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しおりを挟む美穂の私生活は、母と絶縁してから充実していた。変に聞こえるが、姉よりも母の機嫌取りというか。自慢の娘と言われるように無意識で頑張っていたのが、ストレスになっていたようだ。
そんな時に姉が結婚式をするからと美穂にも出席してほしいと言い出していると伯父に聞いて、驚いてしまった。
「姉さんが、連絡して来たの?」
「いや、何の連絡もなく、家に婚約者を連れて来た」
「は? え? 突然?」
「突然だ。母親の方は、門前払いになったらしいがな。普通、親にも予定は確認するものだが、あいつはその辺のこと言っても通じそうもなかったな。こっちに連絡なく来ただけじゃなくて、ばあちゃんのところに来たついで、伯父にも挨拶するって感覚たったみたいだ」
「おばあちゃんのとこって、連絡なく行ったの? 何で?」
「結婚式に出てくれって言ってたぞ」
「はぁ?」
美穂は、伯父からそんなことを聞かされて頭を抱えた。
(おばあちゃんに言うなら、まだわかるけど、その感じだと伯父さんたちにも出てくれって言ってそうね。しかも、連絡もなく行くって姉さんらしいけど、非常識にも程があるわ)
そこで、伯父さんたちだけでなくて、従弟の大輔もいたことで女友達に自慢したいから、ぜひ出席してくれと言ったらしい。初対面で、そんなことを頼み込むのが姉だ。
(全く変わってないみたいね)
そんなことをした由美の結婚式に出たいと思うわけもなく、断られてもしつこくして大変だったようだ。他の親戚も同じく、そんな非常識な由美の結婚式には出たくないと断られてしまったことで、仕方なく美穂を強制的に出席させると言い出したようで、伯父も困ったようだ。
「あー、うん。えっと、それで、いつ結婚式をやるって?」
「2週間後だ」
「は? え? 2週間後って……? え、それって……」
「美穂の結婚式が同じ日にやる予定を聞かされるとは思わなくてな。その感じだと由美とは話してないんだな?」
「うん。絶縁されてからは、話してない」
そうなのだ。2週間後に美穂は、浩一と結婚式をする。その後はハネムーンに行くことになっているが、このタイミングで姉の結婚式と被るとは思わなかった。
(嘘でしょ!? よりにもよって、同じ日に結婚式をやるなんて、私と姉さんって、双子だった? そこで、揃うなんて、あり得ない)
「親戚みんな、予定があったから断った。でも、誰も美穂が結婚するのに出席するからって断ってはいない」
「みんなが行けないって行ったなら、姉さんが暴れたんじゃない?」
「婚約者がいたから、そんなことなかったぞ。流石に結婚式の2週間前にそんな話をされても、空けられない予定があるからと言って穏便に断ったら、婚約者の方が、理解してくれた。でも、由美は大泣きして大変だった。そこまでして、美穂でもいいから、連絡先教えてくれって言われた。どうせ暇してるだろうし、出会いの場にうってつけだから結婚式に仕方がないから、招待してあげるって言ってたぞ」
「……」
(泣き落としにかかったわけね。それに私を招待する理由が最悪すぎる。彼氏なんていないって思われてたのが、よくわかったわ。わからなくていいことまで、わかった)
「そんなに急に決めたの?」
「ドレスが綺麗に着れるうちに結婚式をしたいそうだ」
「……」
(つまり、おめでた婚ってやつってことね)
伯父の言葉に美穂は遠い目をしてしまった。それこそ、姉のことだから結婚さえすれば、どちらも幸せになれると思っていたに違いない。
「婚約者の方は、結婚式をやるのに気乗りしてなさそうだった。自分の両親は、式をやっても来る気はないから、この際だから式はやめようって話して由美が怒っていたくらいだ」
「……」
(姉さん、一体、何したんだか。というか、アポ無しで婚約者を連れ回すって、それだけでも結婚辞めようと思われそうだとか、思わないのかな。あー、思ってたらしてにいか)
これまた、簡単に想像がつくなと美穂は思っていた。母以外の母方の親戚は美穂の結婚式に出てくれると式の1ヶ月前に返事をもらっていた。
それがなくて、予定がなければ、由美の方の結婚式に出たかと言うと親戚は出るとは言わなかったのではないかと美穂は思っていた。
それこそ、小さな頃に父が亡くなっていて、母も式には美穂が土下座して謝れば出てやるかのように言って、美穂が怒る前に浩一が激怒していた。もとより結婚式はやるが、美穂は母を呼ぶ気は欠片もなかったのだ。バージンロードは伯父が一緒に歩いてくれて、伯母が母の代わりをしてくれることになっていたが、母は自分を招待しないわけがないと思っていたようだ。
(母にもびっくりだけど、ここに来て姉さんも登場して来るとは思わなかったわ。……なんか、嫌な予感がするな)
全部上手くいくと思っていたが、2週間前にして姉のことを聞くことになって驚きつつ、そんなことを思ってしまった。
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