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21.迷い
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『魔導細胞が実用化へ!?』
こんな大見出しの記事が新聞の1面に載ったのは、5月の初めのことだった。
ノルマと理事長の握手する写真が大きく貼られていた。記事には夢の新技術がラボの試験をクリアして、いよいよ臨床試験になると書かれてあった。
どんなところにもパッチとして使える有用性、副作用がない特殊性、施術後の優れた適合性などは、術後の回復や欠損部の再生に優れた性能を発揮する。あらゆる症例に対する夢の技術だった。
「この学校から、スターが生まれるとはなー」
ニッキー先輩が、新聞を読みながら言う。
「イルダ先輩は、ノルマさんを知ってるんですか?同級生なんでしょ?」
「ん、よく知んにゃい」
今日も魔獣戦争がお休みだそうで、僕達はしばしの休暇中だ。なぜか毎年、4月の終わりから5月初めは、戦争が休みになるそうだ。理由は分からない。
僕は今日もシモン教授の『魔導トレード戦記』を読んで、勉強している。
すでにほとんどの内容は頭の中に入ってはいたが、それが血となり肉となるまで繰り返すのだ。
「この医療技術が本物なら、マジで凄いことだな。不可能を可能にするかもしれない」
「本当ですよね。不治の病が、もしかしたら治る病になるかもしれないんですもんね」
「ああ、こうした研究が未来を作るんだ。みんなで支援しないとな」
「ですよね!」
「だにゃ」
思い出したように、イルダ先輩が頭のうえにパプルを乗せたまま『あのさあ』と言った。
「ニッキーは、本とか読む?」
「なんだ?唐突だな…どうした?」
「実はあたし、こう見えて結構読むんだよ…」
「え…」
意外すぎて、ぼくはイルダ先輩を二度見した。
「でね、『ラストウィザーズ』っての読みたいんだけど、もうお店に売ってないんだ。持ってないかなーって思って」
「ああ、話題のやつか。持ってないな」
「アレイシは持ってないの?」
「僕も持ってません」
「もー、誰か持ってないの?」
「あ…」
「あ…って、今、持ってる人思い出したって、感じしたよ!だれ?」
思わず『あ』なんて声が出てしまった事を後悔しつつ、嘘はつけないので正直にいう。
「友達が」
「ねえ、アレイシ、お願い!無理なら諦めるけど、貸してもらえないかいっぺん聞いてみてよ、その友達にさ」
何度もお願いされて僕は仕方なく、聞くだけ聞いてみますと答えるしかなかった。
次の日は、朝から小雨が降っていた。
学校の玄関で、僕はジョエルに出会った。
ここで上履きに履き替えて、校舎にはいるのだ。
「おはよう」
「新聞見たよ。ノルマさんも魔導医療科も、一躍時の人だね」
ジョエルは浮かない顔で答える。
「僕ら何も変わってないのに、周りが急にぼくらの扱いを変えただけだよ」
「…ええと、…なんか大変そうだね…」
ジョエルや魔導医療科としては、新聞記事には何か思うところがあるようだと思って、僕は話題を変えた。
「この間、『ラストウィザーズ』って本読んでるって言ってたよね。最後まで読んだの?」
「あの本ね?面白かったよ。アレイシも読みたくなった?」
「いや…あのね、同じ科の先輩が、誰か貸してくれないかって探してて…もしよかったら…」
そう僕が言いかけたとき、後ろから声がした。
「都合のいいこと!」
「?」
サンドラだった。
見たところ、彼女はなぜか友好的ではない。
「読みたければ、自分で手に入れて読めばいいじゃない」
「サンドラ」
「そうしたいけど、お店で売ってないんだよ」
僕は説明しようとしたが、彼女の言いたいことは、本の話なんかではなかったようだった。
「あなたたちって、いつもそう。自分達は手を汚さずに、他人の手間や努力を掠め取ろうとしてる!」
「サンドラ。やめなよ」
「僕達は、そんなことしてないよ」
「自覚もないのね!…魔獣戦争って言ったって、魔獣同士はお互い死ぬ気で戦ってるだろうに、お金の道具にしか見ていないじゃない」
ジョエルが、サンドラに近づいてなだめるが、ヒートアップした彼女はなかなか収まらない。
「彼らだって、傷つけば痛いし血も出るでしょう、みんな生きているのに。自分達だけ安全なところにいて!」
「サンドラ!」
何事かと野次馬が集まりかけているのに気づいたジョエルは、『また後でね』と僕に言うと、サンドラの手を引いてその場から立ち去った。
ショックだった。
そんな事を考えたことは、今まで一度もなかった。
なにより、サンドラに言われた事が、完全に正しかったことに衝撃を受けた。
『ぼくは…』
こんな大見出しの記事が新聞の1面に載ったのは、5月の初めのことだった。
ノルマと理事長の握手する写真が大きく貼られていた。記事には夢の新技術がラボの試験をクリアして、いよいよ臨床試験になると書かれてあった。
どんなところにもパッチとして使える有用性、副作用がない特殊性、施術後の優れた適合性などは、術後の回復や欠損部の再生に優れた性能を発揮する。あらゆる症例に対する夢の技術だった。
「この学校から、スターが生まれるとはなー」
ニッキー先輩が、新聞を読みながら言う。
「イルダ先輩は、ノルマさんを知ってるんですか?同級生なんでしょ?」
「ん、よく知んにゃい」
今日も魔獣戦争がお休みだそうで、僕達はしばしの休暇中だ。なぜか毎年、4月の終わりから5月初めは、戦争が休みになるそうだ。理由は分からない。
僕は今日もシモン教授の『魔導トレード戦記』を読んで、勉強している。
すでにほとんどの内容は頭の中に入ってはいたが、それが血となり肉となるまで繰り返すのだ。
「この医療技術が本物なら、マジで凄いことだな。不可能を可能にするかもしれない」
「本当ですよね。不治の病が、もしかしたら治る病になるかもしれないんですもんね」
「ああ、こうした研究が未来を作るんだ。みんなで支援しないとな」
「ですよね!」
「だにゃ」
思い出したように、イルダ先輩が頭のうえにパプルを乗せたまま『あのさあ』と言った。
「ニッキーは、本とか読む?」
「なんだ?唐突だな…どうした?」
「実はあたし、こう見えて結構読むんだよ…」
「え…」
意外すぎて、ぼくはイルダ先輩を二度見した。
「でね、『ラストウィザーズ』っての読みたいんだけど、もうお店に売ってないんだ。持ってないかなーって思って」
「ああ、話題のやつか。持ってないな」
「アレイシは持ってないの?」
「僕も持ってません」
「もー、誰か持ってないの?」
「あ…」
「あ…って、今、持ってる人思い出したって、感じしたよ!だれ?」
思わず『あ』なんて声が出てしまった事を後悔しつつ、嘘はつけないので正直にいう。
「友達が」
「ねえ、アレイシ、お願い!無理なら諦めるけど、貸してもらえないかいっぺん聞いてみてよ、その友達にさ」
何度もお願いされて僕は仕方なく、聞くだけ聞いてみますと答えるしかなかった。
次の日は、朝から小雨が降っていた。
学校の玄関で、僕はジョエルに出会った。
ここで上履きに履き替えて、校舎にはいるのだ。
「おはよう」
「新聞見たよ。ノルマさんも魔導医療科も、一躍時の人だね」
ジョエルは浮かない顔で答える。
「僕ら何も変わってないのに、周りが急にぼくらの扱いを変えただけだよ」
「…ええと、…なんか大変そうだね…」
ジョエルや魔導医療科としては、新聞記事には何か思うところがあるようだと思って、僕は話題を変えた。
「この間、『ラストウィザーズ』って本読んでるって言ってたよね。最後まで読んだの?」
「あの本ね?面白かったよ。アレイシも読みたくなった?」
「いや…あのね、同じ科の先輩が、誰か貸してくれないかって探してて…もしよかったら…」
そう僕が言いかけたとき、後ろから声がした。
「都合のいいこと!」
「?」
サンドラだった。
見たところ、彼女はなぜか友好的ではない。
「読みたければ、自分で手に入れて読めばいいじゃない」
「サンドラ」
「そうしたいけど、お店で売ってないんだよ」
僕は説明しようとしたが、彼女の言いたいことは、本の話なんかではなかったようだった。
「あなたたちって、いつもそう。自分達は手を汚さずに、他人の手間や努力を掠め取ろうとしてる!」
「サンドラ。やめなよ」
「僕達は、そんなことしてないよ」
「自覚もないのね!…魔獣戦争って言ったって、魔獣同士はお互い死ぬ気で戦ってるだろうに、お金の道具にしか見ていないじゃない」
ジョエルが、サンドラに近づいてなだめるが、ヒートアップした彼女はなかなか収まらない。
「彼らだって、傷つけば痛いし血も出るでしょう、みんな生きているのに。自分達だけ安全なところにいて!」
「サンドラ!」
何事かと野次馬が集まりかけているのに気づいたジョエルは、『また後でね』と僕に言うと、サンドラの手を引いてその場から立ち去った。
ショックだった。
そんな事を考えたことは、今まで一度もなかった。
なにより、サンドラに言われた事が、完全に正しかったことに衝撃を受けた。
『ぼくは…』
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