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生贄に選ばれた婚約者の聖女を救いたかっただけなのに
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天変地異が起こり始めた。このままでは世界が終わるのは、時間の問題となった。その危機から世界を救うために聖女である婚約者のミラが生贄に選ばれた。
「ミラ。君を生贄になんて絶対にさせない。私が何とかして別の方法を考えるから」
「エリック様。これは、聖女となった私の務めです」
「そんな、馬鹿な務めがあるか! 君だけは、どんなことがあっても死なせたりしない! 私が守ってみせる」
彼女の婚約者のエリック王子は、どうにかしてミラを救おうとして思いついたのは……。
「そうだ。生贄にするだけなら、ミラにそっくりな聖女を召喚して、身代わりにすればいいんだ」
全てが上手くいったら、王子などやめて婚約者を弔うために旅にでも出ると言って、ミラと駆け落ちでもして、どこかでひっそりと暮らそう。
息子の婚約者だというのにあっさりと生贄にすることを認めた父であり、国王に腹を立てていたこともあり、必要な許可を取ることもせずに禁じられた召喚魔法を使用して、エリックは見事、成功させてしまう。それで召喚したのは、本当にミラと双子のように瓜二つの女性だった。
「君は……?」
「初めまして、私はアンメシアと申します」
その女性の名前を聞いてエリック王子は、ゾッとした。なぜなら、ミラや自分のご先祖様にあたる大聖女として語り継がれる伝説の女性の名前が、アンメシア。その人と同じ名前だったからだ。
「あの……?」
「あぁ、すまない。私は、エリック。今日は、疲れただろうから詳しい話は明日、話すよ。部屋まで案内しよう」
「わかりました」
同じ名前の全く別の聖女だと思うことにして、深く追求しないことにした。そうでもしないとエリックは、ミラを救う身代わりをまた探さなくてはならなくなってしまうのを考えたくはなかった。
「ここを使ってくれ」
「はい。ありがとうございます」
召喚したことで魔力を使い疲れたこともあり、部屋まで案内してわかれ、明日ミラと入れ替わってもらおうとエリックは自室で休んだ。全ては愛するミラを救って幸せになることだけが望み。それだけだった。だけど、眠っている間に世界は、色々と変わってしまうことになるとは思ってもみなかった。
召喚した彼女は、本物のアンメシアで、大聖女となる前。彼女は子供どころか結婚もしてはいない頃だった。つまり、大聖女と呼ばれていた時でもなく、聖女となったばかりの頃で、派遣先が決まる時だった。
そのため、アンメシアは未来に召喚されたとは思っていないかった。必要な国に派遣されただけだと思っていた。
「何だか不思議なところだわ。どこか見たことがある気がするけど……。聖女として、ちゃんとやっていけるかしら」
アンメシアは、聖女として弱気になりすぎていると自分に喝をいれるべく両頬を手で叩いて眠る前にしっかりお祈りして眠りについた。
過去の偉大な女性を召喚してしまったことで、周りの記憶とエリックの記憶や知識が一晩で異なってしまうとは思ってもみなかった。更に時間を経つごとにエリック王子の友人や周りの者たちが、見知らぬ人へと変わっていく。自分が歪めた結果なのにまるで、悪いのは召喚してやって来た女の方だとばかりに生贄にすべきと言い続けるが、数日どころか、数時間経っただけで、生贄が必要な状況ではなくなってしまっていた。
「ミラ! どうして、どこにも彼女が居ないんだ!!」
ミラは、存在していないことになってしまい、起こるはずの天変地異も起きていないことになっていた。すっかり平和な世界となっているのにエリックは、ただ1人で生贄が必要だと言い続けて奇異の目で見られていた。エリックが誰なのか、周りの者たちには、わからなくなっていた。
「あの若者は、一体、誰だ?」
「天変地異が起こるだなんて、馬鹿げたことを」
「どこかの病院から抜け出た患者ではないか?」
「可哀想に。まだ、若いのに」
「どうやら、婚約者を探し回っているようだが、存在していない女性らしい」
「死に別れでもしたのか。それでは、おかしくもなるな」
皮肉なことに過去のアンメシアを未来に召喚したことで、いつの間にか危機を脱してしまっていた。最悪な未来にはならなくなったが、最愛の婚約者のミラの存在と生まれていたはずの多くの命を犠牲にし、存在していなかった者たちが、新たにたくさん生まれて、全く別の世界となってしまっていた。
エリック自身は、自分は王子だと王宮で騒ぎ立てる頭がおかしくなった若者と思われてしまっていたが、次第に彼の存在自体も消えてなくなってしまう。
「あれ? 今日は静かだな」
「あぁ、例の若者が病院にでも入れられたのだろう」
「それでか」
「それより、新しく派遣された聖女様は、どうなさっている?」
「まだ、神殿で祈りを捧げておられるそうだ」
「だが、そろそろ聖女として公務をしていただかないと困るぞ。この国に聖女は、あの方しか居ないのだから」
残された召喚されたアンメシアは、派遣先の神殿でずっと祈りを捧げていたことで、人が消えて新たに生まれるという奇妙な光景を見ることはなかった。エリックという青年とも、初日以降、会わなくとも神殿や王宮にはたくさんの人間がいたから気にもしなかった。
「聖女様。そろそろ、公務をお願いしたいのですが……」
「わかりました」
神官に声をかけられて、そこからアンメシアは聖女の仕事を本格的に始めることになった。
その後、消えてなかったことになった歴史通りに大聖女となり、消えてしまった過去と同じように王族と結婚して、子供を産んだ。
そして、何百年か後には消えたはずの歴史と同じく天変地異が起こり始め、大聖女の子孫の聖女が生贄となるべく選ばれてしまい、それを阻止しようと彼女の婚約者が、そっくりな身代わりの聖女を召喚して、そこでまたも、アンメシアを未来へと召喚してしまう。
それは丁度、今まで召喚され続けた時期と同じで、彼女は過去に同じことを繰り返し続けて来たという記憶がなかった。
「何だか、懐かしくもあり、見たことないものがたくさんある技術の進んだ国だわ。やっていけるかしら」
こうして、歴史は繰り返され続け、この世界は絶妙なバランスで存続することになる。
この世界では大聖女とは、知らず知らずのうちに世界の危機を救い続ける者のことを意味していたのだが、本当の意味を知る人間は居ない。
「ミラ。君を生贄になんて絶対にさせない。私が何とかして別の方法を考えるから」
「エリック様。これは、聖女となった私の務めです」
「そんな、馬鹿な務めがあるか! 君だけは、どんなことがあっても死なせたりしない! 私が守ってみせる」
彼女の婚約者のエリック王子は、どうにかしてミラを救おうとして思いついたのは……。
「そうだ。生贄にするだけなら、ミラにそっくりな聖女を召喚して、身代わりにすればいいんだ」
全てが上手くいったら、王子などやめて婚約者を弔うために旅にでも出ると言って、ミラと駆け落ちでもして、どこかでひっそりと暮らそう。
息子の婚約者だというのにあっさりと生贄にすることを認めた父であり、国王に腹を立てていたこともあり、必要な許可を取ることもせずに禁じられた召喚魔法を使用して、エリックは見事、成功させてしまう。それで召喚したのは、本当にミラと双子のように瓜二つの女性だった。
「君は……?」
「初めまして、私はアンメシアと申します」
その女性の名前を聞いてエリック王子は、ゾッとした。なぜなら、ミラや自分のご先祖様にあたる大聖女として語り継がれる伝説の女性の名前が、アンメシア。その人と同じ名前だったからだ。
「あの……?」
「あぁ、すまない。私は、エリック。今日は、疲れただろうから詳しい話は明日、話すよ。部屋まで案内しよう」
「わかりました」
同じ名前の全く別の聖女だと思うことにして、深く追求しないことにした。そうでもしないとエリックは、ミラを救う身代わりをまた探さなくてはならなくなってしまうのを考えたくはなかった。
「ここを使ってくれ」
「はい。ありがとうございます」
召喚したことで魔力を使い疲れたこともあり、部屋まで案内してわかれ、明日ミラと入れ替わってもらおうとエリックは自室で休んだ。全ては愛するミラを救って幸せになることだけが望み。それだけだった。だけど、眠っている間に世界は、色々と変わってしまうことになるとは思ってもみなかった。
召喚した彼女は、本物のアンメシアで、大聖女となる前。彼女は子供どころか結婚もしてはいない頃だった。つまり、大聖女と呼ばれていた時でもなく、聖女となったばかりの頃で、派遣先が決まる時だった。
そのため、アンメシアは未来に召喚されたとは思っていないかった。必要な国に派遣されただけだと思っていた。
「何だか不思議なところだわ。どこか見たことがある気がするけど……。聖女として、ちゃんとやっていけるかしら」
アンメシアは、聖女として弱気になりすぎていると自分に喝をいれるべく両頬を手で叩いて眠る前にしっかりお祈りして眠りについた。
過去の偉大な女性を召喚してしまったことで、周りの記憶とエリックの記憶や知識が一晩で異なってしまうとは思ってもみなかった。更に時間を経つごとにエリック王子の友人や周りの者たちが、見知らぬ人へと変わっていく。自分が歪めた結果なのにまるで、悪いのは召喚してやって来た女の方だとばかりに生贄にすべきと言い続けるが、数日どころか、数時間経っただけで、生贄が必要な状況ではなくなってしまっていた。
「ミラ! どうして、どこにも彼女が居ないんだ!!」
ミラは、存在していないことになってしまい、起こるはずの天変地異も起きていないことになっていた。すっかり平和な世界となっているのにエリックは、ただ1人で生贄が必要だと言い続けて奇異の目で見られていた。エリックが誰なのか、周りの者たちには、わからなくなっていた。
「あの若者は、一体、誰だ?」
「天変地異が起こるだなんて、馬鹿げたことを」
「どこかの病院から抜け出た患者ではないか?」
「可哀想に。まだ、若いのに」
「どうやら、婚約者を探し回っているようだが、存在していない女性らしい」
「死に別れでもしたのか。それでは、おかしくもなるな」
皮肉なことに過去のアンメシアを未来に召喚したことで、いつの間にか危機を脱してしまっていた。最悪な未来にはならなくなったが、最愛の婚約者のミラの存在と生まれていたはずの多くの命を犠牲にし、存在していなかった者たちが、新たにたくさん生まれて、全く別の世界となってしまっていた。
エリック自身は、自分は王子だと王宮で騒ぎ立てる頭がおかしくなった若者と思われてしまっていたが、次第に彼の存在自体も消えてなくなってしまう。
「あれ? 今日は静かだな」
「あぁ、例の若者が病院にでも入れられたのだろう」
「それでか」
「それより、新しく派遣された聖女様は、どうなさっている?」
「まだ、神殿で祈りを捧げておられるそうだ」
「だが、そろそろ聖女として公務をしていただかないと困るぞ。この国に聖女は、あの方しか居ないのだから」
残された召喚されたアンメシアは、派遣先の神殿でずっと祈りを捧げていたことで、人が消えて新たに生まれるという奇妙な光景を見ることはなかった。エリックという青年とも、初日以降、会わなくとも神殿や王宮にはたくさんの人間がいたから気にもしなかった。
「聖女様。そろそろ、公務をお願いしたいのですが……」
「わかりました」
神官に声をかけられて、そこからアンメシアは聖女の仕事を本格的に始めることになった。
その後、消えてなかったことになった歴史通りに大聖女となり、消えてしまった過去と同じように王族と結婚して、子供を産んだ。
そして、何百年か後には消えたはずの歴史と同じく天変地異が起こり始め、大聖女の子孫の聖女が生贄となるべく選ばれてしまい、それを阻止しようと彼女の婚約者が、そっくりな身代わりの聖女を召喚して、そこでまたも、アンメシアを未来へと召喚してしまう。
それは丁度、今まで召喚され続けた時期と同じで、彼女は過去に同じことを繰り返し続けて来たという記憶がなかった。
「何だか、懐かしくもあり、見たことないものがたくさんある技術の進んだ国だわ。やっていけるかしら」
こうして、歴史は繰り返され続け、この世界は絶妙なバランスで存続することになる。
この世界では大聖女とは、知らず知らずのうちに世界の危機を救い続ける者のことを意味していたのだが、本当の意味を知る人間は居ない。
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