魔導デイトレード戦記

高根 甲信

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26.居続けること

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「ネコちゃん来たー!」

僕が教室に入るなり、イルダ先輩が飛び掛ってきた。カバンからパプルを取り出すと、パプルを高く掲げながらおかしなダンスを踊り始めた。
はしゃぎすぎて、壊すのだけはやめてほしい。
ジョエルから借りた『ラストウィザーズ』を渡すと、イルダ先輩は飛び上がって喜んだ。
今日は5月29日。すでに50日が経ったことになる。
ニッキー先輩は、僕のルール破りのことについてはもう何も言わなかったが、現状について説明してくれた。

「今現在の目標と実績の差は、+25620エネだ」

「凄い、計画を上回ってるんですね」

「誤差だ。こんな程度のプラスは、いつでもマイナスになるからな」

それでもほぼ計画通り、50日も運用している先輩達は凄いと思った。僕は、壁の表に書いてある積算値を見て思わず声を出した。

「115万?!…これ、4月からの利益ですよね」

「そうだ」

「すごい…運用資金とは別に、稼いだ分ですよね」

「そうだな。今のところ総資産は223万くらいか」

ニッキー先輩が、チラッと時計を見た。12:30が近い。

「複利というものがある。もうけが出たら、それを全部トレードに回すんだ」

「…はあ」

「1%の利益を出すとして、10.000円なら100エネだが、1.000.000なら10.000エネになる。10.000.000なら100.000エネだ。元本…運転資金は常に全額を使い、最大のパフォーマンスが得るということが、資金を大きくする秘訣だろうな」

「そろそろ始まるよぉ」

イルダ先輩の声に、僕達は慌てて自分の席に戻った。

「落ち着いていこう」

こっそりと戻ってきたパプルが、机の脇に座って言った。  

12:30。
一気に数字が動き始める。弾幕のような歩み値が記録されていく。

「えんとりぃーッ!!」

イルダ先輩の声がした。

慎重になりすぎたのか、僕の謹慎明けのトレードは、可もなく不可もなくといった結果だった。

「それでいい」

ニッキー先輩はいつも通りだった。

「大負けしなければいいんだ。勝つときは自然に勝てるし利益も出る。そうでない時は、難しい時なんだ。無理するのが一番いけない」

「でもさあ、今回ばっかりはリミットがあるんだし、そんなこと言ってらんないじゃん」

イルダ先輩がやってきて言った。彼女はパプルを捕まえてスリスリしている。ニッキー先輩は『まあそうなんだが』と言って続けた。

「さっき言いかけた『複利』のことだ。俺たちは1日に1~3%の利益を目指しているが、それは資金が大きくなっても変わらない。ある程度までは、むしろロットが大きくなるほど、利益は取りやすくなったりする」

「でもさ、ロット増やしたときのコツコツドカンが怖いんだよ」

「それを防ぐのが、鉄の掟だ。トレードというのは長距離走だからな、最後まで走り続けなれなければ意味がない」

ニッキー先輩は、シンクに行ってコーヒーを作りながら言った。

僕は”長距離走”という言葉が、『魔導デイトレード戦記』が言いたかった事の核心に思えた。
勝つことよりも“負けない事”、”ここに居続ける事”が重要なのだと。
そう思うと、肩の力が抜けた。
全身が氷解していくような感覚がして、視界は確かに色を取り戻していた。
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