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しおりを挟む「捨てていたのは、アンゼリカの作ったものだけよね?」
レジーナは、そう言って婚約者である王子に詰め寄って確認していた。
「え、いや、その……」
だが、王子は王太子が側にいるのもあり、そんなことないとはっきり言えずにしどろもどろになった。
そもそも、捨ててなどいないことにしたかったのにレジーナにそんなことを言われてしまっているのだ。そんなことないと言うわけにはいかなかった。
それを耳にした周りは……。
「嘘でしょ。最低もいいところだわ」
「そんなことする方だったなんて、信じられない」
この国の者なら、平然と捨てるなんてことは誰もしない。ましてやもらってすぐに捨てるなんてありえない。
どうしても口に合わなければ、次の時に受け取らなければいい。それで、二度とそういったものを渡さなくなる。
なのにあの王子は毎回、必ず受け取るのだ。
「そんな方だったなんて、思わなかったわ。私も渡したことあるのに」
「私もよ。口に合わないなら、断ればいいだけなのに。最低もいいところだわ」
王族だからとそんなの関係ない。この国の男性は、色んな手作りをもらう分、最初以外は断ってもいいのだ。婚約者がいる者は、最初から断る者もいるくらいだ。
身内からのものを胃薬片手に食べる身内は、アンゼリカは2人しか知らないが、他ではないはずだ。いや、他にアンゼリカたちのような破壊力のあるものを作れるものは、そういないだろうが。
幼なじみの父親たちは、レジーナを食べてはいない。そういうのは、婚約したい者に渡すべきだと決して受け取らないのをアンゼリカは知っている。
それをここでアンゼリカは言う気はないが。レジーナは知らないのだろう。
「そもそも、アンゼリカのを捨てていたのなら、レジーナのなんて中身を確認せずに捨てているわよね」
「自覚ないって、恐ろしいわね」
「あれは、見た目からしてないものね」
周りの令嬢たちも、アンゼリカより悲惨なものを生み出すことを知っていた。更にお菓子作り以外では、アンゼリカのような才能は何もない。
アンゼリカは、自分では作れなくとも図案を考えてデザインを考えるセンスはずば抜けていた。そのため、特別な贈り物にどんなデザインがいいかなどと聞かれることは増える一方となっていた。
だから、婚約しても自由が効いていたから、その辺のことを認めてくれているのかと思えば、そんなことなかったのだ。
レジーナの方は、アンゼリカのように自覚がなさすぎているせいで、どう見ても見た目から酷さがわかりそうだが、彼女はそれを芸術的だと思って自画自賛しているところが、昔からあった。アンゼリカにだけ、そうやって勝っていると思いたかったのかと思っていたら、本気でそう思っていたようだ。
ある意味、恐ろしすぎる。だが、アンゼリカはそれをレジーナに自覚させるようなことを言う気はなかった。言ったところで、今更自覚なんてすることはないだろうが。
「大体、アンゼリカが作る者は、父や兄の間では、物凄く好評なのに」
「本当よね。私も、仕事が忙しい時に食べる携帯食にうってつけだから、習っているくらいなのに」
「私もよ。でも、とても難しいのよね」
「甘ったるお菓子より、健康に良いものを作れる方を侮辱するなんて、信じられないわ」
だが、そんなはずないとレジーナは婚約者に迫っていたが、王太子や周りの目を気にしてはぐらかそうとして必死になっていた。だが、その話題がちゃんと聞こえていて、それに驚いていた。
ロディオンたちは、さっさと帰ってしまっていたが、この場にいたら、レジーナと同じように凄い顔をしていそうだが、ここにはいない。
「はぁ? アンゼリカの作るものが好評なんて、信じられないわ」
「そんなこと言ってるとあなたのお父様やお兄様が困るはずよ」
「何それ、おかしなこと言わないで、アンゼリカの作るものなんて食べたら胃をおかしくするだけよ」
レジーナは、昔のことをよく知っている幼なじみだけあって、意地悪いことを言った。それこそ、アンゼリカにとっては忘れ去りたい過去だったが、それを周りが知らないからだと思って言ったようだが、それは火に油を注いだだけだった。
「信じられない」
「今は、携帯食として有名な生みの親なのに」
「は? 何で、そこで携帯食の話になるのよ」
レジーナは本当に何も知らなかったようだ。
「まさか、君が作っているのか?」
「……」
「そうよ。みんな、習っているけど難しくて会得できた人は少ないわ」
「だから、時折、頼んで作ってもらっているくらいよ」
王子も知らなかったようだ。凄い顔をしてアンゼリカを見たが、レジーナはそんな話すら知らないようだ。
慌てて王子が謝罪してきたが、アンゼリカは婚約破棄の話を両親に伝えたいからと王太子や他の面々に頭を下げて、その場を後にした。
何やら王太子が、まだ話したそうにしていたが、話すことはアンゼリカにはなかった。
だって、何度も捨てているのを見ているだけの人だ。アンゼリカは、そんな人と話すことがなかった。
何はともあれ、婚約破棄になることをアンゼリカは物凄く喜んでいた。足取り軽く家に帰るのにウキウキしていて、残された王子はレジーナに再び追求されるようなことになり、王太子はそんな2人よりアンゼリカのことを気にした視線を向けていた。
その視線に気づいた面々は、もう用は済んだかのように他に用事を思い出して、この場を後にした。
それこそ、アンゼリカのように王太子が弟がもらった物を捨てているのをよく見ていたと言ったことで、幻滅しているのだが、王太子はそれに気づいていなかった。
そう、自分がどれほどのことをそのまま放置してきたのかを暴露したことに王太子は気づいていなかったのだ。
弟のことを暴露したのは、アンゼリカが何かとある時期お菓子を渡していたのを王太子が見ていたからだ。そう、ただ見ていたことに問題しかないことに王太子が気づくことはなかった。
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