手作りお菓子をゴミ箱に捨てられた私は、自棄を起こしてとんでもない相手と婚約したのですが、私も含めたみんな変になっていたようです

珠宮さくら

文字の大きさ
4 / 10

しおりを挟む

「捨てていたのは、アンゼリカの作ったものだけよね?」


レジーナは、そう言って婚約者である王子に詰め寄って確認していた。


「え、いや、その……」


だが、王子は王太子が側にいるのもあり、そんなことないとはっきり言えずにしどろもどろになった。

そもそも、捨ててなどいないことにしたかったのにレジーナにそんなことを言われてしまっているのだ。そんなことないと言うわけにはいかなかった。

それを耳にした周りは……。


「嘘でしょ。最低もいいところだわ」
「そんなことする方だったなんて、信じられない」


この国の者なら、平然と捨てるなんてことは誰もしない。ましてやもらってすぐに捨てるなんてありえない。

どうしても口に合わなければ、次の時に受け取らなければいい。それで、二度とそういったものを渡さなくなる。

なのにあの王子は毎回、必ず受け取るのだ。


「そんな方だったなんて、思わなかったわ。私も渡したことあるのに」
「私もよ。口に合わないなら、断ればいいだけなのに。最低もいいところだわ」


王族だからとそんなの関係ない。この国の男性は、色んな手作りをもらう分、最初以外は断ってもいいのだ。婚約者がいる者は、最初から断る者もいるくらいだ。

身内からのものを胃薬片手に食べる身内は、アンゼリカは2人しか知らないが、他ではないはずだ。いや、他にアンゼリカたちのような破壊力のあるものを作れるものは、そういないだろうが。

幼なじみの父親たちは、レジーナを食べてはいない。そういうのは、婚約したい者に渡すべきだと決して受け取らないのをアンゼリカは知っている。

それをここでアンゼリカは言う気はないが。レジーナは知らないのだろう。


「そもそも、アンゼリカのを捨てていたのなら、レジーナのなんて中身を確認せずに捨てているわよね」
「自覚ないって、恐ろしいわね」
「あれは、見た目からしてないものね」


周りの令嬢たちも、アンゼリカより悲惨なものを生み出すことを知っていた。更にお菓子作り以外では、アンゼリカのような才能は何もない。

アンゼリカは、自分では作れなくとも図案を考えてデザインを考えるセンスはずば抜けていた。そのため、特別な贈り物にどんなデザインがいいかなどと聞かれることは増える一方となっていた。

だから、婚約しても自由が効いていたから、その辺のことを認めてくれているのかと思えば、そんなことなかったのだ。

レジーナの方は、アンゼリカのように自覚がなさすぎているせいで、どう見ても見た目から酷さがわかりそうだが、彼女はそれを芸術的だと思って自画自賛しているところが、昔からあった。アンゼリカにだけ、そうやって勝っていると思いたかったのかと思っていたら、本気でそう思っていたようだ。

ある意味、恐ろしすぎる。だが、アンゼリカはそれをレジーナに自覚させるようなことを言う気はなかった。言ったところで、今更自覚なんてすることはないだろうが。


「大体、アンゼリカが作る者は、父や兄の間では、物凄く好評なのに」
「本当よね。私も、仕事が忙しい時に食べる携帯食にうってつけだから、習っているくらいなのに」
「私もよ。でも、とても難しいのよね」
「甘ったるお菓子より、健康に良いものを作れる方を侮辱するなんて、信じられないわ」


だが、そんなはずないとレジーナは婚約者に迫っていたが、王太子や周りの目を気にしてはぐらかそうとして必死になっていた。だが、その話題がちゃんと聞こえていて、それに驚いていた。

ロディオンたちは、さっさと帰ってしまっていたが、この場にいたら、レジーナと同じように凄い顔をしていそうだが、ここにはいない。


「はぁ? アンゼリカの作るものが好評なんて、信じられないわ」
「そんなこと言ってるとあなたのお父様やお兄様が困るはずよ」
「何それ、おかしなこと言わないで、アンゼリカの作るものなんて食べたら胃をおかしくするだけよ」


レジーナは、昔のことをよく知っている幼なじみだけあって、意地悪いことを言った。それこそ、アンゼリカにとっては忘れ去りたい過去だったが、それを周りが知らないからだと思って言ったようだが、それは火に油を注いだだけだった。


「信じられない」
「今は、携帯食として有名な生みの親なのに」
「は? 何で、そこで携帯食の話になるのよ」


レジーナは本当に何も知らなかったようだ。


「まさか、君が作っているのか?」
「……」
「そうよ。みんな、習っているけど難しくて会得できた人は少ないわ」
「だから、時折、頼んで作ってもらっているくらいよ」


王子も知らなかったようだ。凄い顔をしてアンゼリカを見たが、レジーナはそんな話すら知らないようだ。


慌てて王子が謝罪してきたが、アンゼリカは婚約破棄の話を両親に伝えたいからと王太子や他の面々に頭を下げて、その場を後にした。

何やら王太子が、まだ話したそうにしていたが、話すことはアンゼリカにはなかった。

だって、何度も捨てているのを見ているだけの人だ。アンゼリカは、そんな人と話すことがなかった。

何はともあれ、婚約破棄になることをアンゼリカは物凄く喜んでいた。足取り軽く家に帰るのにウキウキしていて、残された王子はレジーナに再び追求されるようなことになり、王太子はそんな2人よりアンゼリカのことを気にした視線を向けていた。

その視線に気づいた面々は、もう用は済んだかのように他に用事を思い出して、この場を後にした。

それこそ、アンゼリカのように王太子が弟がもらった物を捨てているのをよく見ていたと言ったことで、幻滅しているのだが、王太子はそれに気づいていなかった。

そう、自分がどれほどのことをそのまま放置してきたのかを暴露したことに王太子は気づいていなかったのだ。

弟のことを暴露したのは、アンゼリカが何かとある時期お菓子を渡していたのを王太子が見ていたからだ。そう、ただ見ていたことに問題しかないことに王太子が気づくことはなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうせ愛されない子なので、呪われた婚約者のために命を使ってみようと思います

下菊みこと
恋愛
愛されずに育った少女が、唯一優しくしてくれた婚約者のために自分の命をかけて呪いを解こうとするお話。 ご都合主義のハッピーエンドのSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

夫「お前は価値がない女だ。太った姿を見るだけで吐き気がする」若い彼女と再婚するから妻に出て行け!

ぱんだ
恋愛
華やかな舞踏会から帰宅した公爵夫人ジェシカは、幼馴染の夫ハリーから突然の宣告を受ける。 「お前は価値のない女だ。太った姿を見るだけで不快だ!」 冷酷な言葉は、長年連れ添った夫の口から発せられたとは思えないほど鋭く、ジェシカの胸に突き刺さる。 さらにハリーは、若い恋人ローラとの再婚を一方的に告げ、ジェシカに屋敷から出ていくよう迫る。 優しかった夫の変貌に、ジェシカは言葉を失い、ただ立ち尽くす。

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

【完結】伯爵令嬢は婚約を終わりにしたい〜次期公爵の幸せのために婚約破棄されることを目指して悪女になったら、なぜか溺愛されてしまったようです〜

よどら文鳥
恋愛
 伯爵令嬢のミリアナは、次期公爵レインハルトと婚約関係である。  二人は特に問題もなく、順調に親睦を深めていった。  だがある日。  王女のシャーリャはミリアナに対して、「二人の婚約を解消してほしい、レインハルトは本当は私を愛しているの」と促した。  ミリアナは最初こそ信じなかったが王女が帰った後、レインハルトとの会話で王女のことを愛していることが判明した。  レインハルトの幸せをなによりも優先して考えているミリアナは、自分自身が嫌われて婚約破棄を宣告してもらえばいいという決断をする。  ミリアナはレインハルトの前では悪女になりきることを決意。  もともとミリアナは破天荒で活発な性格である。  そのため、悪女になりきるとはいっても、むしろあまり変わっていないことにもミリアナは気がついていない。  だが、悪女になって様々な作戦でレインハルトから嫌われるような行動をするが、なぜか全て感謝されてしまう。  それどころか、レインハルトからの愛情がどんどんと深くなっていき……? ※前回の作品同様、投稿前日に思いついて書いてみた作品なので、先のプロットや展開は未定です。今作も、完結までは書くつもりです。 ※第一話のキャラがざまぁされそうな感じはありますが、今回はざまぁがメインの作品ではありません。もしかしたら、このキャラも更生していい子になっちゃったりする可能性もあります。(このあたり、現時点ではどうするか展開考えていないです)

幼馴染と夫の衝撃告白に号泣「僕たちは愛し合っている」王子兄弟の関係に私の入る隙間がない!

ぱんだ
恋愛
「僕たちは愛し合っているんだ!」 突然、夫に言われた。アメリアは第一子を出産したばかりなのに……。 アメリア公爵令嬢はレオナルド王太子と結婚して、アメリアは王太子妃になった。 アメリアの幼馴染のウィリアム。アメリアの夫はレオナルド。二人は兄弟王子。 二人は、仲が良い兄弟だと思っていたけど予想以上だった。二人の親密さに、私は入る隙間がなさそうだと思っていたら本当になかったなんて……。

婚約者を妹に取られた私、幼馴染の〝氷の王子様〟に溺愛される日々

ぱんだ
恋愛
エリーゼ・ダグラス公爵家の令嬢は、フレックス・グリムベルク王子と婚約していた。二人の結婚は間近に迫り、すべてが順調に進んでいると思われた。しかし、その幸せは突然崩れ去る。妹のユリア・ダグラスが、フレックスの心を奪ってしまったのだ。婚約破棄の知らせが届くとき、エリーゼは絶望に打ちひしがれた。 「なぜ?」心の中で何度も繰り返した問いに、答えは見つからない。妹に取られたという嫉妬と、深い傷を負ったエリーゼが孤独に沈んでいた。そのとき、カイル・グリムベルク王子が現れる。 彼はエリーゼにとって、唯一の支えであり安らぎの源だった。学園で『氷の王子様』と呼ばれ、その冷徹な態度で周囲を震えさせているが、エリーゼには、その冷徹さとは対照的に、昔から変わらぬ温かい心で接してくれていた。 実は、エリーゼはフレックスとの婚約に苦しんでいた。彼は妹のユリアに似た我儘で気まぐれな性格で、内心では別れを望んでいた。しかし、それを言い出せなかった。

【完結】愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を

川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」  とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。  これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。  だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。 新聞と涙 それでも恋をする  あなたの照らす道は祝福《コーデリア》 君のため道に灯りを点けておく 話したいことがある 会いたい《クローヴィス》  これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。 第22回書き出し祭り参加作品 2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます 2025.2.14 後日談を投稿しました

氷の王弟殿下から婚約破棄を突き付けられました。理由は聖女と結婚するからだそうです。

吉川一巳
恋愛
ビビは婚約者である氷の王弟イライアスが大嫌いだった。なぜなら彼は会う度にビビの化粧や服装にケチをつけてくるからだ。しかし、こんな婚約耐えられないと思っていたところ、国を揺るがす大事件が起こり、イライアスから神の国から召喚される聖女と結婚しなくてはいけなくなったから破談にしたいという申し出を受ける。内心大喜びでその話を受け入れ、そのままの勢いでビビは神官となるのだが、招かれた聖女には問題があって……。小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

処理中です...