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しおりを挟むアンジェリーカは、申し訳なさそうにこう言った。
「行くのは無理です。私は、ここで学園を卒業しなくてはなりません」
「……祝福も、魔力もなしで通うつもりなのですか?」
「えぇ。みんなが期待している通りにはならないでしょうが……」
(私の夢の一つ。持ち越しに持ち越してきた夢を叶えたい。諦めるなんて、どうしてもできない。私も、みんなも望んでくれていたことだもの)
そう言いながら、アンジェリーカはずっとしまい込んだままだった願いが叶うと思っていた。
それこそ、自分だけではなくて、前の世界で望んでくれていたことだから叶えたくて仕方がないことにこの時のアンジェリーカは気づいていなかった。
すっかり自分がやりたいことがそれだと思っていたが、未だに誰かの願っていたことをやりきりたいという想いに突き動かされていることもわかっていなかった。
ようやく、この世界で口にした。自分のやりたいことを言葉にしたのは、初めてかも知れないがそれを自分が出した答えだと信じて疑ってはいなかった。
「学園を卒業してみたいんです」
「……」
「それが、私のずっと昔からの願いなんです。きちんと卒業して、成人したい」
(普通の女の子として、それを前の世界の人たちは、みんな望んでいたことだし)
アンジェリーカは、とても儚げにそう言っていた。その姿を見てほしい人たちが、アンジェリーカにはどれほどいるのかわからない。もう既に顔もおぼろげで声も思い出せないし、前までどれほどの名前で呼ばれていたかも思い出せはしない。かつて家族となった人たちや知り合いの人たちに知らせたいことがあるとすれば、この世界で夢を叶えられて、幸せになれたと伝えられるものなら、伝えたいと思っていた。二度とあちら側の人たちに会えずとも、生まれ変わり続けた先で誰よりも幸せになれたと言えたら、それだけで存在意義となると思っていた。
そんなことを思っているアンジェリーカの姿を見て、メンフィスとエジェオは痛々しい表情で見つめていたことにこれまた気づいてはいなかった。
(前の世界では、卒業なんて出来なかった。今度こそ、世界が違ってもみんなが通っているところを卒業してみたい。そして、成人を迎えたい)
皆勤賞で、アンジェリーカの前世の両親や兄弟姉妹たちは卒業した人たちが多かった。それだけ、アンジェリーカの周りの家族はピンピンしている人ばかりだった。祖父母どころか。曾祖父母までも、かなり元気な人たちばかりが、アンジェリーカの周りにはいた。その辺はよく覚えている。
この世界でも、そうだ。アンジェリーカの周りの人たちはやたらと元気だった。エジェオも家庭教師をし始めて、最初の頃に比べるとかなり元気になっている。
それが、何を意味しているのかにアンジェリーカは気づいていなかった。アンジェリーカが無意識で、周りが年齢問わずに元気にしていて、いつまで経っても現役の人生をまっとうすることが幸せだと思っていることで、自分の周りの人たちがそうなっていることに貢献していることに気づいていなかった。
ここに来る前からアンジェリーカは、みんなが幸せになるのに元気なことが1番だと思っていたのは、いつからだったのか。何度やり直しても早く死ぬせいだったのかも知れないが、何にせよ。アンジェリーカは自分が思っている以上に強く願い続けていることが、どこにいても形はどうあれ叶ってきたことを全く知らずにいた。
前の世界で、周りが異常に近く元気だったことも、アンジェリーカがいなくなってから普通になったことも知らずにいた。
それを見て生きてきたからこそ、アンジェリーカはちょっとした体調不良でも学校に行くことが多かった。周りの家族が毎回、元気すぎたからちょっとくらいの具合の悪さなんて、どうにでもなると思っていたことも多かった。
全ての基準がおかしなことになっているものを判断の材料にしていたことで、それが当たり前のことになっていることにも気づくべきだったのかも知れないが、気づくことはなかった。
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