訳あり少女は、転生先でも散々な目に合う道を自ら選び続けて、みんなの幸せを願わずにはいられない性分のようです

珠宮さくら

文字の大きさ
35 / 55

35

しおりを挟む

アンジェリーカは、申し訳なさそうにこう言った。


「行くのは無理です。私は、ここで学園を卒業しなくてはなりません」
「……祝福も、魔力もなしで通うつもりなのですか?」
「えぇ。みんなが期待している通りにはならないでしょうが……」


(私の夢の一つ。持ち越しに持ち越してきた夢を叶えたい。諦めるなんて、どうしてもできない。私も、みんなも望んでくれていたことだもの)


そう言いながら、アンジェリーカはずっとしまい込んだままだった願いが叶うと思っていた。

それこそ、自分だけではなくて、前の世界で望んでくれていたことだから叶えたくて仕方がないことにこの時のアンジェリーカは気づいていなかった。

すっかり自分がやりたいことがそれだと思っていたが、未だに誰かの願っていたことをやりきりたいという想いに突き動かされていることもわかっていなかった。

ようやく、この世界で口にした。自分のやりたいことを言葉にしたのは、初めてかも知れないがそれを自分が出した答えだと信じて疑ってはいなかった。


「学園を卒業してみたいんです」
「……」
「それが、私のずっと昔からの願いなんです。きちんと卒業して、成人したい」


(普通の女の子として、それを前の世界の人たちは、みんな望んでいたことだし)


アンジェリーカは、とても儚げにそう言っていた。その姿を見てほしい人たちが、アンジェリーカにはどれほどいるのかわからない。もう既に顔もおぼろげで声も思い出せないし、前までどれほどの名前で呼ばれていたかも思い出せはしない。かつて家族となった人たちや知り合いの人たちに知らせたいことがあるとすれば、この世界で夢を叶えられて、幸せになれたと伝えられるものなら、伝えたいと思っていた。二度とあちら側の人たちに会えずとも、生まれ変わり続けた先で誰よりも幸せになれたと言えたら、それだけで存在意義となると思っていた。

そんなことを思っているアンジェリーカの姿を見て、メンフィスとエジェオは痛々しい表情で見つめていたことにこれまた気づいてはいなかった。


(前の世界では、卒業なんて出来なかった。今度こそ、世界が違ってもみんなが通っているところを卒業してみたい。そして、成人を迎えたい)


皆勤賞で、アンジェリーカの前世の両親や兄弟姉妹たちは卒業した人たちが多かった。それだけ、アンジェリーカの周りの家族はピンピンしている人ばかりだった。祖父母どころか。曾祖父母までも、かなり元気な人たちばかりが、アンジェリーカの周りにはいた。その辺はよく覚えている。

この世界でも、そうだ。アンジェリーカの周りの人たちはやたらと元気だった。エジェオも家庭教師をし始めて、最初の頃に比べるとかなり元気になっている。

それが、何を意味しているのかにアンジェリーカは気づいていなかった。アンジェリーカが無意識で、周りが年齢問わずに元気にしていて、いつまで経っても現役の人生をまっとうすることが幸せだと思っていることで、自分の周りの人たちがそうなっていることに貢献していることに気づいていなかった。

ここに来る前からアンジェリーカは、みんなが幸せになるのに元気なことが1番だと思っていたのは、いつからだったのか。何度やり直しても早く死ぬせいだったのかも知れないが、何にせよ。アンジェリーカは自分が思っている以上に強く願い続けていることが、どこにいても形はどうあれ叶ってきたことを全く知らずにいた。

前の世界で、周りが異常に近く元気だったことも、アンジェリーカがいなくなってから普通になったことも知らずにいた。

それを見て生きてきたからこそ、アンジェリーカはちょっとした体調不良でも学校に行くことが多かった。周りの家族が毎回、元気すぎたからちょっとくらいの具合の悪さなんて、どうにでもなると思っていたことも多かった。

全ての基準がおかしなことになっているものを判断の材料にしていたことで、それが当たり前のことになっていることにも気づくべきだったのかも知れないが、気づくことはなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

【完結】辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~

深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜

侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」  十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。  弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。  お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。  七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!  以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。  その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。  一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています

六花心碧
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった! 『推しのバッドエンドを阻止したい』 そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。 推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?! ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱ ◇2025.3 日間・週間1位いただきました!HOTランキングは最高3位いただきました!  皆様のおかげです、本当にありがとうございました(ˊᗜˋ*) (外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

処理中です...