だと、こっちも元気がでる。
ジョエルは昨日の女子のことは言わなかったので、僕もあえて聞くことはしなかった。
魔導高校は、2週目が始まった。
入学した途端に退学の危機なんて、両親にはとても言えない。
今日は4月14日。
タイムリミットまで残り98日。
ニッキー先輩の表によると、土日を除いた日数はもう68日しかないらしい。
「ここを使え」
と先輩が用意してくれた壁側のトレードスペースが、僕の席だった。
黒いシートにグレーの魔導コンピューター。そして何より目の前の大きなモニターが目を引く。
「ノートは読んだな」
「はい!」
「でも、今日も売り買いはするな。まずは魔獣の動きを見て、頭の中だけで買ったり売ったりしてみろ」
ニッキー先輩がそう言っていなくなると、
いよいよ自分の魔獣トレードが始まるのかと、ドキドキした。
「僕達はやれることをやっていこう」
僕の相棒はそう言うと、躊躇することなく魔導コンピューターのスイッチを入れた。
鈍い振動の後、ゆっくり画面が立ち上がってくる。
もはや見慣れた、あのローソク足だった。
「どう?画面の意味覚えてる?」
「うん」
表示されているのは『フミクラ』という魔獣らしい。見ると、チャートは日足(ローソク1本が1日)だった。右肩上がりの1本調子のチャートだ。連戦連勝ってことは、相当強い魔獣なのだろう。
「順張りっていう戦略がある」
パプルが、日足チャートを見つめながら言った。
「じゅんばり」
初めて聞く言葉だった。
「こういう魔獣に効く戦略だね。一旦、一方方向に動き出した魔獣は、こんなふうに動きが続きやすいんだ」
「動く方向の事を『トレンド』っていうんだけど、そのトレンドに乗っかるからトレンドフォロー、つまり順張り」
僕は夢で見た、魔獣の戦いを思い出していた。確かに圧倒的に強ければ、何もしなくても勝ち続けるだろう。ギミックなどは必要ない。
「順張りは、トレンドがある強い魔獣を手に入れて、もっと強く価値が高くなったら売ることだよ」
「えっとつまり、強い奴は強いんだから、多少負けたとしても最後には勝ち上がるってことかな」
「良い答えだ」
パプルが、尻尾をクルクルさせて言った。
ここからは実戦になると前置きして、説明を続けた。
上昇トレンドの時であっても、いつでも魔獣を買っていい訳じゃない。魔獣だって生き物だから調子が悪い日もある。だから強い魔獣が調子を崩した時や、魔獣使いがブラフをしかけた時が狙い目なんだという。
「こういう上昇(アップ)トレンドの、一時的に下げた場所の事を『押し目』というよね」
「おしめ…」
「どんどん行くよ。チャートを秒足にしてみて」
僕はチャートを1秒刻みに調整した。
「生きてる!」
画面に現れるチャートは、一秒刻みでローソクが形成されていて、目まぐるしく上がったり下がったりを続けている。
「アレイシ、右上の『板』」を表示させてみて」
言われた通りにすると新しい画面が1つ追加され、そこにたくさんの数字が動き回っていた。
「よく見て。上のローソクとこの『板』は、同じものなんだけど分かるかな」
『板』の中央に真っ直ぐ縦に数字が並んでいる。それを挟むように左右に数字が並んでいた。
「真ん中がこの魔獣の状態…というか価値で、右が『フミクラ』、左側が相手の魔獣の…そうだな、それぞれの攻撃力。でね、この魔獣『フミクラ』と相手の魔獣がここでお互い戦ってる。攻撃の最前線がここ」
画面の中央を尻尾で指しながら、パプルは続ける。
「お互いの攻撃力が同じ強さなら、数字は相殺されてなくなり、勝負はつかない。つまり数字は動かない。
だけど一方の攻撃力が強ければ、相手の攻撃力はなくなって攻め込まれるから、そちらの方向へ動いていくわけだ」
『板』の中央の、右と左の数字がなくなっている場所が、いわば戦いの最前線なのだ。
センターの数字4850で、『フミクラ』の攻撃5000が相手の攻撃3000とぶつかっている。
相手の攻撃が消え、一段数字が上がって4860になる。すかさず『フミクラ』の攻撃が500.1000.2000と増え始め、相手の攻撃が削られてなくなってしまうと、また一つ数字は上昇して4870になった。
目まぐるしく動く生き物のような数字に、一気に吸い込まれていく。そして僕の頭は数字の動きを、魔獣同士の戦いに徐々に変換していく。
「アレイシ?」
パプルの声は届いていなかった。
次第に魔獣どうしの姿が、頭の中で鮮明になっていく。魔獣『フミクラ』は想像以上に大きくて、思わず息を呑む。直感で、強烈に『強い』と分かった。
相手はどす黒い塊のようなものだったが、絶対に負けるはずがない。そのビジョンは、もはや現実だった。
「視える…」
攻撃を受けて『フミクラ』が後退していくのだが、それは魔獣使いのブラフなのがみえみえだった。
「フミクラ、買いだ…」
つぶやいた瞬間、パプルの目がチカチカと点滅して、機械音声がパプルの口から呪文のように流れる。
「5803…フミクラ…ロング…
見ていたのは誰もいない。
もちろん僕自身も、何が起こったか分かってはいなかった。
…建値4560…lot…」
震える咆哮と共に、『フミクラ』が暗闇を吹き飛ばす。『フミクラ』の頭上チャートが赤く跳ね上がって行く。噛みつき、薙ぎ祓い、吹き飛ばす。『フミクラ』の強さは圧倒的だった。
僕はニッキー先輩に呼ばれて我に返るまで、脳内ビジョンの中で魔獣『フミクラ』が、暗闇相手に圧倒し続ける姿を見続けていた。
0
あなたにおすすめの小説
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる