終わろうとした日、俺は学校一の美少女と出会う

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2.始まりの終わり

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数日後。休日、駅前でたまたま会った美咲先輩に捕まる。
「ちょうどよかった!手伝って!」
強引に渡されたのはスーパーの買い物袋。先輩の家まで荷物を運ぶ羽目になった俺は、途中で転んで卵を一パック割ってしまった。
「ごめん、俺……」
謝ろうとする俺に、先輩はなぜか大笑い。
「大丈夫、大丈夫! ちょっと割れただけじゃん。私のオムライスは多少アレンジされても美味しいから」

その朗らかな笑い声を聞いているうちに、胸の奥に溜まっていた重たいものがほんの少し軽くなる。


また別の日。河川敷に呼び出された俺は、思わず息をのんだ。
「じゃーん!」
そこにはアコースティックギターを抱えた美咲先輩。
「私、歌うの好きなんだよね。聴いてくれる?」
夕暮れの風に混じって流れる柔らかな歌声。
歌詞は拙くても、その声には不思議と温かさがあった。
「……下手だけど、なんか、悪くない」
そう呟くと、先輩は嬉しそうに笑った。
「死にたい気持ちって、声に出せないこと多いけどさ。歌にするとちょっと楽になるんだ」

「それって…」
その先の言葉を出すことは俺にはできなかった。

そして一か月。
少しずつ、俺は「死にたい」という感情から距離を取れるようになっていた。
美咲先輩と過ごす時間が、まるで浮き輪のように俺を水面へ押し上げてくれる。

 俺と先輩は、放課後に街を歩いたり、河川敷で他愛のない話をしたり、時には真剣に将来について語ったりした。

「夢なんてなくてもいいのよ。大事なのは、探すことをやめないこと」
「……先輩、強いですね」
「強い? ううん、弱いわよ。弱いからこそ、生きるの」

 そう言って笑う彼女の横顔は、どこまでもまぶしかった。
 俺は少しずつ前を向けるようになった。生きるのも悪くない、そう思えた。



 だが――ある朝。
 学校に着くと、教室中がざわめいていた。

「なぁ……聞いたか? 三年の宮原先輩、死んだって……」

「……え?」

 耳を疑った。職員室前では先生たちが蒼白な顔で話し込んでいる。
 「自宅で自殺したらしい」という断片的な言葉だけが耳に残る。

 足元が崩れ落ちたような感覚。呼吸が荒くなる。
 ――美咲先輩が? あんなに強く生きようとしていた人が?

「……嘘だろ」

俺の耳は、言葉を拒絶するように高い音を鳴らしていた。
先生たちの焦った声が遠ざかっていく。

……美咲先輩が?
あんなに強く笑っていた人が?

世界の色が、一瞬で抜け落ちた。


それからの俺は、ただ部屋に座っていた。食事も最低限。テレビもスマホもつけず、ただ時間が過ぎるのを待つだけ。死ぬ気力すら湧かなかった。
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