34 / 42
34
しおりを挟む野良さんの体調が悪くなってから、美穂はボロボロになっていた。何をしてもしなくとも、失敗するほど酷かった。寝ても覚めても、野良さんのことで頭がいっぱいになってしまっていた。
「美穂。交代する。少し休め」
「平気。側にいる」
「美穂」
「側にいたいの」
「わかった。なら、横になってろ。琥珀、美穂を頼むな」
「にぃ~」
浩一は、美穂の側に琥珀を居させて、野良さんの世話を美穂の家に泊まり込んでしてもくれた。彼も仕事で忙しいはずなのに。野良さんと美穂の面倒を見てくれたのだ。琥珀も、一生懸命に美穂を舐め、野良さんを舐めていた。
それは、野良さんが老衰で亡くなるまで続いた。
美穂は、野良さんとの別れで一生分泣いたと思う。それに寄り添ってくれたのは、浩一と琥珀だった。父猫代わりとなっていた野良さんが亡くなったのに琥珀は、気丈にも美穂を慰めるために奔走してくれていた。
「凄くいい猫だな。きっと野良さんに頼まれてたのかもな。美穂を頼むって」
「っ、野良さん」
「俺も、野良さんに美穂のことは任せてくれって言ったから、頼ってくれていいから」
「もう、ずっと頼りっぱなしだけど」
「もっとでも、大丈夫だ」
「それだと私が何もできなくなる。これ以上、ダメ人間にさせたないで」
「それでも、いいけど」
「絶対にそれは嫌よ」
美穂は、琥珀だけでなくて、彼氏の浩一が側にいてくれたから、立ち直ることができた。
浩一が、撮ってくれた写真は、それまで美穂が撮っていたものよりも何倍も野良さんの魅力を閉じ込めたものになっていた。
それを見るたび、涙が溢れそうになったし、伯父に野良さんの話をして、電話の向こうで号泣するのを聞いて、琥珀が必死になって美穂にしていたように泣いている伯父を慰めようと鳴いていた。
それに美穂も堪えきれずに泣いてしまい、琥珀がオロオロしてしまって大変だった。
琥珀には悪いが、そんなオロオロとしながらも、美穂の周りに気づけば玩具を並べていて、それに美穂は笑ってしまった。
「美穂? どうした?」
「琥珀がね」
電話越しで笑う姪っ子に伯父が尋ねたので、写真と共に実況中継したら、伯父も大笑いしていた。
伯父には浩一のことも紹介したが、美穂をそっちのけにして盛り上がる2人に美穂は……。
(なんか、野良さんと伯父さんを見てるみたい。伯父のところに野良さんが、しばらくいた時はこんなんだったのよね)
なぜか、懐かしいものを美穂は感じてしまった。母には懐かなかったが、伯父には懐いたのだ。それこそ前は伯父ばかり狡いと思ってしまっていたが、今はそう思わないことに大人になったなと思っていたが……。
(……ちょっと、盛り上がりすぎてない?)
段々と仲間外れにされているような感覚になった美穂は、ムスッとしていた。それに気づいた伯父が吹き出していた。
「美穂。大丈夫。今だけだ」
「……何も言ってない」
「でも、何を言いたいかはわかるぞ。美穂は、 顔に言いたいことが全部出るからな」
「そんなこと初めて言われた」
伯父は、野良さんの時と同じ顔をしているとまでは言わなかった。
浩一は、不思議そうな顔をしていたが、すぐに彼氏を交えて盛り上がっている話に加えて、泣き笑いをしていた。
(こういうところもそっくりだわ)
野良さんも、美穂をこうして取り持つように間に入れてくれたのだ。それが、懐かしくて仕方がなかった。
母が野良さんに嫌われまくって、猫カフェでも不人気だったのを伯父に話すと……。
「相変わらずだな。あいつ、昔から動物好きなんだが、動物に好かれないんだ」
「え? そうなの?」
美穂は、初めて知った母のことで、苦笑してしまっていた。どうやら、見栄を張りたがるところは、父方だけでなくて、母にもあったようだ。
(全然知らなかった)
22
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢になった私は、魔法学園の学園長である義兄に溺愛されているようです。
木山楽斗
恋愛
弱小貴族で、平民同然の暮らしをしていたルリアは、両親の死によって、遠縁の公爵家であるフォリシス家に引き取られることになった。位の高い貴族に引き取られることになり、怯えるルリアだったが、フォリシス家の人々はとても良くしてくれ、そんな家族をルリアは深く愛し、尊敬するようになっていた。その中でも、義兄であるリクルド・フォリシスには、特別である。気高く強い彼に、ルリアは強い憧れを抱いていくようになっていたのだ。
時は流れ、ルリアは十六歳になっていた。彼女の暮らす国では、その年で魔法学校に通うようになっている。そこで、ルリアは、兄の学園に通いたいと願っていた。しかし、リクルドはそれを認めてくれないのだ。なんとか理由を聞き、納得したルリアだったが、そこで義妹のレティが口を挟んできた。
「お兄様は、お姉様を共学の学園に通わせたくないだけです!」
「ほう?」
これは、ルリアと義理の家族の物語。
※基本的に主人公の視点で進みますが、時々視点が変わります。視点が変わる話には、()で誰視点かを記しています。
※同じ話を別視点でしている場合があります。
本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます
氷雨そら
恋愛
本の虫として社交界に出ることもなく、婚約者もいないミリア。
「君が番だ! 間違いない」
(番とは……!)
今日も読書にいそしむミリアの前に現れたのは、王都にたった一人の竜騎士様。
本好き令嬢が、強引な竜騎士様に振り回される竜人の番ラブコメ。
小説家になろう様にも投稿しています。
結婚前夜に婚約破棄されたけど、おかげでポイントがたまって溺愛されて最高に幸せです❤
凪子
恋愛
私はローラ・クイーンズ、16歳。前世は喪女、現世はクイーンズ公爵家の公爵令嬢です。
幼いころからの婚約者・アレックス様との結婚間近……だったのだけど、従妹のアンナにあの手この手で奪われてしまい、婚約破棄になってしまいました。
でも、大丈夫。私には秘密の『ポイント帳』があるのです!
ポイントがたまると、『いいこと』がたくさん起こって……?
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます
さくら
恋愛
家族から「邪魔者」扱いされ、行き場を失った伯爵令嬢レイナ。
望まぬ結婚から逃げ出したはずの彼女が出会ったのは――冷徹無比と恐れられる宰相閣下アルベルト。
「契約でいい。君を妻として迎える」
そう告げられ始まった仮初めの結婚生活。
けれど、彼は噂とはまるで違っていた。
政務を完璧にこなし、家事も器用に手伝い、そして――妻をとことん甘やかす完璧なスパダリだったのだ。
「君はもう“邪魔者”ではない。私の誇りだ」
契約から始まった関係は、やがて真実の絆へ。
陰謀や噂に立ち向かいながら、互いを支え合う二人は、次第に心から惹かれ合っていく。
これは、冷徹宰相×追放令嬢の“契約婚”からはじまる、甘々すぎる愛の物語。
指輪に誓う未来は――永遠の「夫婦」。
「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)
透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。
有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。
「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」
そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて――
しかも、彼との“政略結婚”が目前!?
婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。
“報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。
悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜
咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。
もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。
一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…?
※これはかなり人を選ぶ作品です。
感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。
それでも大丈夫って方は、ぜひ。
聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~
夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力!
絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。
最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り!
追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる