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5.対決
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日記を閉じた後も、頭の中で言葉がぐるぐると回っていた。
神宮寺崇。美咲先輩を追い詰め、笑顔の裏に傷を刻み、そして――最後には彼女を死に追いやった男。
「……許せない」
気がつくと、俺は声に出していた。
隣で同じように日記を睨んでいた彩花が、静かに頷く。
「私も。姉を殺したのは、神宮寺崇。絶対に……絶対に裁かなきゃ」
彼女の瞳は赤く充血していたが、その奥に燃える光は揺るがなかった。
⸻
翌日。俺と彩花は市内の警察署に向かった。
受け付けで事情を説明し、日記のコピーを差し出す。だが、神宮寺という名前を出した途端奥から警察官がやってきて奥の部屋へと通される。警察官の態度は冷ややかだった。結衣が差し出した分厚いファイルを、警察官は無造作に机の端へ置いた。
「お気持ちは分かりますが……証拠としては弱いですね」
抑揚のない声。目線はパソコン画面からほとんど動かない。
彩花の手が小刻みに震えている。
「でも、これは姉が――美咲が残した日記なんです! そこに全部……神宮寺崇にされたことが……!」
「ええ、読ませてもらいました。ただ、これはご本人の主観的な記録に過ぎません。加えて……」
言葉を濁す警察官の顔は、はっきりと「これ以上深入りはしたくない」と告げていた。
悠真は奥歯を噛みしめた。喉の奥から熱いものがこみ上げてくる。
「じゃあ、何を出せば動いてくれるんですか? 命を絶ってまで残した声すら届かないなら……もう、誰も救われないじゃないか!」
思わず机を叩くと、警察官は迷惑そうに眉をひそめた。
「お引き取りください。これ以上は……」
警察署を出た瞬間、冷たい夜風が二人を包んだ。
街の灯りが滲んで見えるのは、結衣が泣いているからか、それとも自分の目が潤んでいるからか。
「……やっぱり、無駄なんだね」
彩花がつぶやく。かすれた声は、まるで折れた小枝のように弱々しかった。
「学校も警察も、誰もお姉ちゃんを守ってくれなかった。今だって、誰も動かない。結局……」
彼女は声を震わせ、両手で顔を覆った。
「結局、お姉ちゃんは一人で……死んでいったんだ」
悠真は何も言えなかった。自分もまた、美咲を救えなかった一人だからだ。彼女の笑顔を、悩みを、もっと知ろうとしなかった。その罪悪感が胸を締め付ける。
気づけば拳に血がにじむほど爪を立てていた。
「彩花……」
声をかけても、彼女は首を振るばかりだった。
そのとき、不意に彩花が顔を上げた。涙で濡れた目が、夜の街灯に照らされて鋭く光る。
「ねぇ悠真。もし……もし正しいやり方で戦えないなら、別の方法を選んでもいいんじゃない?」
その声は震えていたが、奥底には確かな決意が宿っていた。
悠真の胸に、稲妻のような衝撃が走った。
正義は潰された。大人は沈黙した。なら、自分たちだけで――。
「……ネットだ」
絞り出すように言った言葉に、結衣が目を見開く。
「ネット?」
「ああ。学校も警察も黙らせる力を持ってるのは、結局あいつらの家の権力だ。でも、ネットにはそれは効かない。……美咲の声を、全国に響かせるんだ」
彩花はしばらく黙っていたが、やがて強く頷いた。
「……やろう。お姉ちゃんがどれだけ苦しんでたのか、全部暴こう。神宮寺崇も、あの父親も……絶対に逃がさない」
二人の視線が交わる。
その瞬間、胸の奥に燻っていた悔しさや怒りが、鋭い炎となって燃え上がった。
守れなかった過去は、もう変えられない。
だが――未来を変えることはできる。
「行こう、彩花。俺たちで……美咲先輩の無念を晴らすんだ」
夜空に浮かぶ月が、静かに二人を見下ろしていた。
神宮寺崇。美咲先輩を追い詰め、笑顔の裏に傷を刻み、そして――最後には彼女を死に追いやった男。
「……許せない」
気がつくと、俺は声に出していた。
隣で同じように日記を睨んでいた彩花が、静かに頷く。
「私も。姉を殺したのは、神宮寺崇。絶対に……絶対に裁かなきゃ」
彼女の瞳は赤く充血していたが、その奥に燃える光は揺るがなかった。
⸻
翌日。俺と彩花は市内の警察署に向かった。
受け付けで事情を説明し、日記のコピーを差し出す。だが、神宮寺という名前を出した途端奥から警察官がやってきて奥の部屋へと通される。警察官の態度は冷ややかだった。結衣が差し出した分厚いファイルを、警察官は無造作に机の端へ置いた。
「お気持ちは分かりますが……証拠としては弱いですね」
抑揚のない声。目線はパソコン画面からほとんど動かない。
彩花の手が小刻みに震えている。
「でも、これは姉が――美咲が残した日記なんです! そこに全部……神宮寺崇にされたことが……!」
「ええ、読ませてもらいました。ただ、これはご本人の主観的な記録に過ぎません。加えて……」
言葉を濁す警察官の顔は、はっきりと「これ以上深入りはしたくない」と告げていた。
悠真は奥歯を噛みしめた。喉の奥から熱いものがこみ上げてくる。
「じゃあ、何を出せば動いてくれるんですか? 命を絶ってまで残した声すら届かないなら……もう、誰も救われないじゃないか!」
思わず机を叩くと、警察官は迷惑そうに眉をひそめた。
「お引き取りください。これ以上は……」
警察署を出た瞬間、冷たい夜風が二人を包んだ。
街の灯りが滲んで見えるのは、結衣が泣いているからか、それとも自分の目が潤んでいるからか。
「……やっぱり、無駄なんだね」
彩花がつぶやく。かすれた声は、まるで折れた小枝のように弱々しかった。
「学校も警察も、誰もお姉ちゃんを守ってくれなかった。今だって、誰も動かない。結局……」
彼女は声を震わせ、両手で顔を覆った。
「結局、お姉ちゃんは一人で……死んでいったんだ」
悠真は何も言えなかった。自分もまた、美咲を救えなかった一人だからだ。彼女の笑顔を、悩みを、もっと知ろうとしなかった。その罪悪感が胸を締め付ける。
気づけば拳に血がにじむほど爪を立てていた。
「彩花……」
声をかけても、彼女は首を振るばかりだった。
そのとき、不意に彩花が顔を上げた。涙で濡れた目が、夜の街灯に照らされて鋭く光る。
「ねぇ悠真。もし……もし正しいやり方で戦えないなら、別の方法を選んでもいいんじゃない?」
その声は震えていたが、奥底には確かな決意が宿っていた。
悠真の胸に、稲妻のような衝撃が走った。
正義は潰された。大人は沈黙した。なら、自分たちだけで――。
「……ネットだ」
絞り出すように言った言葉に、結衣が目を見開く。
「ネット?」
「ああ。学校も警察も黙らせる力を持ってるのは、結局あいつらの家の権力だ。でも、ネットにはそれは効かない。……美咲の声を、全国に響かせるんだ」
彩花はしばらく黙っていたが、やがて強く頷いた。
「……やろう。お姉ちゃんがどれだけ苦しんでたのか、全部暴こう。神宮寺崇も、あの父親も……絶対に逃がさない」
二人の視線が交わる。
その瞬間、胸の奥に燻っていた悔しさや怒りが、鋭い炎となって燃え上がった。
守れなかった過去は、もう変えられない。
だが――未来を変えることはできる。
「行こう、彩花。俺たちで……美咲先輩の無念を晴らすんだ」
夜空に浮かぶ月が、静かに二人を見下ろしていた。
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